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第26話 初のコラボ相手

「優希くんは、どうしてこんな質問をしたの?」


 声でバレてしまうかもしれないので舞依さんに配信をしていることすら伝えられない。


 心苦しいけど嘘を吐くしかなかった。


「早いかもしれないけど進路をどうしようか悩んでいるんだ。大学へ行くにしても何を専攻しようかなって」

「全然早くないよ! 有名大学に行くなら今から準備するべきだしね! それでどうするか決まった?」

「ううん。まだ、かな。もしかしたら進学しないかもしれないし」

「え!?」


 大学に行くのが当たり前だと思っていた舞依さんは、俺の発言に驚いていた。


「もしかしたら趣味を仕事にするかもしれないんだ。そうしたら別の道を選ぶよ」


 今は底辺の個人VTuberだけど、少しでも有名になれたら仕事として活動することも視野に入る。話している最中に思いついたことだけど、なんだかしっくりときた。


 もちろん、すごくリスクのある選択をしようとしているのは理解している。けど俺は高校一年なんだ。夢ぐらい見ても良いじゃないかという気持ちもあった。


「趣味……そっか、優希くんは本気なんだね」


 詳細を聞かれるかもと警戒していたけど突っ込まれることはなく、しみじみと言われてしまった。優しい眼差しを向けられていて、自分の選択が子供っぽいんじゃないかって感じてしまい恥ずかしい気持ちになる。


 夢を追うなんてやめて現実を見るべきだ。


 もう一人の俺が誘惑してきたから黙れと叱っておいた。


 仕事になるぐらい有名VTuberになれるかわからないけど全力で頑張るんだ。選んだ道を正解にするんだという気概や根性がなければスタートラインにすら立てない。それがVTuber業界なんだよ。


「うん。本気だよ」

「少なくとも私は応援しているね」


 何をするのかわからないのに味方でいると言ってくれた。美人そう言われてヤル気の出ない男はいないだろう。少なくとも俺はそうだ。無限の力が湧き出てくるような気がしてきて、成功するイメージしか湧かない。


 やっぱり俺って単純なんだな。


 ソファから立ち上がって舞依さんを見る。


「相談に乗ってくれて助かったよ。ありがとう」

「ラブレター事件でお世話になったからね。お互い様だよ」


 俺らは柔らかい笑みを浮かべ、いい雰囲気だ。


 舞依さんを狙っている男なら別の話題を振って会話を続けると思うけど、そういった関係になりたいわけじゃないのでここで終わりである。


「それじゃまた明日」

「うん」


 小さく手を振ってから離れるとエレベーターに乗って部屋に戻る。


 スマホをチェックするとSNSのアイコンに通知が一件来ていた。アプリを開いて内容を確認するとコラボ配信のについてでった。数十人に無視されてようやく返信が来たのだ。


 興奮と緊張で手が震えている。


 相手が誰なのかプロフィールを見るとフォロー数が数百人ぐらいのVTuberだった。俺と同規模ぐらいなので釣り合いは取れている。数時間点で文句を言ってくるリスナーはいなさそうだけど問題が一つあった。


「女性かぁ……」


 SNSに投稿されたショート動画やライブ配信のアーカイブをチェックしていたので女性なのは確定。検索して調べてもボイスチェンジャーを使っているという情報は落ちていない。ネットに転がっている噂話を統合しても、中身が男って可能性は低そうだ。


 キラキラJDさんは男同士のからみが見たいと言っていたなぁ。


 要望を叶える必要はないんだけど、初手から裏切ってしまうことがちょっとだけ気になっていた。


「ただこのチャンスを逃すわけにはいかない」


 彼女――メーベル・クロツェルさんは知り合いのVTuberがすごく多い。ライブ配信のアーカイブには数十のコラボ動画があった。相手の性別は8割が男性で、残りは女性といった感じ。やや偏りがあるように思えるけど俺にとっては好都合だ。


 異性のコラボ配信を嫌う、ユニコーンと呼ばれる存在を気にしなくていいからだ。


 もしかしたらメーベルさんはコラボ相手に困っている男たちを救うため、わざと偏らせているのかもしれない。


『返信ありがとうございます! 本当にコラボを引き受けていただけるのでしょうか?』

『もちろんー! 聖夜くんの声、ばちくそ好みだからね★』


 初対面なのにノリが軽い。これがコラボするための秘訣なのかな。


『ありがとうございます!』

『本当だからねー! すっごく好み! 詳細を詰めたいから通話しない? 今すぐでも大丈夫だよ!』

『この後は予定があって、明日以降なら大丈夫ですけど』

『なら明日! 夜の22時頃とかどうかな?』


 カレンダーのアプリを立ち上げて予定を確認する。夜は何もない。家族も通常通りだから急なお出かけは発生しないだろう。


『いいですよ。その時間でお願いします!』

『決定だね! DiscoreのIDはMabelCrotzelだから登録しておいてね! 明日通話しましょ!』

『はい!』


 VTuberがよく使うチャットと通話が出来るアプリのIDを教えてもらったので、早速フレンド申請を送ってみると承認された。アイコンはSNSと同じでピンク色の髪を垂らして、目がハートマークの女性だ。神官という設定らしく法衣服らしきものを身につけているんだけど、小さな画像にはそこまで表示されていなかった。


 明日、メーブルさんと通話する。


 コラボの話がまとまれば俺のVTuber人生は大きく変わりそうだと思った。

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