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なぞのこうえんのなぞの人

作者: おだアール

 なぞのその人は、公園のベンチに座って、スケッチブックに絵を描いていました。黒いマントにとんがり帽子、まるで魔法つかいのようです。

 あやちゃんは、ベンチの後ろにそおっと回って、絵をのぞきました。

 いろんな遊具が描かれています。手前にすべり台。向こうには、鉄棒やジャングルジム。パンダやお馬さんの乗り物もありました。

「すごい上手。ほんとにそこにあるみたい」

 なぞの人は振り返って、にこっと笑いました。あやちゃんはぺこっとおじぎしました。

 絵の中に看板があります。

 な・ぞ・の・こ・う・え・ん

 と書かれています。変ですね。本当は「はなぞのこうえん」ですから。はじめの「は」を書き忘れたようです。


 なぞの人は、鉛筆をサラサラとすべらせて、絵を描いていきます。

 ブランコを描きました。元気な男の子が大きく揺らしています。

「あれっ? あっちには、だれもいなかったのに」

 不思議に思ってブランコのほうを見ると、さっきまでいなかった、りくとくんがブランコをこいでいました。


 満開のさくらの木が描かれました。花びらがはらはらと舞っています。

「変なの。いま、夏なのに」

 と思って木に目をやりました。するとどうでしょう。本当に花びらが舞っているではありませんか。赤ちゃんを抱いた女の人が、おどろいた様子で木を見上げていました。

 花を描きました。チューリップ、ヒアシンス、スイセン、どれも見事に咲いています。花壇にいたまいちゃんは、突然咲き始めた花に大喜びです。


 あやちゃんは、絵と本当の風景を何度も見比べました。だって、絵に描いたことが、本当に起こっていくのですから。つぎはどんな不思議が起こるのでしょう。


 なぞの人は、つぎつぎと絵に追加していきます。

 ウサギを描きました。子どもの歓声が聞こえます。ゆいちゃんが夢中になってウサギを追っかけているのです。

 池を描きました。池に橋をかけました。橋の上から身を乗り出している男の子がいます。

「危ないぞう」とおとうさんらしき人。

 観覧車を描きました。観覧車の窓から、みのりちゃんが手を振っています。

 ジェットコースターを描きました。「キャーッ!」絶叫のあらしです。


 富士山を描きました。遠くに富士山があらわれました。ビルをいくつも描きました。ビルがぴょこぴょこと建っていきます。飛行機を描きました。絵のとおりに飛んできました。


 つぎに、なぞの人は、絵全体を薄く塗りました。空がだんだん暗くなっていきます。

 月を描くと、そのとおりお月さんがあらわれました。星々を描くと、満天の空に、星がいっぱいあらわれました。

 打ち上げ花火を描きました。どーんという音がしたかと思うと、空一面に花火が舞いました。

 クリスマスツリーを描きました。公園の真ん中に大きなクリスマスツリーがあらわれました。人々がサンタクロースの格好で歌を歌っています。


 なぞの人は、ここまで描き終わると、今度は、消しゴムで、今まで描いた絵を消していきました。

 クリスマスツリーが消えました。月や星々が消え、空が明るくなりました。ビルが消えました。富士山が消えました。ジェットコースター、観覧車が消え、池が消えました。ウサギ、花壇の花々、桜の花びらが消えました。


 公園の風景は、すべてもとに戻りました。

 気がつくと、なぞの人もいません。ベンチには、スケッチブックが残されているだけ。

 あやちゃんは、絵が描かれていたページを開きました。

 そこに描かれていたのは、ふつうの公園のふつうの風景です。看板の文字は

 は・な・ぞ・の・こ・う・え・ん

 と正しく書かれていました。

 絵の中のベンチに男の人が座っています。黒のマントにとんがり帽子。その人は、絵のこちら側に手を振っています。

 あやちゃんも手を振り返しました。

 絵の中のその人は、にこっと笑ったように見えました。


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