第13話 新しい仲間が増えた
「話に乗ってくれてありがとう」
しばらく雑談をしてから礼を言うと、舞依さんは空き教室を出て行った。
会話するには不適切なほど離れたままだったけど、突っ込んで聞いた方がよかったのかな。今もずっと気になっているけど、俺の声、もしくは体臭が原因だったら立ち直れないので何も言えなかった。
一人になってすぐチャイムが鳴ったので、サンドイッチのゴミを捨ててから午後の授業を受ける。
「えー。だから、戦争が始まり~」
社会の先生が歴史について何か話しているけど、舞依さんのことが気になってしまい頭の中に入ってこない。
嫌がらせをしているの誰なのだろうか。
グランドで撮影したいたあの盗撮男? あり得そうだけど、なんとなく違う気もする。うーん。正直なところ、よくわからないな。犯人については現場を取り押さえればすぐにわかるだろうから今は悩まなくてもいいか。
それよりも下駄箱での見張りに問題がある。
舞依さんの前じゃ弱いところは見せられないけど、相手が屈強な男だったら取り押さえなんて無理だし、仮に出来たとしてもその後どうすれば良いかわからない。教師や警察に連絡すれば終わりかな? でも、そんな騒動を起こしたら美紀恵さんに迷惑をかけちゃうんじゃないだろうかという心配も残る。
できれば穏便に済ませたい。
そもそも俺はリアルで目立つのは得意じゃないからってのもあるけど、そう思ってしまう。
弱気になっているなぁと感じつつ考えをめぐらせていても、悩みが深まるだけで意味はなかった。
もちろん、授業の内容は一切入ってない。後で復習しなきゃ。
* * * * * *
放課後になると部活や帰宅する人、教室で友達と残ってダラダラとおしゃべりする人などに分かれる。いつもの俺だったら配信するためにすぐ学校から出ていたけど、嫌がらせの犯人を捕まえるために下駄箱の前で待機している。
しかも舞依さんのところだ。って、今気づいたけど、これって俺が嫌がらせしている犯人に見えない!?
近くにいる人たちが俺に疑惑の目を向けていることもあって、あながち間違いじゃないとわかる。
やばい。想像力が足りなかった。安請け合いをしてしまったかも。
慌てて下駄箱から離れて階段下に移動する。
ここに避難していても監視は出来ない。かといって戻っても怪しまれるし、下手したら俺が犯人扱いになってしまい、騒動が大きくなってしまう。どうすれば……。
「あ、さっきの人!」
聞き慣れない女性が声をかけてきた。
肩に手を乗せられている。香水かリンスなのかわからないけど、甘い匂いがして想像していたよりも近くにいると分かった。
学校で俺に話しかける人なんていないと思っていたから油断してしまっていた。反省だ。手を払いのけ、距離を取りながら振り返る。空き教室で俺のことを犯人扱いした陽葵さんだった。
「あれ? もしかして警戒している? そりゃそうだよね」
気まずそうに笑いながら、陽葵さんは手を合わせて頭を下げてくれた。
「さっきはごめん! 相談に乗っていたんだね。舞依に教えてもらったよ!」
出会い方が良くなかったから悪い印象を持っていたけど、素直に謝っている姿を見たらいい人なんだろうなと思った。チョロいと言われそうだけど、実害はなかったんだからそれでいいだろ。根に持つことじゃない。
「友達のことを思って行動したんだから、俺は気にしてない」
声を変えつつちょっと長めに返事すると、陽葵さんは頭を勢いよく上げて元気になった。切り替えが早い人だ。見知らぬ人を前にすると身構えてしまう俺とは正反対に感じる。まさに陽キャグループの一員といった感じだった。
俺の声を一番バカにしたのもそういったグループのヤツらだったので、本来であれば関わりたくないのだが、舞依さんの友達であればそうもいかない。彼女は人を見る目があると信じよう。
「それで犯人を捜すことにしたんだよね? 私も協力するよ」
「え。いらない」
思わず本音が出てしまったが、陽葵さんは機嫌が悪くなるどころか面白がっている。
「あはは! 男子に断られるなんて久々だよ。さすが舞依の友達だね」
突然のモテアピールに戸惑う。確かに陽葵さんも美人ではあるので、お願いされて断れる男は少ないだろう。下心を持って受け入れるはずだ。
「でもさー、私の協力必要なんじゃない? 一人で下駄箱を監視しても犯人扱いされるだけだよ」
痛いところを突かれた。
まさに指摘されたことが理由で撤退してきたばかりなので反論はできない。
「でも、私がいれば違うよ。少なくとも変態扱いはされない」
「部活とかはいいの?」
「私は帰宅部だし、男と遊ぶのも飽きたから暇なんだよね。時間だけはたっぷりある」
高校一年で既に飽きるって何をしてきたんだよ。ったく配信ネタに使えるじゃないか……いやいや、それはダメだ。さすがに身近な人のネタを発信するのはマナーに欠ける。
「俺といても暇なだけだよ?」
「別にいいよ。スマホ見てるから」
黙ってくるのであれば喉を酷使しなくて済む。変態扱いも避けられるし悪い案ではない。
受け入れても良いかと思った。