表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/43

第32話 レースゲーム実況

 二回目のコラボ配信の日が来た。


 今日は有名キャラクターがカートに乗ってレースするゲームをしている。


 妨害用のアイテムを投げつけ、順位を争う行為は、普通に遊んでいるだけでも様々なイベントが生まれていく。


「絶対に負けないんだから! 逆転するよっ!」


 最下位から一気に順位を上げようとしたメーベルさんは、妨害アイテムを使ってからショートカット用の道を進む。ジャンプ台があって、うまくいけば上位に入れるんだけど……。


「うぁぁ!! ミスしちゃった~~!!」


 勢いが足りなかったみたいで、カートごと飛んだけど途中で落下してしまう。完全なコースアウトだ。


 ショートカットの入り口にまで戻されてしまうけど勝利は諦めていないみたい。


 ゆっくりと走り出してまたショートカットコースに入ろうとして、一位がゴールしてしまった。


「だぁぁ! 負けちゃったーー!」


 メーベルさんの叫び声を聞きながら俺は三番目にゴールへ到着する。


 可もなく不可もなし。面白みのない結果だ。


[メメ:勝利だね! おめでとー!]

[キラキラJD:あとちょっとで2位になれたね]

[ワカメ:3位ならOKOK]


 コメントをしてくれたけど無難な内容だらけ。大きな盛り上がりはない。


 一方でメーベルさんのリスナーはすごかった。


[ほのぶー:ショートカットミス乙w]

[無課金戦士:男のケツを追うのは得意じゃなかったの?www]

[ふつき:むしろメーベルが迫ってくるから、スピードアップした説がある]


 ちょっと下品で攻撃的だけど盛り上がってはいる。


 傷ついてないか気になったけど、二人の個別チャットに『もっと盛り上げていこうか』と、メーベルさんの書き込みがあったから大丈夫だろう。


 イジメにもなりかねないコメントすらイジりとして扱う。


 これがプロか。もしかしたらショートカット失敗したのも、配信を盛り上げるためにわざとなのかもしれない。無邪気さの裏の計算とは。恐るべしメーベルさん。


「うっさいな! 私はモテるんだよ。ねー、聖夜くん?」

「え、そうだっけ?」


 配信スキルに感心していたら思わず素で返してしまった。


 何も考えてない言葉だったので失敗したと焦り、顔に汗が浮かぶ。助けを求めるようにコメント欄を見る。


[ふつき:聖夜くんすら否定してるじゃんw]

[円:メーベルさん。俺の胸で泣いても良いんだよ]

[メメ:聖夜くんの好みじゃないからねー!! 当然だよっ!]


 両リスナーの反応は意外と悪くなかった。


「見る目ないなぁー!」


 笑いながらメーベルさんも話題に乗ってくれている。昔からいる古参リスナーが、彼女がいかにモテないかを語り出してさらに盛り上がっていく。俺も楽しい空気に当てられて笑ってしまった。


 けど彼らは知らない。


 裏では色んな男性VTuberを性的に食べているのを。


 だから本心から楽しむことは出来なかった。


「よーし次は勝つぞ!」

「俺も負けないからね」


 次のレースが始まったので会話を中断して画面に集中する。


 今度は一位になって配信を盛り上げるんだ。


 かつてないほどの集中力によってスタートダッシュが成功する。


「うぁぁぁっ! またビリだ!」


 逆にメーベルさんは失敗してしまい、スタートから大幅に遅れてしまう。


 それを見てコメント欄が盛り上がって、俺のリスナーすら楽しんでいるようだ。女性VTuberとのコラボを反対していた人たちも好意的な書き込みをしている。


 俺たちはプロゲーマーじゃないんだから、稚拙なテクニックで一位になるより、どうやって盛り上がるのか考えて行動するべきだった。トークスキルだけじゃなく、こうすれば盛り上がるという嗅覚がすごい。


 自由奔放な性格は嫌いじゃないし、一緒に配信していると好感度がぐんぐんあがっていく。


「それじゃメーベルさんを周回遅れにさせましょうかっ!」

「言ったなぁ!」


 宣言したのだから実行したい。


 リスクのあるショートカットコースを使って一位を取り、さらに相手をスピンさせるアイテムを手に入れる。


 準備は出来た。


 ちらりと順位状況を見るとメーベルさんはビリのままだ。空気を読んでくれているのか大幅に遅れていて、しばらく走るとカートに乗っている姿が見えてきた。


 早く投げて。


 彼女の背中が語りかけているように思える。


「いけ~~~っ!」


 アイテムを投げると、狙い違わずメーベルさんのキャラクターに当たった。


 クルクルとスピンして止まったので、わざとぶつかって弾き飛ばしてコースアウトさせる。


「ひっどいー! 鬼だー!」


 文句を言っているけど楽しそうだ。


 すぐにゴールしたのでコメント欄を見る。


[メメ:聖夜くんナイス!]

[ほのぶー:意外と鬼畜だw]

[無課金戦士:後続のCPUキャラにも飛ばされてるけど、ゴールできんの?w]

[キラキラJD:女性Vにも手加減しないの最高っ!]

[ふつき:今日はメーベル嬢のいいところがいっさいないw]


 よかった。


 初めて意識して盛り上げてみたけど上手くいったみたいだ。


 残されたメーベルさんは、必死にキャラクターを操作して走っている。最後まで諦めずに時間をかけてゴールすると最終順位が発表される。


 おれは2位で最下位がメーベルさんだった。


 当然のように悔しがるアクションをして、コメント欄がさらに盛り上がる。


 面白い配信とは何か。


 俺は今日、一つの正解を見た気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