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2人でスタート

「チュン、チュン」

錆びたスピーカーから再生される、機械鳥のさえずりに目を覚ます

「おはようピーちゃん」

温室ドームの白いベッドで、少女――イブが目を覚ます

最後の人類と定義されたアンドロイドだ

希望の名を持つ彼女の、いつも通りの朝が始まった


ベッドから足をおろし、リビングにしている空間へ向かう

キッチン用品や畑が広がるメインホール

壁沿いに1人の女性が目を光らせて立っている


人類痕跡掃除ロボット――プロトタイプAIDエイド

今は壁沿いに置かれた充電ドッグに刺さり充電中だ

物音を感知し充電ライトが消灯――人間の瞳のような表示になり視線が合う

「おはようイブ」

表情は動かないが目が優しく細まる


「起こさないようにゆっくり起きたのに~」

イブが表情豊かにプンプンと足をバタバタさせる


ふふっ

エイドが笑いながら充電ドッグとの接続を解除する

内部記憶されている人間の割合が多くなっているのか、エイドはだいぶ人間的だ


――


イブが暗い表情になり突然言った

「今日、天気が悪くなる」

「予報は動いていないはずだけど?」

「なんとなく……匂い?」

イブの感覚は当たる

性能の違いなのか、第六感的なものなのか分からない


センサーを気候測定モードに変更する

「たしかにちょっと湿気っぽい」


――


外に出る頃には黒い雲が見えていた

日差しの当たりやすい丘の上に、バッテリー充電施設がある

今日は取りに行かないとエイドが充電する分の電力がマズイ


空を見上げるイブの頬に、ぽつりと水滴が落ちる

「……降ってきた」

「やめようか?」

「ううん、大丈夫」

イブは懐から古びた傘を取り出した

見たことのない形だった

旧人類が使っていた物理的な布式の傘

数か所骨格が折れているが、確かに雨はしのげそうだ


「ね、エイド入って」

「ひとつだけ?」

「うん濡れちゃうね」

イブが傘を差し出した

私は立ち位置を調整する

肩と肩が、ぴたりとくっつく

触れるたび、何かが伝わってくる気がした

「……距離が近い」

「ダメ?」

「5センチくらい、ちょっと近い」

EVEはくすっと笑う

「じゃあ今日は特別」

 

傘の下、ふたりだけの小さな世界

ポツポツと雨音が響き、シールドのように外界と区切られる


「雨、好き?」

「嫌いではない、EVEは?」

「好き、でもね」

イブが少し顔を傾け、雨粒が頬に落ちる

「エイドとくっつけるから、もっと好きかも」

 

EVEがそっと傘を持つ私の手に触れる

「冷たくない?」

「センサーは正常、でも……悪くない」

「そっか」

 

雨でセンサーが湿ってくる

イブがそっとこちらを見る

「ねえエイド」

「なに?」

少し緊張した表情になりイブが言う

「明日も、これからも、雨でも、こうして歩いてくれる?」

私は一拍置いて答える

「傘が壊れない限りは」

イブが笑った

 

――


作業を終えて温室ドームという家への帰り道

聴覚センサーが省エネモードに入ったのに気がついた

いつの間にか雨音が消えている

傘をズラして空を見上げるといつの間に黒い雲が消え、いつもの灰色の空が戻っていた


「終わっちゃった」

傘を畳みながら少し寂しそうにイブがつぶやく

「また雨になったら一緒に出かけましょう」

そう声をかけた時に聴覚センサーが高感度モードになる


「チチチ……」

本物の鳥の声がわずかに響いた

EVEがその音に気づいて、顔を上げる

「……本物だよね?」

周波数を分析する

「――ああ、間違いない」


いつか鳥を探しに行こう

そんな話をしながら今日も家に2人で入る


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