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第29話 舞衣:女の恐ろしさ

 笹木先輩はすぐに動いてくれた。というか、証拠はすでに集め終わっていたみたい。


 オフコラボの後、男性VTuberがホテルに誘っているチャットのスクリンショットが何枚も送られてきた。でもこれは会話の一部を切り取っただけであって、メーベルさんの会話テクニックによって相手を誘導しているみたい。


 しかも教えてもらったとおり、行為も確実にしていた。

 裸の写真が送られてきたから勘違いじゃない。

 なんで笹木先輩は、こんなの持っているの……。


 ちなみに写真に写っている男性はメーベルさんが気に入らない態度をしたらしい。彼女から「無理やり襲われた」と公言されたくなければ、金を払え、従わなければ活動停止にまで追い詰めると言われたらしい。


 性行為に対して世間は女性に同情的になりやすい。人気商売であるVTuberでは致命傷になりかねないので、男性VTuberは素直にお金を払って関係を終わらせた。


 これがメーベル・クロツェルの正体だ。


 関係ない人を脅す分にはどうでもいいけど、聖夜くんを狙うのであれば絶対に許せない。


 実際の年齢は30代半ばらしく、いい大人が何をしているんだと思う。


 彼女が優希くんに手を出したら未成年淫行で捕まるだろうけど、貞操の危険が迫っているのに見逃すことなんてできない。予定通りに動こう。


 まずは証拠をまとめて聖夜くんのアカウントにDMで送ると、すぐに返信が来た。


 要約すると「会ったとしても誘わないから大丈夫。心配ありがとね」といった内容で、危機感がまったく足りていない。女の恐ろしさを理解していないのだ。


 これじゃダメ。義妹として一肌脱がなきゃ。


 陽葵が優希くんを誘惑しているような写真を私が撮影して、でっち上げの恐怖を教えてあげる。


 これで直接会おうなんて想わないはず。


 VTuber関連のことをぼかしながら陽葵に協力するよう連絡して、すぐ実行することにした。


 * * * * * * 


 聖夜くんにDMを送った翌日の放課後、陽葵は優希くんを空き教室に呼び出した。中には二人しかいない。


 私はドアにある窓から様子を確認している。


「話があるって言ってたけど何かあったの?」


 随分と仲が良くなったみたいで、優希くんは警戒心なんてなく陽葵に問いかけた。


 気持ちがざわつくけど今は黙って様子を見るだけに留める。


 作戦成功の方が優先度は高いからね。


「最初はさぁ。舞依を狙っているどこにでもいる男だと思っていたんだけど」


 質問には答えず勝手に語り出した陽葵は、ゆっくりと近づいて優希くんの前に立つ。人差し指で顎を触った。


 本気で誘惑しているように見えるけど気のせいだよね……。


 緊張しているみたいで、優希くんの体は固まっていて逃げるような素振りはない。


「でも実際は違った」


 さらに陽葵はぐいっと距離を詰める。


 ちょっと近すぎない!?


 顔が触れそうなぐらいなんだけど!

 軽く誘惑するだけでいいといったじゃない!

 誰が、そこまでやってとお願いした!


 それに優希くん! なんで顔が赤くなっているの! そこは突き放さなきゃダメじゃない!!


「それが面白いと思ったんだ。ねぇ、私なんてどう? お試しで付き合ってみない?」

「知り合ったばっかりだし、考えられないよ」


 即答した優希くんは偉い! 最高!


 陽葵もさっさと諦めて!


「時間の長さなんて関係ない。濃度が重要じゃないかな」

「下駄箱を一緒に監視しただけ。濃い時間を過ごしたわけじゃないよ」

「私はそう思わないかなぁ~」


 陽葵の体が密着すると、優希くんは机に押し倒された。


 私の力に耐えかねてピシリと窓ガラスにヒビが入る。


 髪が垂れて二人の表情が見えない。


 このまま顔が近づいたらどうしよう。


 キスしたときを想像すると怒りと悲しみがこみ上げてくる。初めての感情に振り回されっぱなしで、どうすればいいかわからず頭は真白だ。とりあえず窓をたたき割っちゃえばいいのかな!?


「ち、近くないですか?」

「そう? 私はもっと近づいてもいいけど」

「冗談は止めてください」


 優希くんが上にいる陽葵を押すと、抵抗せず、わざとらしく後ろに数歩下がってから仰向けになる。


「だ、大丈夫!?」


 やさしい彼は慌てて近づいちゃった。腕を掴まれて引っ張られ、陽葵の胸に顔が埋まる。


 だーかーらー! そこまでやって良いと誰が言った! やりすぎ!


 なんで直接触れているの!?


 ムカつく。


 数枚、スマホで二人の姿を写真に収めると、勢いよくドアを開く。


「舞依さん!?」


 驚いている優希くんを無視して大股で歩いて二人の前で止まる。


「これは! 違うんだ!」

「何が違うんですか? 押し倒していますよね」

「事故で――」

「ならすぐに離れるでしょ? ずっとくっついているのはおかしいです!」


 先ほど撮影した写真を見せると優希くんは黙り込んでしまった。


 私の言葉に反論できないみたいだけど、顔が上がって陽葵の胸からは離れてくれた。


「この写真をクラスチャットに流したらどうなるかわかります? みんな、優希くんが襲おうとしたって思いますよ」

「そんなこと、しないよね……?」

「ええ。私はしません」


 悪意ある女性なら脅しに使ってくるから気をつけてと言って終わらせる予定だったんだけど、陽葵が邪魔をしてくる。


「舞依はこわいね~」


 優希くんを逃がしたくないようで、頭を抱きしめて再び胸に押し込む。


 さらに私に対して悪意ある笑みを浮かべてきた。


「私はちゃんと弁明してあげるから安心して」


 赤ちゃんをあやすように頭を撫でながら、聞いたことがないほどの優しい声で言った。


 怒らせるために、わざとやっているんだ。


 目的はなに?


 考えてもわからないけど、このまま挑発にのったらダメなことぐらいは理解している。


 怒りの言葉を飲み込んで深呼吸をして心を落ち着かせる。


 うん。大丈夫。私は冷静だ。


「離しなさいっ!!」

「いだっ!?」


 先生に見つかると良くないからとりあえず離れなさい、って言うつもりだったんだけど。


 おかしいな。気づいたら上履きで思いっきり陽葵の太ももを蹴っていた。しかも五回ぐらい。


「ごめん! ちゃんとやるから! やめて!」


 さらに数回蹴ると、ようやく陽葵は優希くんを離した。


 私も攻撃を止める。


「大丈夫? 苦しくなかった?」

「陽葵さんが痛がっているけど……」

「そんなことないよ。気のせいだって」


 何か言いたそうな優希くんの手を取って立ち上がらせる。


 陽葵も続いてきそうだったので睨みつけると止まった。相談なく計画外の行動をしたことは反省しているみたいで、黙ったままなので置いていって空き教室を出る。


 手を繋いで廊下を歩くと階段下の誰も来ない場所まで移動した。



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