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第38話 たまには頼れる父親

 通話を終えるとすぐにメーベルさんは第三回目の告知をした。炎上しているさなかの行動と言うこともあって、SNSは非常に盛り上がっている。


『銀河聖夜って誰だ? メーベルの男?』

『売名目的か?』

『アーカイブ見たけど学生っぽいぞ』

『また被害者が一人生まれたのか』

『見た、見た。会話からして高校生か大学生っぽいな。もし未成年だったらガチでやばいぞ。親は何をしているんだ』

『黙ってやってるんだろ。じゃなきゃ絶対に許さない』

『内容次第じゃ即通報だな。待機しておこう』


 最悪は俺のほうにも攻撃が来ると思ったんだけど、俺が未成年かもしれないと広がっていて、やや同情的だった。注目度が上がっているようで最後のコラボ配信の同接数は過去最高を記録すると思う。こんな形になってしまったのが残念だけどね。


 また俺のSNSアカウントには大量のDMも来ていた。


 前回みたいに心配してくれる声は少数で、残りは俺の正体を探ろうとする人や誹謗中傷、中には「学校を特定した。通報されたくなければコラボを即刻中止しろ」なんて声もある。


 通報されたところで悪いことをしてなければ問題にはならない。プライベートで配信していることは気にする必要はないだろうけど、本名まで晒されたら家族に迷惑をかけてしまう。


 その一点だけは避けたかった。


 俺が思っていた以上に炎上が過熱しているので、VTuber活動を知っている父親にだけ、改めて相談することにした。


 * * * * * *


 引っ越してから初めて書斎に来た。


 デスクと椅子、ノートパソコンぐらいしかないシンプルな場所だ。書斎に入ると背を向けていた父親はくるりと椅子を回転させて俺を見る。


「例の件で話したいことがあるんだ」

「メーベルって子のことだろ? いい経験になるだろうし楽しめよ」


 グッと親指を立てられてしまったけど、そいういうことじゃない。


 相変わらずノリが軽いな。

 

「知らない人から高校を特定したって連絡が来たんだ」

「退学になるんじゃないかって心配してるのか? アーカイブは全部チェックしているが、問題発言はしてないから大丈夫だぞ。心配するなって」


 ………………ん?


 いやいや! ちょっと待って! 俺の配信みてたのかよっ!


 家族が見てないと思って話していたから恥ずかしい。顔が真っ赤になる。


「二度と見なくていいから」

「そうはいかないだろ。親なんだからさ」


 そう言われたら言い返せない。いつもは軽いクセにこういう時だけ真面目なのはずるいぞ。


「じゃあ俺の前で見ていることは言わないで」

「わかった。で、話は終わりか?」

「もう少しだけある。心配しすぎかもしれないけど、俺の個人情報がネットにばら撒かれたら、みんなに迷惑をかけちゃうかもしれない。それは避けたいから、父さんがコラボ配信を中止しろというなら言う通りにするよ」

「相手に迷惑をかけることになるぞ?」

「メーベルさんも理解してくれる」


 一部の例外を除いて、VTuberはリアルの情報を隠しておくものだ。手や足、体ぐらいまでは晒しても顔や名前は出さない。じゃなければなんでVの体を手に入れたんだって話になるからね。


 そういった事情もあるので、学校名や名前の晒される危険があると言えば、この前の通話から状況が変わったと察してメーベルさんも納得はするだろう。


「ダメだ。約束は守れ」

「でも、みんなには迷惑をかけるかもしれない。本当にいいの?」


 ふぅとため息を吐いた父親は立ち上がって俺の前に立つ。肩に手を置いた。


「脅してきた奴らのアカウントは俺の方が対処する。心配するな」

「何するの?」

「金のパワーを使う」


 そういえば再婚して家はお金持ちの一員になったんだった。お金があまりなかった今までと違って、対処のしようはある。


「弁護士に依頼するの?」

「だな。優希のSNSアカウントにログインしてもいいか?」

「いいよ。パスワードは変えてないから」


 VTuber活動をする際、動画配信サイトやSNSのアカウント情報を共有していた。


 父親はいらないとは言っていたけど、何かあった時に説明が楽だと思って強引に押し付けていたのだ。その後は何も言われることはなく、またログインされた形跡はなかったので教えていたのを忘れていた。


 まさか役に立つ日がくるなんて思わなかったよ。


「おお。DMがたくさんきているな。ヤバイのはどれだ?」


 父親が自分のスマホを操作しながら聞いてきたので、個人情報を特定したからコラボを中止しろと言ってきたアカウント名を教える。


「内容的に脅迫に近いな。弁護士経由で警告するとして、それでも無視して動こうとしたら情報開示だな」

「それでいいの? 相手が暴走して俺の個人情報を出したらどうする?」


 情報が一度でも出てしまったら消すことはできない。一生残り続けてしまう。それをわかっているのだろうか。


「この家のセキュリティを舐めるなよ。不審者が来たらすぐに警備が飛んでくる。最悪引っ越せば良いんだし、子供が気にするんじゃない」

「美紀恵さんや舞依さんに迷惑をかけるよ?」

「家族なんだから気にするな。俺たちの関係はそんな薄っぺらくない」


 頭に手を乗せられるとグリグリと撫でられた。


 自慢げに言っているけど、全ては美紀恵さんのおかげだ。父親は何一つ貢献していないのに態度だけはでかい。それでもちょっとだけ嬉しかった。


「小学生じゃないんだから」


 手を叩いて逃げると父親を見る。


「舞衣さんにはしてないよね?」

「……」


 急に黙って視線を横にずらしやがった!


 絶対にやったな!


 血のつながった娘ならともかく、義理なんだから節度を持って接しないといけないのに。デリカシーがないからイライラしてくる。

 

「女性は髪が乱れるの嫌がるから今後はしないでねッ」

「忠告は受け取っておく」

「本当に頼んだから……」


 父親に対してモヤモヤした気持ちを抱えながら、この場は終わらすことにしたけど、もし現場を目撃したら頭を叩いてやる。


 そのぐらいの熱量が今もあった。

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