その頃のリクト/執政官の討伐
「ありがとうございます。あなたのおかげで、この獣人の国ヴィーストは救われました」
「気にすんなって。オレは、シャイナに頼まれて戦っただけだ。それに、世界を救うのは救世主であるオレの役目だからな!!」
リクトは、獣人の国ヴィーストを支配していた、十二執政官序列八位『森獣』ジャンドゥーヤを討伐……獣人の国の国王に感謝されていた。
そして、獣人の国の姫であるシャイナが言う。
「リクト、その……ありがとな。アタシなんかのために」
「アタシなんかのために……じゃねえって。オレが、お前を救いたかったから戦ったんだ。それに、オレだけじゃない、お前だって一緒に戦ってくれただろ」
「……リクト」
シャイナは赤面し、モジモジしながらリクトを見つめていた。
リクトはニカッと微笑み、シャイナに手を差し出す。
「シャイナ。オレたちさ、まだまだこれから戦いが続くんだ。お前の力を貸してくれると助かる」
「……はん、決まってるさ。リクト、あんたのためならこの拳、どんな相手にだって向けてやる!!」
こうして、シャイナは獣人の国の代表として、リクトに協力することになった。
人間であるエステル、エルフのトトネ、翼人のネヴァン、妖精のリリティアラに次いで五人目のハーレムメンバーである。
獣人の国を解放し、リクト一行は次の目的地を目指す……のだが。
エルテルは言う。
「次の目的地は、小人の国か、海人の国が近い。だがリクト……一つ、提案がある」
野営時、全員で焚火を囲んでいるとき、エステルが言う。
リクトは、串に刺して焼いた魚を齧って言う。
「提案? あむっ……この魚うっま。塩利いてるわ」
「ああ。一度、デラルテ王国に帰還し、エステル女王にこれまでのことを報告したい。その場合、十二執政官序列九位『求愛』インナモラティの領地である『海洋国オーシャン』を経由する。今の我々……そしてお前なら、序列九位の執政官を倒すのは容易だろう」
「おいおいエステル。『油断すること勿れ』だろ? 序列九位でも、執政官は執政官だ。現に、序列八位の『森獣』ジャンドゥーヤだって、シャイナがいなかったらヤバかったじゃねぇか」
シャイナは、焼いた魚を頭から齧って言う。
「あむ。まあ、リクトの『勇者』の力がなければ、倒せなかったよ。仲間のジョブを強化して、自分も仲間のジョブを使えるとか最強じゃん」
「あっはっは。まあ、オレも強くなってるよな」
串をポイっと捨てると、トトネが言う。
「リクト。油断は禁物……それで、どうするの?」
「んー、まあ、帰るのも悪くないな。カイトとかどうしてるんだろうな」
すると、リリティアラとシャイナが「カイト?」と首を傾げ、ネヴァンがギリっと歯を食いしばる。
「カイト……あたしはあいつを許さない。リクト、あいつは、あたしを殺そうとした」
「わかってるよ。でも、お前も敵だったんだろ。それに約束した……お前はもう、敵以外は殺さないって」
「……わかってるけど。あいつは敵だ」
ネヴァンはリクトにすり寄って甘える。するとエステルが咳払い。
「実は先程、デラルテ王国から手紙が届いた。『救世主』カイトが、執政官序列六位『悪童』ザンニを討伐……霧の国シャドーマを解放したそうだ」
「おお、マジか!! えーと、じゃあこれで……」
「『短気』スカラマシュ、『楽師』スカピーノ、『盲目』タルタリヤ、『森獣』ジャンドゥーヤ、『鷲鼻』プルチネッラ、『悪童』ザンニ……半分の執政官が倒れた」
トトネが言う。
エステルは頷いて言う。
「リクト。わかっていると思うが」
「はいはい。『剣帝』、『狂医』、『恋人』、『道化』に手を出すのは最後だろ。となると、残りは……ああもう、執政官の名前マジで覚えにくい」
「えーと、執政官序列七位『黄金』ステンテレロ、序列九位『求愛』インナモラティですね」
リリティアラが言うと、リクトが「それそれ」と言う。
「じゃあ、アタシらは『海人』の国に向かって『求愛』を倒し、そのままデラルテ王国に報告しに行くってことになるんだな」
「ああ。それがいいだろう……リクト、いいか?」
「いいぜ。それでいこう」
この時……まだ、誰も気付いていなかった。
リクトの行動が原因で、海斗との間に決定的な亀裂が入ることに。
偽善の『勇者』リクトと、狂気の『邪骨士』カイトが出会うまで、あと少し。