海洋国オーシャンへ
数日後、全ての準備を終えて海斗たちは王城正門前に集合した。
大きな二階建て馬車に、霧の国シャドーマで手懐けたブラックモーモのモータンをドッキング。魔獣であるモータンは馬よりもパワー、体力があり、数日程度なら不眠不休で馬車を引っ張れるそうだ。
馬車の前には、海斗、ハインツ、マルセドニー、ナヴィア、イザナミ、クルル、ツクヨミ。そして旅衣装に身を包んだクリスティナだ。
クリスティナは、海斗も原作で名を知っている宰相、ドミニカへ言う。
「ではドミニカ。あとはお任せしますね」
「はい。クリスティナ様、どうかお気を付けて。それと救世主カイト殿と、護衛たち……どうか、クリスティナ様のことをお守りくださいませ」
初老の宰相ドミニカ。原作でも有能な宰相である彼、さらにタックマンたちハインツの師匠たちに国を預ければ、ひとまずは問題ないだろう。
「よし……行くか」
全員、馬車に乗り込む。
クルルが御者席に座り、モータンに「じゃ、行こうか」と言うと「モォォ」と鳴いた。
馬車が走り出し、デラルテ王国から海洋国オーシャンへ向かう。
「ガストン地底王国からの分岐路を通って、海洋国オーシャンへ向かうんですよね」
「ああ、そうだな」
馬車の中では。
一階部分では海斗とクリスティナ、窓際で本を読むマルセドニー。二階ではナヴィアとハインツがお喋りし、ベッドで爆睡するツクヨミ。馬車の屋根ではイザナミが座り周囲を観察していた。
かなりの大人数である。
「皆さんと一緒に海洋国オーシャンへ向かうのかあ……カイトを召喚してからはずっと仕事漬けでしたし、なんだか新鮮な感じがしますねー」
「戦いになる可能性は低いけど、お前はお前で油断するなよ」
「し、しませんから。というか、私いちおう女王ですからね? ちゃんと守ってくださいよ」
「はいはい。とりあえず確認……お前が向かうのは、海洋国オーシャンの首都だよな」
「はい。カイトは知ってますよね? 海洋国オーシャンの首都は海上にあるって」
海洋国オーシャン。
首都は海上に浮かぶ海上国家であり、地上は魔族の自治区、海中は海人の国になっている。
もちろん、人間であるクリスティナは海で呼吸できない。なので、魔族の自治区にある『海中経路』を使い、海底にある他種族を迎えるための建物へ向かうのだ。
「魔族の自治区……話では、海人と連携しているって話ですけど」
「真実だ。恐らく、十二の国家で一番、魔族と仲良くしている国だ。『求愛』インナモラティが何年もかけて、海人と魔族の関係を良好にしたからな」
「知らなかったですね……」
「まあ、十二国家は閉鎖的だしな。デラルテ王国は海洋国オーシャンと交流ないからわからなかっただろ」
海洋国オーシャンは、閉鎖国家だ。
国の特色を考えれば流通や交友があってもいいのだが、魔族が他種族を見下しているという事実は海洋国オーシャン以外では当たり前。それらを持ち込むのを防ぐために、海洋国オーシャンは閉鎖している。
だが、執政官が半数消え、どの国も自主性を持ち始め、連携を取り始めた……インナモラティが交流を許可したのだと海斗は考える。
「とにかく、お前は仕事をしろ。俺は途中で行くところがある」
「え……そうなんですか?」
「ああ。ほれ」
海斗は、鳥の骨の頭をクリスティナへ。
クリスティナは露骨に嫌そうな顔をしたが、ハンカチで包んで受け取った。
「……なんですか、これ」
「俺の力を注いだ骨。これでどこにいてもお前の場所がわかる」
「はあ……」
クリスティナはポケットに骨を入れる……かなり嫌そうに。
「お前の護衛はツクヨミ、イザナミ、クルルに任せる。俺とハインツたちは途中下車するからな」
「ど、どこで降りるんですか?」
「海洋国オーシャン郊外、陸沿いにある町だ」
海洋国オーシャンは海に浮かぶ国だが、海岸沿いの陸地も領内ではある。
大地の上でないと農作物が育たない。陸地も必要なのである。
海斗たちが向かうのは、陸沿いにある小さな町だ。
「とりあえず、お前は仕事優先だ」
「わかりました。あ、リクトはどうします?」
「……最初に会うのはお前だ。恐らくヤツは王城に向かうはずだ」
「え、わかるんですか?」
「……まあ、な」
海斗には、やるべきことがあった。
海洋国オーシャンでは、ハーレムメンバーの一人であるオーミャがいる。リクトと接触すれば物語が動き始めるので、その前に接触しなければならない。
(オーミャ、あいつが執政官の情報をリクトに流したらおしまいだ……)
馬車は、海洋国オーシャンに向かって順調に進んでいく。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
「……カイトと、三人は、別行動?」
全員で焚火を囲み、イザナミが言う。
クルルは、骨付き肉をモグモグ食べながら言った。
「はじめて聞きましたけど……用事ですか?」
「ああ。大事な用事だ。クルル、イザナミ、ツクヨミの三人はクリスティナの護衛を頼む」
「まあいいぜ。この身体は立派なお嬢ちゃんに付いてりゃいいんだろ」
「な、なんですかその言い方!! セクハラ、セクハラってやつです!!」
この世界にも『セクハラ』という言葉があることに海斗は微妙に驚いた。胸を押さえるクリスティナ、それを見て笑うツクヨミを放置して言う。
「三人組、頼むぞ」
「あのさ、あたしらひとまとめにして言うのやめてよ」
「同感だ」
「ったく、ハインツ様を筆頭とした三人組って言いやがれ」
「はあ? ナヴィア様の間違いでしょ」
「やれやれ。馬鹿二人に付き合う天才マルセドニーの間違いだろう?」
ギャアギャア騒ぎだす三人。海斗はそれを無視。
「イザナミたち。今回は戦闘にならないと思う。それと……海洋国オーシャンには、俺とは別の『救世主』がいる。会うこともあるだろうな」
「カイトさんとは別の救世主……」
「どんな人間なのだ?」
クルル、イザナミが言うとツクヨミが言う。
「ザンニは、『偽善者』って言ってたぜ。自分とその周りしか見えていない。単純で利用しやすいってよ。力があるけど、それだけだってな」
「な、なんか会いたくないなあ……」
「同感だ……カイト、あなただけでいい」
イザナミが言うが、海斗は首を振る。
「一応、主人公なんだ。正直いない方がいいけど、そういうわけにもいかないしな」
イザナミは「主人公……?」と首を傾げる。
海斗はそれに答えず言う。
「とにかく。海洋国オーシャン行きの船に俺たちは乗らない。そっちは任せるぞ」
「はい。といっても、会談だけですけどね」
「船!! そうだ、船でした!! イザナミさん、船って乗ったことありますか?」
「小舟はある」
「ワクワクしてきました!! ん~楽しみ」
「いいなぁ。ねえカイト、あたしらは本国行かないの?」
「……わからん。展開次第」
こうして、海斗たちの夜は更けていく。





