第24話 不調
[キラキラJD:コラボするなら男性が良いなぁ! 男同士の配信が見たい!!]
笹木先輩のことがあってから、こういった発言に裏があるんじゃないかと思うようになってしまった。
女は女同士、男は男同士。
そういったのが好きなんじゃないかって思ってしまうけど、この思考はダメだな。キラキラJDさんに失礼だ。
「何か理由があるの?」
[キラキラJD:男同士のからみを私が見たいだけ!!]
「そ、そっか……」
自然と顔が引きつってしまった。前言撤回だ。まさかキラキラJDさんも笹木先輩と同じ系等の人だとは思わなかったな。
ただ女性と接するのは緊張するので、最初の方は男性とコラボするのはありだ。リスナーも喜んでくれるので検討の余地は充分にある。
「他にある人いますー?」
さっきから気になっていたんだけどメメさんが黙ったままだ。初期から支えてくれている彼女の意見を聞きたい。
もし有名になりたいという考えそのものが嫌でコメントをしてないのであれば困ったことになった。リスナーを増やしたい俺とは考えが逆になる。上手く説得できれば良いんだけど出来るだろうか。
何を言われるか緊張しながら待っているけど、メメさんはコメントを書き込んでくれない。
[トオル:ゲームするならリスナー参加型もよろしく!]
[セリラポン:回線とパソコンのスペックは大丈夫? やる前に試した方がいいから]
[ちっちゅ:有名になったら初期リスナーだったって自慢する! がんばって!]
その代わり、めったにコメントしないリスナーからの書き込みがあった。
しかも好意的なものばかりだ。これは、これで、嬉しい。
「応援ありがとー! 初めてなことだから不安もあるけど頑張るね!」
返事をしつつもメメさんをまったけど書き込みはない。もしかしてトイレとかお風呂、もしくは寝落ちしたのかな? いや、それはありえないか。今まで何十回も配信に来てくれたけど、ずっと集中してみてくれていて、トイレに入りながらコメントもしてくれた。
今もスマホ越しで俺のは配信をじっと見ているはず。
「メメさんはどうかな?」
リスナーを特別扱いすると他の人たちが嫉妬するから良くない。トラブルに発展するってのはわかっているけど、どうしても聞かずにはいられなかった。
これは俺の心の弱さの問題でメメさんは悪くないんだ。今日だけは許してくれ。
祈るようにコメントを待っているとついに書き込まれる。
[メメ:私は賛成だよ! 聖夜くんの神ボイスで全人類の女性を妊娠させよっ!]
よかった! 今日も配信を見てくれていた! なんか言わせてしまった気もするけど、少なくとも表面上は賛成してくれる。下ネタが入っていても誰のコメントよりも嬉しかった。
「あはは。妊娠させるかは置いておいて多くの人に知ってもらえるよう頑張ってみるよ」
返事しながらもメメさんの異変に気づく。今までならコメントを連投していたはずなのに一回で終わってしまったのだ。逆に普段はコメントをしてこないリスナーたちが書き込んでいるので配信自体は盛り上がっているけど寂しさは残る。
ワガママなのはわかっているけど、最初のリスナーであるメメさんは俺にとって特別な存在で、もっと気軽にコメントして欲しいんだよね。
部活動のあるある話をみんなとしながら話題を振ってみる。
「で、メメさんは部活やったことある?」
いつもより少し遅れてコメントが書き込まれる。
[メメ:あるよ! 陸上やってる!]
偶然にも舞依さんと一緒だった。なんだか親近感が湧いてくる。やっぱりメメさんは特別だ。依存しちゃいけないとは理解しつつも心はそうもいかない。ずっといてほしいと思ってしまっていた。
「あるある話があったら教えて欲しいな」
[メメ:うーん。皆がわかって面白いのだと何だろ]
「なんでもいいよ!」
[メメ:運動会の時に頼られるのが嬉しい……とか?]
「迷惑じゃなく嬉しいんだ」
[メメ:頼られているからね。大会と同じぐらい盛り上がるよ]
「へ~~~! そうなんだ。俺は運動苦手だから純粋に尊敬しちゃうよ」
ここで否定が入って流れるように下ネタへ移行するのがメメさんだ。いつものノリを待ってみたんだけど、続くコメントはなかった。
[キラキラJD:解釈一致で助かる]
[ワカメ:わかる~。私も運動苦手だから体育の日は体調不良でよく休んた!]
その代わりに常連の二人が反応してくれた。そのあと追加でキラキラJDさんが「休むときは女の子の日が便利だった!」なんて男が反応しにくいコメントをしてくれて、いつも通りだ。
やっぱりメメさんだけいつもと違う。この違和感は配信の後半になっても消えない。
そろそろ二時間が経過したので終わらせようと次回の配信予告をする。
「明日も同じぐらいの時間に配信する予定で、初めてのゲーム実況にチャレンジするからね!」
こうやって伝えることで、みんなも予定を合わせやすくなったはず。いつもはゲリラ配信だったから小さいけど気遣える男になったのだ。
[キラキラJD:予定開けておくね!]
[ワカメ:残業は部下に押しつけてでも行くから!]
「待ってるね! それじゃ!」
最後の挨拶をしてもメメさんはコメントを書き込んでくれなかった。たまたま今日は体調が悪く、明日は元気になってくれたら良いんだけど、どうしてもそう思えなかった。
なぜか嫌な予感ってのは当たるんだよね。
心のモヤモヤがそう言っていた。