向かうべきところ
海斗が向かったのは、ヨルハの家。
ドアをノックすると、サクヤが開ける。
「カイト様。いらっしゃいませ」
「ああ。お前たちに話がある。全員集めてくれ」
「かしこまりました」
サクヤは恭しく一礼。
ちなみに、サクヤが着ているのは着物に割烹着。どこで入手したのか不明だが、ヨルハが用意し、サクヤに着せている。さらに三角巾を頭に巻いているので、昭和のお手伝いさんのような雰囲気があった。
現に、サクヤの仕事の一つに、ヨルハの家の管理がある。
サクヤに案内されて向かったのは、ヨルハの家の地下。
そこに、コノハナ、サクヤ、ヨルハ、カグツチ、コリシュマルド、そして……。
「ふぁぁぁ、なんだいなんだい、楽しいことかな?」
ザンニ。
元、十二執政官序列六位『悪童』ザンニが、全裸に白衣という姿で現れた。
下着も付けていない。海斗はチラッと見たが特に反応せず、代わりにサクヤが言う。
「ザンニ様。あなた……下着を付けなさいと毎日言ってるのですが、なぜ守らないのですか?」
「寝るときは常にハダカじゃないと、寝た気にならないんだよねえ。ねえカイト、ハダカでも別にいいだろう? ねえ?」
「うるさい。好きにしろ」
ザンニは、海斗の隣に着て白衣の内側を見せる。
女であることを思い出してからか、よくこうして海斗に絡むようになった。だが……海斗は、ザンニが何をしようが、全裸だろうが、眉一つ動かさない。
「全員、集まったな。今後の方針……というか、緊急の要件だ。執政官序列九位『求愛』インナモラティが統治する、海洋国オーシャンへ向かうことになった」
「それはまた急ですな。ふーむ、下調べが不十分ですが」
ヨルハが言う。するとコリシュマルドも言う。
「そうね……ワタシの『占い』で、何が起きるかある程度は把握できるけど……その『求愛』はどんな執政官なのかしら?」
コリシュマルドはザンニに言う。ザンニは肩をすくめた。
「知らないさ。執政官十二人は仲良しこよしの集団じゃないしねえ。一度も会ったことのないヤツはもちろん、もしかしたら未だにプルチネッラが死んだことも知らない執政官もいるんじゃないかい?」
すると、コノハナが挙手。
「はいはーい。お兄ちゃん、その『求愛』インナモラティってのを倒しに行くの?」
コノハナは、海斗を『お兄ちゃん』と呼ぶようになった。海斗も特に指摘しないので、好きに呼ばせている。
海斗は頷き、全員に言う。
「そこに、俺とは別の『救世主』が向かっている」
「……カイトさんとは別の『救世主』」
カグツチが、どこか興味深そうに言った……興味があるのかもしれない。
ザンニは、クスクス笑う。
「くくく。カイト……もしかして、偽善者より先に執政官を倒したいのかい? ボクがこれまでの情報を合わせて検証した結果だけど、『救世主』としての格は間違いなくキミが上さ」
「そんなんじゃない。というか、むしろ逆だ」
「「「「「……?」」」」」
全員が首を傾げた。
そして、海斗は拳を握って言う。
「俺は、『求愛』インナモラティを倒さない。そいつは、話せばわかる魔族だ」
◇◇◇◇◇◇
ここで、海斗が組織した秘密部隊『影』について説明する。
ヨルハの家は、海斗の『影』の本拠地として使われている。
現在住んでいるのは六人。
家主のヨルハ、居候のコリシュマルド、家政婦姉妹のコノハナとサクヤ、ヨルハの弟子カグツチ、そして居候その二であるザンニ。
ザンニを連れ帰るかもしれない。
海斗は、ザンニと戦う前にヨルハにそう告げた。ヨルハはコリシュマルドやカグツチ、コノハナとサクヤに共有……戦いが終わり、弱体化したザンニをヨルハが連れ帰った時は、とても驚いていた。
コノハナとサクヤは困惑、そして捨て駒にされた恨みがあった……が、ザンニはまるで反省しなかった。弱体化した今ならサクヤでも殺せる。
海斗には『もし裏切る用なら容赦なく殺せ』と言われているサクヤ。
サクヤは、コノハナの手伝いをしつつ、空いた時間はカグツチと一緒に訓練をしたり、ヨルハに鍛えてもらっていた。
コリシュマルドは完璧な居候だ。
部屋を改造して占いの館風にしてヨルハと喧嘩をしたこともあったが……海斗の協力者となった今は喧嘩をすることは少ない。
今は、外に出て占いの館で仕事をしている。
ヨルハは、元軍人の一人暮らしという顔を持ち、最近、孤児で働き口を探している家政婦の姉妹を引き取った……という設定でコノハナとサクヤを住まわせている。
そしてザンニ。どうやったのか、ヨルハの家の地下に魔法で空間を作り、海斗たちが今使っている会議室や、自分用の実験室などを作り、普段はそこで過ごしている。
これが、海斗の組織した裏の部隊、『影』である。
仕事は、裏の部隊からの海斗の補佐。原作を知る海斗が動けない時、海斗の代わりに仕事をしたり、罠を張ったりするなどの仕掛けを作る。
もちろん、直接戦闘なども担当する。
そして、『影』の絶対的なルール。
それは……『リクトと、リクトに関わる女に関わらない』ということ。
◇◇◇◇◇◇
ザンニは首を傾げる。
「インナモラティを救う? 話せばわかる? カイト、何を言ってるんだい?」
「そのままの意味だ。インナモラティは、執政官だが海人の国の統治にほぼ関与していない。月に一度、部下を使って海人の王に指示を出すくらいだ」
「うーん? よくわからないが」
「海人の国にある魔族の自治区は、海人と連携した生活をしている。そこに差別はない」
「はぁぁぁぁ?」
ザンニは理解できないのか、首を傾げに傾げた。
「とにかく。インナモラティは話が分かる……今、リクトのクソ野郎が海洋国オーシャンに行くのはまずい。ストーリーが始まるとしたら、海洋国オーシャンは最悪の形で崩壊する」
「……うむむ? 主、拙者には意味が」
「わからなくていい。ともかく、リクトが……いや、ハーレムメンバーの一人、海人のオーミャを確保する。ヨルハ、カグツチは先行して海洋国オーシャンへ向かってくれ。コリシュマルド、ザンニには頼みたいことがある。コノハナ、サクヤは留守を頼む」
「はっ!! ふふふ、では行くぞ、我が弟子よ!!」
「……え? あ、わたし、弟子なんですか? えと、はい」
「フフ、人使いが荒いけど……そういうの、嫌いじゃないわ」
「クックック。さてさてカイト、今回は何を見せてくれるのかねえ」
「お留守番かあ。お兄ちゃん、お土産おねがいね」
「……いってらっしゃいませ、皆さん」
それぞれが行動しようとした時、海斗は言う。
「ヨルハ、コリシュマルド。お前たち二人には何度も言ったが……いいか、リクトには絶対に見つかるな。話しかけるのも、視線が合うのも駄目だ。わかったな」
「はっ!! お任せください!!」
「……何度も言われてるから理解してるわ」
こうして、海洋国オーシャンに向かうための準備が始まるのだった。