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第11話 女子高生に詰められる

 午前の授業は退屈だったけどいつも通りだ。数学、英語、国語と定番の科目を無難に過ごしてランチタイムとなる。


 再婚するまでの料理は俺が担当していて、父さんの分も含めてお弁当を作っていたが、新居に引っ越したばかりなので勝手がわからず何も持ってきていない。登校途中でコンビニに寄ればよかったんだけど、買うことをすっかり忘れいてた。


 学食は凄く混雑いるので相席になることもあるらしい。また学年によってどこに座って良いのか暗黙のルールがあるらしく、ボッチの俺が行ってもトラブルが起こってしまうだろう。従って、これもまた非常に混んでいると言われている売店にするか、一食抜くかの選択になる。


 無難に一日を終わらせるため、こんなときは何もしないのだが、なんとなく普段とは違う行動をしたくなった。


 そんな自分に驚きながらも教室を出て売店に行く。


 ものすごい行列ができていた。出遅れたみたいで売れ残りはほとんどない。サンドウィッチが一つ残っているだけ。誰かに取られる前に確保して整列する。


 具は何だろうと確認したらミカンだった。


 肉を求めている高校男子たちから見向きもされない組み合わせだ。売れ残っていた理由がわかった気がする。


 正直、俺も食べたいとは思わないんだけど他に残ってないのだから仕方がない。


 長い列に並んで時間をたっぷりと消費してから、売店の店員にお金を支払って購入すると空き教室へ入る。


 机と椅子がまばらに置いてあった。誰もいないのは予定通り。ここは俺がいつも一人で食事をしている穴場スポットなのだ。


 声のことを心配せずに食事ができる。


「いただきまーす」


 適当な椅子に座ってサンドイッチを口に入れる。


 クリームとミカンの甘みが広がってお菓子を食べている気分になった。パンとの組み合わせは悪くないんだろうけど、俺の好みじゃない。お腹に溜まらず、むしろ空腹を刺激することになる。


 ぐるると胃が活発に動いて食事をもっとよこせとアピールしてきた。


 手に残っているのは半分になったサンドイッチだけ。学食へ行くにしては時間が遅すぎるし、諦めるしかないか。


 空腹と戦いながら午後の授業を受けよう。


「あー。こんなところにいた」


 女性の声だ。入り口の方を見ると赤いインナーカラーを入れた長髪の女性が俺を指さしていた。


 見たことがある。よく舞衣さんと廊下で話している人だ。


 無遠慮に空き教室に侵入してくると、数メートル前で止まった。眉がつり上がっていて楽しい話をする感じではなさそうだ。


 初対面の女性に怒られるようなことなんてしてないのに。心当たりが全くないため他人事のように思えている。


「朝、グランドで舞衣のことを見ていたよね?」

「うん」


 喉に負担をかけながら声色を変えて返事をした。


「だよね。気持ち悪いから止めてくれない。迷惑なんだよね」

「どういうこと?」

「舞衣の胸をジロジロ見るなって言ってるの。本人が頑張ってるのに、近くで見るなんてサイテーだよ」


 グランドで見ていたのは間違いないけど、無遠慮に胸を見ていたなんて事はない。彼女が言っていることは間違いだ。


 理由はわからないが、別の男と勘違いしているんだろう。


「俺は通り過ぎただけでグランドには入ってない」

「それ嘘でしょ。スマホのカメラを使って録画してたの知ってるんだから。消してよ」


 グランドで捕まえた男が俺に責任をなすりつけたのか……?


 同じ学校に通っているというのによくやる。俺が見つけ出したらどうするつもりなんだ。ああ、バカだから後先考えないのか。だから大勢の人がいる中で盗撮なんてやるんだよ。


 舞衣さんが嫌な気分になると思って穏便に済ませようとした俺の判断ミスだ。

 こんなことになるなら、先生に突き出せば良かった。


「ねぇ。聞いてる?」

「ん? ああ。聞いているよ」

「ならさっさとスマホを出してよ。アンタは信じられないから私が消す。文句ないよね?」


 まともに話す姿勢を見せなかったからか、要求がエスカレートしている。


 地味に困る提案をされてだな。


 スマホには俺のVTuberに関連した情報が入っていて、嬉しかったコメントのスクリーンショットや練習がてら収録した音声も入っている。これらを見られたら身バレに繋がるかもしれない。それに操作ミスでチャットアプリを立ち上げられ、舞衣さんとフレンドになっていることを知られたら説明が面倒だ。


 えん罪だと証明したいが、リスクもそれなりにある。


 どうするかなやんでいると、空き教室にさらなる侵入者がやってきた。


「陽葵! なにしてるの!」


 舞衣さんだ。髪が乱れていて呼吸が荒い。走ってきたとわかった。


「盗撮魔を問い詰めて――」

「だから優希くんは違うって!」

「でも証言があったよ」

「勘違いか嘘だよ! だって私、何もしてないところを見てたもん!」


 どうやら陽葵さんの暴走を止めるために来てくれたみたいだ。


 喉が辛かったから助かる。


「でも……」

「私がいいって言ってるんだから。この話はもう終わり。先に戻ってて」

「舞衣はどうするの?」

「ちょっと用事があって話があるの。さ、早く」


 強引に陽葵さんの背中を押して空き教室から出してしまった。不満そうにして立ち止まっていたけど、舞衣さんがあっちに行ってと言ったら、肩を落としてとぼとぼと去って行く。俺は何も悪くないんだけど少しだけ罪悪感を覚えた。


「友達が迷惑かけてごめんなさい。優希くん大丈夫だった?」

「うん。何もされてないからね。助けてくれて、こっちこそありがとう」


 他に誰もいないので地声でお礼を言うと、舞衣さんは蕩けそうなほどの笑みを浮かべてくれた。


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