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未来について

 ザンニ討伐から一月が経過……海斗は、自室で『原作ノート』を読んでいた。


「次の執政官は……序列七位『黄金』か、序列八位『森獣』か、序列九位『求愛』だな。でも……」


 狙うなら『求愛』インナモラティがいる海洋国オーシャンだ。

 だが……海斗は、インナモラティの情報部分を読みため息を吐く。

 そこには『必ず救う』とあった……原作を知るからこそ、インナモラティを救わなければならないと海斗は考えている。

 すると、ドアがノックされた。


「カイトぉぉ」

「ん? おう、クリスティナか。なんだ、死にそうな顔して」


 そう言うと、クリスティナは海斗をギロッと睨み、ずんずんと部屋に踏み込んで来て海斗のデスクをバンと叩く。


「仕事!! ふえ、すぎ、です!!」

「……で?」

「うううう、女王になったのはいいですよ? デラルテ王国のためになるならなんだってします。でもでもでも、霧の国シャドーマの支援とか、虫人やドワーフとの交流とか、流通を回復させるためにインフラの整備とか、やることとにかく多いんです!!」

「お、おう。がんばってるな、よしよし」

「うううう」


 なんとなく頭をなでると、クリスティナは泣き出してしまう。

 まだ十六歳なのだ。若く有能な女王ではあるが、遊びたい盛りなのだろう。


「じゃあ、イザナミとかナヴィアをコキ使えよ。あいつら訓練以外は自由にしてるぞ。一日二時間でもお前の手伝いさせれば、お前も楽になるんじゃないか? 同性だし、同年代だし」

「あ、それいいですね。よーし……じゃなくて。報告があるんです!!」

「最初に愚痴り出したのお前だろ……で?」


 クリスティナは、一枚の手紙を海斗の前へ。

 それは、リクトに同行している騎士エステルからの手紙だった。

 そこに書かれていた内容を読み、海斗の眉がピクリと動く。


「……序列八位『森獣』ジャンドゥーヤ討伐。同時に、反乱した獣人たちにより魔族の自治区が崩壊、か……やってくれたな、リクト」

「あ、ちょっと!!」


 海斗は手紙を丸めてゴミ箱へ。

 クリスティナは言う。


「カイト、嬉しくないんですか? 執政官がこれで六人討伐されたんですよ? 不動の執政官が、カイトたちが召喚されて一年も経たないうちに六人も!! これってすごいことですよ!!」

「かもな。だが……魔族の自治区に住む魔族。こいつらを殺す理由はなかったはずだ」

「え?」

「恨みを向ける気持ちはわかる。でも、今の魔族は執政官がいなければ有象無象のザコだ。今までやられたことをやり返すだけなら、魔族も種族もない。クリスティナ……ドワーフの国の魔族はどうなってる?」

「……えっと。報告では、採掘業をさせていると」

「たぶん。自治区に住む魔族は人質だな」

「……どういうことです?」


 簡単な発想だった。

 自治区は噴火口の真上に建設されたあり得ない住処だ。

 そこに住む魔族は、ドワーフを虐げることが当たり前の魔族ばかり。生まれてからずっと『ドワーフは家畜』みたいな言い方をされ育ってきた者たちばかり。魔力やジョブがあっても鍛えることもせず、執政官さえいれば反逆は起きないと思っている魔族ばかりだろう。

 だが……執政官スカピーノがいなくなり、全ての権利がドワーフに戻って来た。

 自治区は敢えてそのままにし、働ける魔族を炭坑や鉱山で働かせる。


「言い聞かせるのは簡単だろうよ。『反乱を起こせば噴火口にある自治区はマグマに沈む』って言えばいい。今の魔族は十二種族を家畜と思ってる以外は人間と変わりないからな。家族が噴火口に沈むかもしれないって思えば、言うことを聞くしかない」

「…………」

「恐らく、十二の地域を解放し、全ての執政官を倒せば……魔族に待っているのは、奴隷の道だ。自分たちがしてきたことを、そのままやられるだけの未来が待っているだろうな」

「……そんな」

「まあ、『原作』では……リクトがハーレム王国を築いて、世界を統合し、いろんな種族が仲良しこよし……みたいになるんだがな」

「え?」

「なんでもない。忘れろ」


 恨みや憎しみを全て忘れ、十二の種族、そして魔族が手を取り合う未来。

 あり得なかった。

 恨み、憎しみは消えない。物語の、フィクションの世界だからこそ許される未来だ。

 だが海斗は違う……魔族が虐げられ、奴隷となる未来が待っていても、それはこれまでやってきた行いが返って来るだけのこと。

 海斗が世界を救ったあと、何十年、何百年か後には、魔族と手を取り合い、奴隷から解放されるようなことがあるかもしれない。

 海斗は十二執政官を倒し、魔族による歪な支配から世界を解放する……それだけでいいのだ。


「未来のことは、未来に任せればいい」

「えーと」

「まあ、リクトが執政官を倒したならそれでいい」

「あの、手紙……最後まで見ました?」

「は?」


 クリスティナは「まったくもう」と言い、海斗が捨てた手紙を拾って広げる。


「エステルの報告によると、リクトは一度帰ってくるみたいです。海洋国オーシャンを経由してから行くようですね……もしかしたら、序列九位『求愛』インナモラティを倒しちゃうかもしれませんね」

「──!!」


 海斗は立ち上がった。

 驚くクリスティナは手紙を落としてしまう。


「……まずい。そうか、その可能性があった……くそ!!」

「か、カイト?」

「クリスティナ。俺も海洋国オーシャンに行く。このままだと、リクトにやられる」

「え、え……?」

「少し出てくる」


 海斗は部屋を出て行った。

 ポカンとするクリスティナは、ただ首を傾げるだけだった。

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