〜仰天・驚愕〜
空手が終わり、家に帰ると、もう引っ越しは済んでいたようだ。
外はまだ明るいので気付かなかったが、もう7時を過ぎていたらしい。
「親父、サンキューな。」
俺は、俺に気を使ってくれた親父に礼を言った。
「おお、帰ってきたか、瞬。見たか?アレ。」
……アレ?
「何?それ。」
「見てないのか…。ま、見れば分かる!」
…何のことだろう。
俺は居間を出て、正面にある階段をゆっくり昇った。
前の家はマンションだったので、階段は新鮮味があった。
階段を上がりきって、俺は驚愕した。
なんと部屋へ繋がるトビラが5つあったのだ。
「これって、少なくとも5LDKってことだよな……。
うちってこんな金持ちだったっけ……。」
うわ〜、なんか急にリッチになった気分だ。Feel rich! Feel rich!
手前の右の部屋を開けると、空と海がいた。
「おにー!いいでしょー!」
「いいでしょー!」
「おお!良かったな!空、海!部屋貰ったのか!」
大分スッキリしてる。
というか、部屋がデカ過ぎる。正平方で、6m×6mもある。
これが5つもあんのか……。
全面に青いじゅうたんが敷いてあって、奥にはベッドが背中合わせで置いてある。
手前はおもちゃが散乱していて、早くも自分たちの部屋で遊んでいた事が丸分かりである。
「じゃ、プラ◯ールやるときは気をつけろよ?」
「はーい!」
「はーい!」
俺はそう言うと、空&海'S Roomをあとにした。
その隣の部屋は、詩音の部屋だった。
女の子らしい。壁紙はピンクで、花柄だ。
それにしても、片付いている。
左手前の部屋は、信二の部屋だった。
うわ〜、我が弟ながら、大人っぽい趣味。
畳に囲碁板。座布団、奥にはふすまもある。THE 和だ。
「何ジロジロ見てんだよ。」
「いや〜別に。」
「じゃ〜早く出てけよ。あ、つーか兄貴アレみた?」
「アレ?なんなんだよ、アレって。」
「見てねーのか……、じゃ、いいや。」
ったく、もうすこし性格が良ければ完璧な人間なのに。
あ、でもコイツも親父と同じで俺に気ィ使ってくれたな。
感謝、感謝。……それにしても、弟に気を使われる俺って…。
その隣はお袋と親父の部屋だった。
「ここが俺の部屋か。」
入ってみると、一番小さい部屋であった。
ベッドと勉強机、本棚を、スキマなしに置いてある。一辺が5mもない。
「……。まさかこれがアレ……ってこたぁねえよな…。……ん?」
俺は本棚と勉強机の間のトビラに注目した。
開けてみると、下り階段がいきなりあり、ここでも驚愕した。
まるっきり外だが、縁側のようになっていて、普通に素足で行けた。
「何があんだろ?」
縁側廊下を進んで行くと、別館にたどりついた。
一般人の家に別館て……。
俺は三度目の驚愕をした。
そして、四度目の驚愕は別館の中に入った時だった。
「でっけぇぇぇぇぇ!!!!」
そこは体育館のようであった。
といっても、けして大きな体育館ではない。せいぜい20m×20mくらい。
でも一般人の家からしたら仰天物である。
しばらくあっけにとられ、体育館に腰をついていたが、
後ろに人がいるのに気付いて、振り返った。
「どうだ!これ!」
得意そうな顔をしてるのは親父であった。
俺がどうしたんだよコレ、っていう顔をしていると、親父は
「お前の金で作ったんだ!」
と言った。
しばらく考えていたが、急にその意味が分かった。
俺は関東大会を六連覇している。
関東大会の出場者は毎年500人以上。
その頂点に立つものは十分な賞金がでるハズだ。
しかし、俺はそんなものを見た覚えも、聞いた覚えもない。
そうか、ここにつかったのか。
「…俺の六連覇でどれくらいになってたんだ?」
俺はその額に興味がわいた。親父は満面の笑顔でこう言った。
「一回の優勝で100万だからな、600万だ。」
600万……。
たしかにすごい額だが、これではとても個人宅に道場を作るなどできない。
と、思っていたら、親父が続けて言った。
「全空連(全日本空手連盟)に直接相談しに行ったら、すごいまけてくれてさ。
『期待の超新星に期待しましょう!』だってさ!ハハハッ!」
おお、全空連様。ありがとう。
そしてその期待に応えるべく、ここでもっと頑張ります!
「ここで練習は自由にして良いぞ。
だが、練習も良いが、明日から学校だからな。」
…………学校!?
瞬 :全空連様…、直接お礼を言いたいくらいだ。
ドロン!!
全空連:じゃ、お礼を貰おう。
瞬 :いろんな意味でまた驚愕!?