第25話 過去の決意を思い出す
配信を終えてから俺はすぐに動き出した。
SNSで個人VTuberをフォローすると、コメントやいいねをして存在をアピールいく。さらにはハッシュタグを使ってVTuberが好きな人たちの目にとまるよう動いてみた。
恥ずかしくて今までやってこなかったことだから、どんな変化が出るのかドキドキしながら待っていたけど、三日、一週間と経過してもフォロワー数と投稿に対する反応が増えただけで他は何も変わらない。
特にアーカイブの再生数、ライブ配信の同接数は上がるどころかやや下がってしまった。
配信スタイルを変えてゲーム実況をしてしまったせいだろう。
このまま路線変更を進むべきか、それとも元に戻るべきか。
気持ちが揺れている。
唯一の希望があるとしたら、常連リスナーの三人は相変わらず配信に来てくれていることだ。しかも俺の意図をくんでくれているのか身内ネタはかなり減っていて、メメさんもあの時以降は調子を戻しているようで元気にコメントしてくれている。
そのおかげで何人か新規のリスナーも増えたけど、減る量が多いので焼け石に水みたいな状態で申し訳ない気持ちになった。
俺の完全な実力不足だ。
SNSで他VTuberに挨拶のコメントをしていても上辺の関係だけで空しく感じる。コラボのお誘いなんてできる空気じゃない。
一体何をしているのだろうか。
俺の選択は間違っていて今すぐ後戻りしなければいけないんじゃないだろうか。
疑問ばかりが浮かんでしまって好きだった配信にも身が入らない。
配信ボタンを押すのが少し怖くなっている。そう気づいたとき、俺の精神は限界に達しようとしていた。
一人じゃ解決できない。助けて欲しい。でも誰にも言えない。
友達を作らなかったために相談できる相手がいないのだ。
孤独に耐えるのも限界がある。
リビングのL字型のソファでくつろいでいる舞依さんを見たとき、ダムが決壊するかのごとく不安が流れ出てしまい、感情は止まらなかった。
「少し話してもいいかな?」
俺が声を出した瞬間、舞依さんの肩がビクンと跳ねた。
髪を整えながらこちらを向いてくれる。
「は、は、話って何でしょうか!?」
「たいしたことじゃないんだけど、舞依さんならどうするかなって聞きたかったんだ」
立ったままだと失礼かなと思って、ソファの端っこに腰を降ろす。一メートルも離れていない。距離は近く顔がよく見える。
舞依さんの透き通るような肌、くるりとした大きな目、整った顎のラインと瑞々しい唇、すーっと通った鼻筋、そのどれもが現代の美的感覚では賞賛されるであろう見た目だ。
義妹になったからといって俺が近くにいていいのだろうか、なんて改めて思ってしまう。
「そういうことね! 暇だからスマホを見ていただけだし大丈夫だよ。何かあったの?」
じっくり見てしまったからか、舞依さんは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら聞いてきた。
人の顔をじろじろと見るのは良くない。視線を右上にそらしつつ本題を切り出す。
「自分の選択が間違っていたかもと思ったとき、舞依さんならどうする?」
「あぁ……そのことですか、って違う! ちょっと考えるね」
前振りもなくいきなり不安な気持ちをぶつけてしまったのにもかかわらず、真剣に考えてくれるようだ。
心優しい。内面まで美人だ。
気を抜いたらどこまでも頼ってしまいそうになるので注意しなければ。
ダメ男製造機にならないことを祈るよ。
「私が陸上をやっているの知っていると思うけど、実は短距離から長距離に転向したことがあるの」
走る長さが変われば求められる筋肉の質、技術が変わってくる。何でもない風にさらっと言っているけど、相当な苦労があったはず。
俺の比じゃないくらいの葛藤もしたと思うだ。どうやって乗り越えたんだろう。
「その時に人生で一番って言っていいぐらい思い悩んだけど、とある人がね、感動することを言ってくれたんだ」
「どんなこと?」
「舞依さんならできる。俺と一緒に選んだ道を正解にしていこうって」
真っ直ぐな目で反応を伺っている。
俺がどう思っているのか気になっているのだろう。
「その人すごくいいことを言うね! 選んだだけじゃ意味がなくて、その後の行動によって成果が変わるだよね。なんで忘れてたんだろう……」
家はシングルファザーだったから色々と苦労してきた。詳細は話すほどのことじゃないから割愛するけど、その時ふと思い立ったんだよね。頑張らないと何も変わらない。とにかく動こうって。
誰かの責にしちゃいけない。
二人だけでも幸せになれるんだ。
今はいない母親に自慢できるよう頑張っていた。
そもそもさ、俺は最初から上手くいったことなんてなかったじゃないか。
VTuber活動だって同接が0だった時を思い出せば、コメントをくれる人が必ずいる今の状況なんて凄く恵まれている。
問題ない、大丈夫、俺ならやれる。
大変な目にあっても続けていれば、いつかは結果が出てくれるって知っているじゃないか。
過去の自分がそう励ましてくれるように感じていた。