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死んだはずの最強騎士団長、6歳の天使に若返ったので休暇を満喫します ~目立ちたくないのに『死神級』の魔力で国を揺らしつつ、溺愛に息ができません~  作者: 九条 綾乃


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第2話 魔力鑑定と、爆散する宮廷魔導士長

 ふかふかのベッド。甘く良い匂い。

 そして、俺の顔面を情け容赦なく押し潰す、柔らかな二つの巨大な膨らみ。


「んんっ……すぅ……私のかわいい天使……」


(息が、できない……っ! 誰か、酸素を!)


 昨夜、裏路地でチンピラからカトリーヌを助けた(あくまで不運な事故に見せかけて)俺は、そのまま彼女の狂気じみた母性の虜囚となり、騎士団寮の彼女の自室へ連行された。


『今日から私がお姉ちゃんになってあげる』。


 その言葉通り、俺は一晩中彼女の抱き枕としてベッドに拘束されていた。中身三十歳の元上司に対する尊厳破壊も甚だしい。柔らかくて良い匂いがするのは認めるが、このままでは窒息死というあまりにも情けない最期を迎えてしまう。


 ガチャリ。

 不意に、部屋の扉が開いた。


「カトリーヌ、急で済まない。昨夜、裏街で兄上エドワードの手の者が全滅した件で――って、お前何やってるんだ?」


 入ってきたのは、見慣れた金髪の男。第二王子ルーカスだった。

 彼の手には、微弱な光を放つ魔力探知器が握られている。どうやら、俺の「共鳴のチョーカー」の痕跡を辿ってきたらしい。

 ベッドの上で六歳児(俺)を大事そうに抱きしめて眠る副団長を見て、ルーカスは呆然と立ち尽くしている。


 俺はカトリーヌの腕の隙間から、必死に「助けてくれ」と目配せをした。


「……はぁ。お前、夜になっても隠れ家に帰ってこないし。探知機を見てあきれたぞ。何故よりによって敵の目も多い騎士団のど真ん中にいるんだよ」


 ルーカスが頭を抱えながら小声で呟く。

 物音で目を覚ましたカトリーヌが、俺を背中に庇うようにしてルーカスを鋭く睨んだ。


「ルーカス殿下! この子は私が保護した孤児です! 誰にも渡しませんよ!」


「落ち着けカトリーヌ。お前、副団長の立場で素性の知れないガキを寮に連れ込んだな。エドワード派に『軍紀違反』で訴えられるぞ」


「っ……それは……。ですが!」


 カトリーヌが言葉に詰まったところで、ルーカスは一枚の羊皮紙をため息まじりに差し出した。


「だから、俺が『後見人』として書類をでっち上げてきてやったんだ。いいか、この子はただの孤児じゃない。亡きアルベルトの遠縁にあたる子ということで、俺の推薦枠で入れる『特待見習い』だ。それなら軍紀違反にはならないし、お前が直接指導するという名目で手元に置ける」


(おおっ……!)


 俺は内心、親友にスタンディングオベーションを送った。

 さすが王宮のタヌキどもと渡り合っている男だ。仕事がえげつなく早い。


「団長の、遠縁……!? しかも殿下の推薦……!」


 カトリーヌの目に、再びドロリとした重い光が宿る。

 彼女は「ああ、神様……」と天を仰ぎ、俺をさらに強く抱きしめた。


「やはりこの子は、団長が私に遺してくれた希望……! 殿下、この子は私が立派な騎士に育て上げます!」


「ああ、頼む。ただし」


 ルーカスが真面目な顔を取り繕い、俺に向けてチクリと釘を刺してきた。


「騎士団に子供を置くなら、規定通り『魔力鑑定』が必要だ。第一王子エドワード派の連中も目を光らせているからな」


 その言葉に、俺は血の気が引く思いだった。

 魔力鑑定。


「アル、お前にも言っておくがな」


 ルーカスがカトリーヌに聞こえないよう、さらに声を潜めて俺にだけ伝わるように囁いた。


「魔力鑑定は、せいぜいうまく出力を抑えてコントロールすることだ」


 分かっている。今、魔力制御が不安定な状態で、異常な数値を鑑定水晶で弾き出せば、「無害な子供」どころか「国家転覆レベルの危険物」として即座に第一王子に目をつけられ、処分確定になるだろう。


