〜熱中〜
笛が鳴る。
とりあえずさっさとやって道場に行きたいが、
早くかつ、ヘタクソにやらなければいけない。
例えばシュートをわざとインサイドキックで行うとか。
いくらなんでもキーパーはキーパーだし、ゴロシュートくらいとれるだろう。
しかし、人数が本当に少ない。
サッカーは11人でやるスポーツだが、合計8人しかいないではないか。
そこに俺らが入っても10人である。
相手はレギュラー………と言っても実力がまだマシなメンバーの塊。
拓也は2年なのに3年を従えてキャプテンをしている。
こっちは数少ない1年生と、雑魚あて。
5:5でやるサッカー部なんて、初めて見たよ。
「じゃ、先攻どうぞ!」
拓也が俺にボールをパスする。
俺がわざととりこぼすと、信一はそれをカバーしてくれた。
「信一!二人で速攻だ!パスパス!」
俺は、サイドを走る信一の後ろで、ゴールに向かって走る。
信一が的確なパスを出してくれた。やっぱ上手いんだな。信一。
ここで外したら信一に申し訳ないと思い、仕方なく、思いっきりシュートした。
と言っても、ど真ん中である。当然キープされた。
「どんまいどんまい!」
一年生が俺らに応援をかけてくれる。それはいいけど、お前らも動けよな…?
信一がこっちによってくると思ったら、突然めちゃめちゃ怖い顔をして、
「……ちゃんとやれよ…瞬。」
と言った。
「ごめんごめん。でも、だから言ったろ?俺めちゃヘタクソだって。」
「……ちがう。お前すごい上手いのに、わざとテキトーにやってるだろ…。」
ギクリ
「…このサッカー部、みんなヘタクソだけど、みんな一生懸命やってる。……お前、失礼だぞ…?」
「……分かった分かった。」
信一…怖えー(汗)
ここまで言われたら、本気でやるっきゃないか。
つか……ここのサッカー部ほんとヘタクソ……。
並以下だな…言っちゃ悪いが。
俺が相手のボールをカットすると、そのまま連続フェイントをかけて、一気にゴールの方へ抜けた。
「いけー!シュートだー!」
だけど俺はノーモーションで、ゴールとは逆の方向にボールを運んだ。
…キーパーがこちらに気を向きすぎて、逆の存在を完璧に忘れていた。
逆には、信一が走っていた。
信一はボールを貰うと同時にゴールに滑り込ませ、点を入れた。
「ナイスっ!信一!」
「……やっぱし、上手いな……。」
他のチームメンバーは唖然としていて、そのうち口々に
「あんなシュート初めて見たよ。」
と言い合っていた。………お前らどんだけサッカーできないんだよ。
「すげーすげー!!お前ら息ピッタリだな!」
拓也が俺らの方に駆け寄ってきた。
「あのさー拓也、俺、やっぱ入んのやめとくわ。」
「…………俺も……。」
「……えっ…?」
「俺、空手が趣味なんだわ。それに、今回のは……マグレっていうか…。」
「………瞬が入らないなら…俺も入らない。」
「………そっかぁ。」
しーん
うわー、どーしよ、この空気。マジ。
めちゃくちゃ、きまずいんだけど………
「いや、来てくれただけでもありがとうだよ。あんなプレー実際に見たの初めてだし。
うちの部員にも、いい薬になっただろうし。」
……じーん。拓也、お前ってヤツは………イイやつだな。
その時、練習場のフェンスが大きな音を立てて開いた。
「………まだ廃部にする気ないの??」
制服をキチっと着た集団の、気の強そうな女が冷たく言い放った。
瞬:拓也は実際の所サッカーどれくらいうまいの?
拓:俺?……並。
信:…………。