〜高前優牙〜
「……何してんだ?内山。」
ふ〜ん。このデカブツ、内山って言うのか。略してデカヤマ…なんちって。
と、そんなことより、
「優牙さん、何でこんなトコにいるんですか??」
「ふっふっふ、驚いたか?」
驚くも何も、まだ信じられない始末だ。
この人は「高前 優牙」。俺のいとこにあたる。
高校二年生で、空手五段という豪傑だが、ゴリマッチョという体型ではない。
あえてマッチョをつけるなら今話題の細マッチョがぴったりである。
優牙は高校一年のとき、すでにインターハイで優勝。今年も優勝という、二連覇である。
そもそも瞬が空手を始めるキッカケとなったのが、この優牙だったのだ。
あれ?でも優牙さんには俺んちの引っ越しなんか一切ゆってねーよな……
ましてや東京で空手の強豪を育てる講習の師範になっていた優牙さんが、なんでこんなトコにいんだよ…。
「優牙さん、東京の講習はどうなったんです?」
「あ、アレ?あんなの真っ赤なウソだよ!」
ウソ…て………この人は……。
「俺、ここの道場で空手を始めたんだよ。
初めてすぐ、引っ越す事になったんだけど。
でも空手の面白さはココで教わったようなもんだからね。
ここの師範が旅行に行ってる間、師範「代理」を任せられる事になったんだ。」
「…………。」
「つーか、瞬。お前内山と組手したのか?」
「はい。超弱かったッスけど。」
横目でデカヤマを見ながら、「超」にアクセントをつけてやった。フン。ざまーみろ。
「へー、強くなったねー、お前も。
内山はココの道場じゃ一番の腕の持ち主なんだが。」
……ということは、ココの門下生は全員俺より弱えーってことか、なんでぇ。
「師範代理!俺は負けてねーッス!!」
内山が優牙に食いかかる。
「まぁまぁ、気を落とすな内山。瞬は東京じゃ「神童」とか「天才」とか言われてんだ。
元にコイツは関東大会で五連覇してんだぜ?」
「六連覇です。」
道場に衝撃が走る。
「ろ……く?」
「それだけじゃねー。コイツは組手だけじゃなくて、型も一級品だ。」
型………、それは空手の基本のことだ。その種類は50以上もある。
「そんなにほめないでください。返ってプレッシャーですし、そこまで上手くもないですし……。」
謙遜しとけ、瞬。しょっぱなっからウザいキャラなんかにゃなりたくねーし。
「くっ……、やい!チビ!こんどはぜってぇ負けねーからなあ!!」
デカヤマがなんか遠吠えしてるよ……。ま、いいや。
「じゃ、そろそろ練習終わるか!!」
優牙がパンパンと手を叩く。全員しぶしぶと道場を出る。
その時のみんなの視線がやたら痛かった。
………特にデカヤマが……。
内:デカいっつーけど、そんなでけーか?俺。
瞬:態度がな……。
優:言えてるぜ。