最終話 清掃ロボ・フェスティバル
「――で、これは何?」
珍しくイブの方が呆気にとられて言う
巨大な廃材のゲートを見上げた
手書きの達筆な文字でこう記されている
第1回 人類文化 復興祭典
―企画制作 清掃ロボ連合―
「同僚達が言うには文化祭らしい」
「何それ」
「記録映像を解析すると、文化的行事を何個もやるイベント
清掃ロボたちが、イブを楽しませようと張り切ってこうなった」
ゲートをくぐると、そこは……
文化祭と、お祭りと、クリスマスを新年にやってるようなカオス空間だった
「パン焼き立てデス!」
「メルトレーザーシューティング!スベテ焼き払え!」
「コメをつかってモチつき!ナーニー」
「サスペンス演劇、清掃ロボはミタ!」
……
「ちょっとこれすごいかも」
「人間っぽいことを出来れば良いらしい」
清掃ロボたちは仮装をしている
コウモリのハネが付いてたり、人間の骨のようになっていたり
イブは目をきらきらさせて会場を回る
「見て!恋占いコーナーだって!」
「データ的根拠は無いでしょう」
「でも、ちょっとだけやってみよ?」
入ると文字が印刷された紙を渡された
これは「おみくじ」では?
と人間の人格が思うが、ロボでは判断出来ないだろう
【診断結果:良好】
【近くにいる無機質な存在と、今後深い接続の可能性アリ】
【恋愛:あせらないが良し】
イブがちらりと横目でエイドを見る
「……なんか当たってるかも」
無言で横を向いたが、耳元が冷却不足で赤くなってしまった
演劇コーナーではロボがぎこちなく演じていた
最後の崖から飛び降りるシーンでは本当に窓から飛び降りた
イブが「ヒィ」と言っていたが、まぁ反動防止装置を使えば大丈夫だろう
私もこれより高い所から飛び降りた事がある
――
祭りの終盤
イブとエイドは、キャンプファイヤーの前で並んで座った
メルトレーザーで溶解した「何か分からない物質」が青白い炎を上げている
清掃ロボが閉会の言葉を読み上げた
「本日はご来場ありがとうございましター AI学習によりさらなる向上を目指しマス 次回第2回もご期待くだサイ」
「次回あるんだ……」
「改善の余地は大いにある」
――
しばらく無言で火を見つめる
記憶の中のキャンプファイヤーは赤い火だった気がする
人間の文化に触れていると、人間のライム側の人格が優勢になる
ふと気になりイブに聞いた
「私は何に見えてる?」
イブは、しばらく考えてから、そっと言う
「一緒に笑ってくれる【ひと】に見えるよ」
イブの答えに満足し、ほんの少しだけ隣に近づいた
文化祭は終わり
清掃ロボ達が出店をバラしている音が聞こえる
ふいにイブが言った
「ねえ――キスって、どんなものだと思う?」
内部で検索プロセスが走り結果を出力する
「対象への愛情や信頼の行為」
「そうじゃなくて……エイドはどう思う?」
イブの顔はいつになく真剣に見える
私は覚悟を決めてゆっくりと答えた
「イブに対しては愛情のようなものを感じている……試してみる価値はある」
イブはそっと目を閉じた
そして――
やわらかく、ほんの少しだけ、ふたりの距離が近づいた
――
明日もたぶん、変わらない日々が続く
鳥が飛び、雨が降り、清掃ロボが新たな祭を企画する
世界の中心にはエイドとイブがいる
それだけで、人類の【ぬくもり】は十分だ
終わり
――でもゆるやかな日々は、これからもずっと続いていく