次の国へ
書籍版第一巻本日発売です!!
ヨルハたちに指示を出した海斗は、城へ戻って来た。
もうすぐ日が暮れる。訓練場に行くと、ハインツがツクヨミと談笑していた。そこにイザナミ、クルルもいる……どうやら二人に絡んでいるようだ。
「なあなあクルル、今度オレとデートしようぜ。かっけえ鎧のお礼してえんだよ」
「いえ、仕事ですので気になさらず」
「イザナミよお……オレとやらねぇか? 勝った方が負けた方に何でも命令できるって条件で。くけけ、そのデカい乳、そろそろ拝ませてもらうぜぇ?」
「……お前の戦闘をずっと研究した。お前の弱点がいくつか見えた。それを実証するいい機会だ……もし私が勝ったら、お前は二度と私に話しかけるな」
どうやら、仲良しこよしというわぇではない。
すると、ナヴィアとマルセドニー、そしてクリスティナもやってきた。
海斗の『表』のメンバーが勢ぞろいである。
海斗が近づくと、全員が気付く。
「あ、カイト。ちょうどよかったです……っていうか、どこに行ってたんですか?」
「なんでもいいだろ。それより、なんでお前が?」
クリスティナが訓練場に来るのは久しぶりだった。いつもは激務でヒーヒー言っているはずだ。
クリスティナは言う。
「おっほん。実は、海洋国オーシャンには私も同行することになります」
「え、マジで?」
「……王女。いや女王陛下……正気か?」
ナヴィア、マルセドニーが信じられないような顔で言う。
クリスティナはコホンと咳払い。
「ええ。実は、つい先ほど海洋国オーシャンから正式な書状が届きまして……国交回復のために会談を開くことになりました」
「おい、聞いてないぞ」
「カイトが出て行ったあとに手紙が届いたんですよ」
「待ってくれ。そもそも、国交回復だと? デラルテ王国の執政官はもういないから問題ないだろうが……海洋国オーシャンは序列九位『求愛』インナモラティが管理しているところだろう? 国交回復もなにも、執政官がそんなことを許すとは」
「いや、許す」
マルセドニーの疑問に、海斗はすぐに答えた。
「序列九位『求愛』インナモラティは、種族の政治に興味がない。恐らく、海洋国オーシャンの王族が執政官を討伐したことを知って、国交を持ちかけてきたんだろうな。デラルテ王国だけじゃない、恐らく、他の国に対しても似たようなことやってると思うぞ」
「カイトの言う通りです。これまで、執政官が討伐された国に対し、書状を送ってるそうです。でも……どこもまだ、国の立て直しが優先みたいなので、会談に応じるのはデラルテ王国だけ。つまり、私だけですね」
よくわかっていないのか、ナヴィアとクルルは首を傾げていた。
ハインツは欠伸、ツクヨミは耳をほじり、イザナミは何故か海斗をジーッと見ている。まともに会話できるのはマルセドニーだけだった。
「と、いうわけで。カイトの望み通り、海洋国オーシャンに行きますよ。向こうでリクトと合流して、さらに会談に出て、みんなでデラルテ王国に戻りましょう」
「わーお。じゃあ、クリスティナも今回は一緒なんだ」
「おいナヴィア。女王陛下だろうが」
「うっさいメガネ。友達だしいいじゃん。ねー」
「ええ。私もそっちのが嬉しいです。でも……公的な場所ではお願いしますね」
ナヴィアは「はいはーい、女王様」と敬礼の真似事をした。
すると、欠伸をしていたツクヨミが言う。
「んでカイト。行くのはいいけどよ、戦えるのか?」
「……恐らく、今回はない」
「ケッ、つまんねえの」
ツクヨミは欠伸をして行ってしまった。引き留めようとしたが、海斗はやめる。
「まあいい。じゃあクリスティナ、今回は……」
「ええ。私の護衛ということで、カイトたちには同行してもらいますね」
「わかった。出発はいつだ?」
「四日後でお願いします。あの、護衛騎士とかは」
「いらねぇだろ。俺らだけでいい」
「えーと……いちおう、私は女王なので、お付きのメイドとか、身支度とかの」
「自分でできないのか?」
「……まあ、できますけど」
「なら、余計な人はいらん」
「うー……わかりました」
こうして、海斗たち一行は、クリスティナを加えて海洋国オーシャンへ向かうことになるのだった。
◇◇◇◇◇◇
出発準備は各自で。
海斗は、ツクヨミと二人で町を歩き、旅の支度をしていた。
着替え、武器防具、酒や食料……とにかく買い、アイテムボックスに放る。
必要なものをある程度買い終え、海斗とツクヨミは酒場へ。適当に料理と酒を注文すると、ツクヨミは言う。
「お前、オレに何か頼みたいことあるんだろ」
「……ああ」
ツクヨミは、ワインボトルをグラスに注がずラッパ飲みし、焼き魚を頭からバリバリ食べる。
海斗は、果実水を飲む……ちなみに海斗、酒はマズくて飲めない。
「お前には、クリスティナの護衛を頼む」
「ああ? 護衛って……護衛は全員だろ」
「確かにな。でも、不意の事態にすぐ対処できるのは、お前かイザナミだけだ」
「ふーん。で、なんでオレに言う?」
「お前が強いから」
あっさり言うと、ツクヨミはゲラゲラ笑いだした。
そして、別のワインボトルを手にしラッパ飲み。
「わかってんじゃねぇか。ってかお前……戦いがあると思ってんだろ」
「ああ。『求愛』インナモラティは敵じゃない。だが……そいつの部下がいる」
「やべーのか?」
「ああ。少なくとも、今の『求愛』インナモラティのやり方に不満を持っていることは確かだ。インナモラティは強いから直接は殺せないとふんで、いろいろ仕掛けてくる……リクトが海洋国オーシャンへ向かった以上、ストーリーが進行するとみていい。最悪の事態は避けるぞ」
「ほー、で……オレぁ何をすればいい?」
「クリスティナから離れるな。敵と判断したらお前の判断で動いていい」
「……フン。少しは面白くなりそうだぜ」
ツクヨミが笑うと、背後からいきなり大きな男がツクヨミの肩に手を置いた。
かなりの大男であり、しかも何人かいる。
「さっきからお前ら、やかましいんだよ!! デケぇ声でわめきやがって」
「有り金出すなら、勘弁してやってもいいぜ?」
「怪我ぁしたくねぇだろ?」
ツクヨミはニヤリと笑い立ち上がる。
「おい、ここでやるな。外でやれ」
「おーう。けけけ、いいねいいね。シャドーマじゃこういうの味わえねぇぜ。カイト、先帰ってろ、オレぁ遊んでから帰るからよ」
「殺すなよ」
海斗も立ち上がり、怯えている店員に支払いをし、店を出た。
そのまま店を出て、チラリとツクヨミを見る。すると、大男と肩を組んでいた……そのまま外へ出て裏路地へ消えた。
海斗は真っ暗な裏路地を見て、大男たちを少しだけ不憫に思うのだった。