新しいおうち
「今日は何するの?」
朝からごそごそと工具を詰めているイブに声をかける
その横顔は、どこか嬉しそうに見えた
「家を掃除しようかなって」
「家?」
「うん、あそこ」
彼女が指差したのは、裏通りにあるアパート
外壁はボロくなっているように見えるが、建物の形は保っている
「雨風はしのげるし、ベッドっぽいのもあったよ」
「ここじゃダメなの?」
「家っぽい所が良いじゃん」
振り返った彼女の視線の先には、いつもの無機質なドーム
「分かった……専門家も付いて行かないとね」
掃除モードを起動して気合を入れる
――
私たちは廃屋へ向かった
到着するとEVEが手を叩く
「清掃ロボのみなさーん、出番ですよー!」
ひとつ、またひとつ
建物の影やマンホールから這い出すように現れる旧式清掃ユニット
それぞれ、箒、バケツ、補修道具を持っている
「ゴミを トルノは ヨイコト」
「イエは タイセツ」
「エイドとイブは トクベツなヒト」
元同僚達が操り人形のように従っている
「何かいじった?」
「施設から出た時から、言う事聞いてくれる子達なの」
イブには従うように潜在的にプログラムされてるのか?
やれやれという感じで一緒に掃除を始める
掃除は人数が多くテキパキと進んだ
埃だらけの床、割れた窓、くすんだ壁
清掃ロボたちが楽しそうにキレイにしていく
イブは冗談を言いながら、楽しそうに改装している
私は途中で作業を止めてイブを眺めていて
同僚に任せておけば大丈夫だろう
「エイドこっちこっち!見てほら」
彼女が指差した小さな部屋
その中央に壊れたベッド
「壊れてない?」
「ほら座ってみて」
私は指示通り、そっと腰を下ろす
スプリングが悲鳴をあげる音がする
そして、隣にイブがぴたりと座った
「ちょっと近い」
私の顔をじっと見て、数センチだけ離れる
「じゃあ、このくらい?」
「……なんとか」
彼女はかなり人間的な気がする
距離感の設定エラー?
いや違う
これは【私が近い】と感じているのが問題か?
――
しばらくすると、清掃ロボたちは整列していた
イブがひとりひとりの頭をなでていく
「ありがとう またあったらお願いね」
「タノシイ」
「エイドとイブのイエのため」
「おシアワセに」
……どこでこんな人間的な言葉を覚えて来たのか
――
今日はこちらの家に泊まってみる事にした
窓から外を見ると温室ドームが見える
もう、何か懐かしい哀愁のようなものを感じた
ふたりでソファに並んで座る
今日は本物の鳥の声は、聞こえなかった
でも、本当の家に住んでいる感覚に満足して1日を終えた
たぶん、これが本当に【帰る場所】というものなのだろう