 ――数時間後。王城、魔導士区画。


「ふん。アルベルト団長の遠縁で、カトリーヌ副団長が後見だと? ガキが見習いとは、騎士団も随分と地に落ちたものだ」


 鼻持ちならない態度で俺たちを見下ろすのは、宮廷魔導士長のゲオルグだった。

 エドワード派の幹部クラスであり、権威と肩書きだけを笠に着る典型的な小者だ。


「さっさと終わらせるぞ。その鑑定水晶に手を触れろ。魔力量と属性が色と光の強さで表示される。……まあ、クソガキなど無色透明のゼロ鑑定に決まっているがな」


 台座の上には、高価な魔力鑑定用の水晶玉が置かれていた。

 カトリーヌが心配そうに俺の背中を押す。


「大丈夫よ、アルくん。お姉ちゃんがついてるからね」


「う、うん……」


 俺は震える手で(半分は演技だが、半分はガチの冷や汗だ)、水晶玉の前に立った。

 どうする。ほんの少しだけ魔力を流して「一般人レベル」を装おうにも、今の俺のバグった魔力回路では「ほんの少し」が「大爆発」になってしまう。つまり、どう足掻いても水晶が太陽のように輝いて俺の正体……『死神級』の異常魔力がバレてしまうのだ。


(……いや、待てよ?)


 俺の頭の中で、三十年間培ってきた戦術眼が最悪の(あるいは最善の)最適解を弾き出した。

 水晶には『計測上限』がある。そして、機械や魔道具は上限を遥かに超える負荷をかければ壊れる。

 ならば、中途半端に「少し流そう」として異常数値を出すくらいなら。

 俺の極限まで圧縮された制御不能な魔力を、一瞬で、許容量の限界を何百倍も超えて叩き込んで、物理的に破壊してしまえばどうなる?

 数値が出る前に壊れれば、それは「測定不能の事故」だ!


(……鑑定事故、いっちょやりますか。俺の念願のニート生活のために!)


 俺は「こわいよぉ」と泣きそうな顔を作りながら、水晶玉にペタッと両手を置いた。

 そして――超圧縮魔力を、水晶のコアへ一点集中で容赦なく流し込んだ。


 ピシッ。


「ん? 何の音だ?」


 ゲオルグが訝しげに眉をひそめた、次の瞬間。


 ピキピキピキッ! カアアアアアアアアアアアッ!!


 水晶玉が、かつて誰も見たことがないほどの極彩色の光を放ち始めた。赤、青、緑、黄、そして漆黒。すべての属性が暴走し、水晶の内側からヒビ割れが走る。


「な、なんだこの光は!? 異常数値だ、計器が壊れ……ッ!?」


 ゲオルグが慌てて覗き込もうとした瞬間。


 パァァァァァァァァンッッ!!!


 爆音と共に、王国の国宝級アイテムである鑑定水晶が、木っ端微塵に爆散した。


「ぎゃああああああああっ!?」


 爆風をまともに食らったゲオルグが、黒焦げのちりちりヘアーになって後ろへ吹き飛ぶ。

 俺はあらかじめ魔力で極小の結界を張っていたため無傷だが、わざとらしく尻餅をついて大声で泣き叫んだ。


「うわあああああん! おじさんが変な石触らせるから、爆発したぁぁぁ!」


「あ、アルくん! 大丈夫!?」


 カトリーヌが血相を変えて飛んできて、俺を抱きしめる。


「ゲオルグ殿! 子供に何という欠陥品を触らせたのですか! もしこの子に少しでも傷がついていたら、私がこの魔導士区画を叩き壊して!更地にしているところです!」


「ち、ちが……わしは何も……不良品などでは……」


 顔面ススだらけで口から煙を吐きながら、ゲオルグはピクピクと痙攣している。

 それを見ていたルーカスが、肩を震わせて必死に笑いを堪えながら宣言した。


「……ゲオルグ殿。国宝の管理怠慢による自損事故、及び騎士団候補生への加害未遂。これはエドワード兄上の耳にも入れねばなりませんな。鑑定結果は機器の故障につき『測定不能パス』ということで、よろしいですね?」


「ぐ、ふ……」


 ゲオルグはついに白目を剥いて気絶した。


 こうして、俺の異常な魔力は「宮廷魔導士長の管理ミスによる水晶の爆発事故」という形で見事に隠蔽された。

 俺はカトリーヌの豊かな胸の中で泣きじゃくるフリをしながら、ルーカスに向けてこっそり右手の親指を立てた。

 ルーカスも呆れた顔で、小さく親指を立て返してくる。


 最強騎士団長の威厳は完全に地に落ちたが、まあいい。

 俺は今日も、無垢な子供の皮を被って、平穏なニート生活(予定)を守り抜くのだ

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