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第15話 調査前の腹ごしらえ

 家に帰ると食事が用意されていた。とはいっても美紀恵さんが作ったわけじゃない。出張料理サービスを使っているらしく、寿司職人さんがいる。


 キッチンには新鮮な魚やウニ、イクラといった寿司ネタの入った木箱が置かれていて、白い制服を着た板前さんが立っていた。


 ダイニングテーブルには美紀恵さん、舞依さんが座っている。


「あ、帰ってきた。食事にしましょう」


 雇っている家政夫さんがすーっと近寄ってくる。見た目は四十代の女性で、切りそろえたセミロングの髪が印象的だ。俺のバッグを持つとエレベーターに乗って行ってしまう。部屋に置いてくれるのだろう。


 そのぐらい自分でやるよと思っているんだけど、彼女の仕事を奪うことになるので口にまでは出さなかった。


 舞依さんの正面が空いていたので座る。


「父さんは?」

「今日は飲み会らしいから三人よ」


 打ち上げとかで外食も多かったので、そういったこともあるだろうけど、新しい家族二人だけというのは少し緊張する。なるべく顔に出さないよう意識しつつも話を続ける。


「お寿司屋さんって自宅に呼べるんですね」

「そうなのよ。並ばなくていいからついついお願いしちゃうのよね」


 この口ぶりと正面にいる舞依さんが自然体でいることから、常連なんだろうなと感じた。お金持ちはやることが違う。


「食べられないものある?」

「ないです。お寿司なら何でも食べられますよ」

「よかった」


 美紀恵さんは職人の方を向く。


「いつものセットを三つ。一つは男の子用に二倍の量でお願い」

「かしこまりました!」


 オーダーがでると慣れた手つきでテンポよく職人は寿司を握っていく。


 目の前で見るのは初めてなので、凄いと思いながら眺めていると声をかけられる。


「今の生活はどう?」


 親、というには早すぎるので保護者として聞いているのだろう。心配されるのがなんだか嬉しく、少しだけくすぐったい。


「ご飯を作らなくてよくなったのは助かりました」

「辰巳さんから優希くんは料理が得意って聞いていたけど、毎日作ってたの?」

「はい。朝と夜の料理は自分の仕事でしたから」

「偉いわね。舞依なんてリンゴの皮すらむけないのに」

「ママっ!」


 顔を真っ赤にさせて抗議の目を向けていた。


 どこの親も子供をからかうようなことをするんだな。同じ人間なんだから当たり前なんだけど、意外だなと感じる。


 一緒に長く住んで家族だと思えるようになったら、こういった感情も消えていくのだろうか。


 今はまだ想像できないけど、いつか来たらいいなとは思う。


「料理は慣れだからすぐに覚えられますよ」

「よければ優希くんが教えてくれない? さすがに何も出来ないというのは親として心配で……」

「だ~か~ら~。ママは余計なこと言わないでよ」


 学校では見たことがない、舞依さんの怒っている姿は新鮮に映った。


 俺と話しているときとも違う、完全なプライベートの素顔だ。人は色んな顔を持つと言われているけど、舞依さんは学校や家庭以外にどんな顔を持っているのだろうか。全然違うキャラになっていたら面白そうだと思った。


「俺で良ければいつでも教えますよ」

「よかったわね」


 美紀恵さんは娘の肩を叩いた。


「優希くん、ムリしてない?」

「もちろん。料理は好きだからね」

「それじゃ今度教わろうかな。よろしくね」

「こっちこそ」


 切りの良いタイミングを待っていたのか、会話が終わると職人がテーブルに寿司を置いていく。高そうな木の板に乗せられていて、シャリが隠れてしまうほどネタが大きい。高いお寿司なのは見てすぐにわかった。


「お待たせしました! 他に食べたいネタがあったら握るんで言ってくださいね」


 そう言ってからキッチンに戻ってしまった。


 ネタには何か塗られているようで醤油すらつける必要はない。俺たちは「いただきます」と言って箸で寿司を掴む。最初は大トロだ。口に入れると、さっぱりとした脂身が口全体に広がって溶けてなくなる。今まで食べた寿司の中でダントツに美味しい!


 他にもアジ、イカ、イクラ、ウニ軍艦を口に入れていくけど、どれも回転寿司とはレベルが違う。


 本当の寿司って、こんなに美味しかったんだ。父さんも外で食べなければ良かったのに。


 感動しながら次々と口に入れていたら、寿司はあっという間になくなり、追加で大トロとウニ軍艦を頼んでお腹いっぱいになった。


 二人の倍以上を食べたんだけど、美紀恵さんは嬉しそうにしている。


「男の子って本当によく食べるのね」


 なんて言ってくれたのだから、悪い印象はなかったと思いたい。




 無事に夕食を終えると職人を見送ってから美紀恵さんはお風呂に行ってしまった。長風呂するタイプらしく一時間は出てこないらしい。


 その間に舞依さんと一緒に俺の部屋に入ると、昔使っていたノートパソコンをダンボールから出して電源を入れながら、下駄箱に置いてあった便箋をデスクに置く。


「これが、例の男子が入れたものなんだ」

「うん。この人に見覚えある?」


 また距離を取られているけど気にせず、スマホで撮影した映像を見せる。


 舞依さんは指を頭に密着させながら考える。


「うーーーーん。わからない。誰だろう……上履きの色からして先輩かなぁ」

「知り合いじゃないんだ。嫌がらせの犯人である可能性が高まった、かな。中を見てもいい?」

「お願い」


 触りたくもないみたいなので、俺が便箋を開けてSDカードと手紙を取り出す。


「どっちを先に見る?」

「優希くんに任せるよ」


 それじゃすぐ確認出来る手紙にしようか。


 二つに折られていたので開くと、文字がびっしりと書き込まれている。


 よくわからないけどポエムが書かれていて、愛を語っているように思えた。


「嫌がらせの手紙って、どんなものが多かったの?」

「私が学校で何をしていたか、誰と話していたか、とかそんなのかな。最後に必ず、ずっと見ているからねで終わっていたんだけど、この手紙もそう?」

「ううん。違う。なんかラブレターみたいだ」

「え、ええ!?」


 告白されるのなんて慣れてそうなのに、舞依さんは驚いていた。意外と初めてなのかな。

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