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第21話 盗撮男VS変態

「大丈夫!?」


 優先するべきは倒れている盗撮男でも、投げ飛ばした女性でもない。騒動の中心にいる舞依さんだ。


 走り寄ってから俺の背で隠して何があっても守る位置を取った。


「う、うん」


 戸惑いながらもしっかりとした声で返事をしてくれた。


 ケガはなさそうだ。怯えてもいない。目の前で暴力事件が起きて驚いたといった感じだとわかり、少しだけ安心した。


「何があったの?」

「彼が返事を聞かせろって迫ってきたら、急に笹木先輩が怒って投げ飛ばしちゃった」


 見知らぬ女性は年上だったようだ。左右に三つ編みの黒髪をたらしていて大きめなメガネをかけている。前髪は一直線に切りそろえられ、体の線は細めに感じる。肌の色は白く、外見からは文学少女といった印象を与える人だけど、やっていることは真逆だ。強気な性格だと思った。


「先輩は知り合い?」

「友達だよ」


 思っていたより関係が深かった。


 もしかして舞依さんを守るために行動したのだろうか。それだったら感謝しても――。


「舞依は女の子が好きなの! 汚い男は近づかないで!」


 頭を強く殴られたような衝撃を受けた。思考は飛んで真っ白になる。


 真偽を確かめるように後ろを向くと目が合った。


「ち、違うよ! 私は違うから!」


 本人は否定しているんだけど笹木先輩は納得していない。


 俺を押しのけると舞依さんの両肩をがしっと掴む。指が食い込んでいて身動きはとれず、逃げることは難しそうだ。


「そんなことないって。まだ気づいてないだけだよ!」

「気づくとか、そういう問題じゃないって。何度も言っているじゃない!」

「大丈夫。私はわかっているからね」


 会話がかみ合っていない。盗撮男と同レベルか、それを超えるほどのヤバさを感じる。同性だからって甘く見てはいけないと誰が見てもわかった。


 どうやって友達になったのか分からない。なんで舞依さんは近寄ってしまったのだろう。


「止めろ! 嫌がってるじゃないか!」


 盗撮男が正論を叫びながらフラフラと立ち上がった。


 よかった。大きなケガはしてないみたいだ。下敷きになったスクールバッグが守ってくれたのかな。


 倒したと思った敵に痛いところを突かれたのがムカついたようで、笹木先輩は舞依さんから離れて盗撮男の前に立ち、見上げるようにして睨みつける。文学少女っぽい見た目なのに動きは完全にヤンキーだ。


「うるさい! 百合に挟まる男は消えなさい!」

「本人が違うって言っているんだから、妄想を押しつけるなよ!」


 おぉ……盗撮男の方がまともな意見をいっている。とはいえ先ほどの言葉は、お前にも当てはまるからな。


 さくっとフラれて新しい恋を探してくれ。


「舞依のこと知らないくせに! 私は押しつけてないから!」

「うるさい! お前より俺の方が知っている!」

「違いますーっ! 私ですから!」


 低俗な言い合いに発展してしまった。


 騒ぎを聞きつけて人が集まってきている。


「ねぇ。あれって大丈夫なの?」

「さぁ……」


 聞かれてもわからない。陽葵さんには曖昧な返事をした。


「陽葵さんは笹木先輩のこと知ってる?」

「仲がいいとは聞いたことあるけど、私は話したことないなぁ」


 すると別グループということになるか。部活つながりが濃厚?


 無関係の陽葵さんに仲裁を頼むのは無理だろう。


「二人とも離れて」


 声を変えながら、俺は間に入り込むと二人を引き離す。


「どいて!」

「邪魔するな!」


 左右同時に文句を言われたけど引き下がるわけにはいかない。


「周りを見てくれ。迷惑になっている。これ以上騒いだら生徒指導室行きだぞ」


 俺の言葉で少しだけ冷静になってくれたようで、首を左右に動かして周りを見てくれた。


 二人の体から力が抜けたのを感じる。


 勢いは完全に削がれた。


 舞依さんと目が合うとウィンクされる。何かするつもりだ。


「ちょっとお話があるからこっち来てください」


 笹木先輩の腕を握ると、舞依さんは引きずるようにして連れ去ってしまった。


 抵抗はされていない。


 大人しく従っているところから、任せても悪いことにはならないだろうと思った。


「それじゃ、俺も……」

「待って」


 盗撮男が逃げ去ろうとしたので呼び止めた。


「何、か?」

「これからどうするつもりだ?」


 具体的なことを言わなくても、舞依さんに関することだとは伝わっただろう。


「脈がないのはわかっている。もう諦めるさ」

「答えを聞かなくてもいいのか?」

「投げ飛ばされても俺のことを心配しなかった……それがすべてなんだよ」


 目に涙を浮かべてはいるが、こぼれ落ちるのだけは耐えている。


 盗撮は悪いことであったが、性根は悪いわけじゃなさそうだ。潔さだけは尊敬に値する。


「それとお前には迷惑をかけたな。ごめん」

「次からは俺の嘘を広めるのは止めてくれよ」

「わかっている」


 頭を深く下げてから、盗撮男は逃げるようにして行ってしまった。


 迷惑はかけられたが許そう。フラれた傷を癒やしてくれ。


「ふーん。盗撮したって噂流されたのに許すなんて偉い」

「迷惑がかかる前に舞依さん本人が否定してくれたからね。被害はゼロだよ」

「へぇぇ~~。やっぱ、いい男じゃん。見直したよ!」


 バンバンと背中を叩かれてむせてしまった。


 まったく適当な人だ。監視業務も雑だったし、俺の周囲にいるまともな同級生は舞依さんだけじゃないか。


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