あとしまつ
海斗は骨狼に乗ってハインツたちの元へ。
ザンニが敗北し、残っていた蛇たちを全て消滅させた。
けっこうな時間が経過していたのか、ちょうど朝日が昇り始めた頃、海斗はハインツたちの元へ戻ることができた。
「あ、カイト。生きてるし」
「ハインツ並みに悪運は高いな」
「おいてめえら、オレのこと馬鹿にしてんのか?」
『ンモォ』
骨狼を消し、海斗は三人……と、よくわからない牛を確認する。
「お前ら、無事だったか」
「けけけ、オレの強さを見せてやりたかったぜ。現れる蛇をバッタバッタと斬り刻んでよぉ!! おいカイト、ボーナス頼むぜマジで」
「そうそう!! ダンジョンの財宝、あたし忘れてないからね」
「くくく。本を買おう。家を買い立派な書斎を作るのもいい……くくく、夢が広がる」
『ンモォ~』
「……おい、この牛なんなんだ」
海斗は、顔を近づけて来るブラックモーモのモータンを遠ざける。
ナヴィアが「あたしらの仲間!!」と、森で出会った経緯を説明。とりあえず害はなさそうなので海斗は無視し、周囲を見渡す。
「他の連中は?」
「見回りだ。あの研究施設の調査をするとよ。お前がいるかもしれねえってイザナミが言ってたぜ」
「それと、研究施設なのだから、何か重要なモノがあるかも、と言っていたな。まあ、ボクらの任務は執政官の討伐だから、関係ないのでここで待機しているというわけだ」
「……なるほどな」
三人には言えないが、ザンニは海斗の『影』になった。仮に重要な何かがあったとしても、ザンニ本人がいる以上、海斗には必要ない。
すると、ズルズルと何かを引きずる音がした。
振り返ると、そこにいたのは。
「「「げっ!?」」」
「……ああ、負けたのねぇ」
「まあ、そうだろうな」
スサノオの身体にロープを巻き、引きずるアマテラスだった。
二人ともボロボロだ。ハインツが突撃槍を抜き、マルセドニーが右手を、ナヴィアが鞭を取り出す。
海斗はアマテラスたちより、とっさに武器を手に構えを取り臨戦態勢を取るハインツたちに驚いた。言動こそざまあキャラだが、もう立派な『戦士』である。
海斗は三人を手で制する。
「お前ら、俺らとやるつもりか?」
「……いいえ。ザンニ様は倒されたのでしょ? だったら、私たちが勝てるわけないわ」
「うむ……お前たちこそ、我々を始末するのだろう」
海斗は少し考え、二人に確認する。
「お前ら、ザンニが死んだらどうするつもりだった?」
「べつに……考えてないわ。ザンニ様が死ぬなんて考えてもなかったし」
「同感だ。だが、同胞たちがこれ以上の苦痛を感じることがないというのは、ありがたいがな」
同胞たち。その言葉に、海斗はピクリと反応する。
「お前らは殺さない。その代わり……魔族の代わりに、異種人たちを集めて統治しろ。腐ってもここは国で、まだ数千……いや、数万単位の異種人たちが、各研究施設に残ってる。もう実験が行われることはない。国として、住人を統治しろ」
「住人? 実験体でしょ?」
「これからは国とするんだよ。どうする? お前が女王になるか、そっちのお前が王になるか」
「オレは武人だ。戦うことしかできん」
「女王。なんかいいわねえ……じゃあ、私が女王様ね」
アマテラスはケラケラと笑う。すると、研究施設からイザナミ、クルル、ツクヨミが戻って来た。
スサノオたちを見て警戒するが、海斗がいるのを見てすぐ警戒が消えた。
「カイトさん!! よかったあ、無事でしたか」
「ああ。お疲れ、クルル」
「……カイト。カグツチ、は」
「…………」
海斗は首を振った。イザナミは俯き、「そうか……」とだけ呟く。
当然、死んでいない。イザナミは死んだと思ったようだが、海斗は死んだとも言っていないし、「ここにはいない」という意味で首を振っただけ。今は、生きていること、海斗の『影』になったことは言えないし、言うつもりもない。
「おいカイト。コイツら、なんでここに?」
ツクヨミがアマテラスを指差して言う。
海斗は、アマテラスが女王となり霧の国シャドーマを統治することを言う。
「おいおいおい、こんな女に統治とか無理に決まってんだろ」
「はあ? アンタみたいないい加減野郎に言われたくないね」
「その辺は……クリスティナに任せるか。デラルテ王国から文官とか派遣すれば、まあ何とかなるだろ」
クリスティナの心労、疲労が増えた瞬間であった。
海斗は一呼吸入れ、全員に言う。
「とにかく、霧の国シャドーマは解放だ。執政官討伐四人……いや、リクトのを入れたら五人目。魔族の支配からの解放は近づいてる」
こうして、霧の国シャドーマは解放された。
◇◇◇◇◇◇
その後。
デラルテ王国に帰還した海斗たちは、ありのままをクリスティナに報告。
執政官の討伐に喜んだが、霧の国シャドーマの支援を頼むと「し、仕事……また増えました」と顔色を悪くした。
霧の国シャドーマにはデラルテ王国の支援のもとで、異種人たちによる新たな統治が始まる。
女王アマテラスはデラルテ王国の文官たちから国政を学び、スサノオは戦闘ができる三種混合の異種人を部下として兵隊を作った。
もう実験を行う必要がないと、二種混合の異種人たちは喜んでいた。
ツクヨミは、海斗たちと一緒にデラルテ王国へ。
そのまま、海斗の仲間として救世主チームに加わった。
ハインツと仲が良く、一緒に酒を飲んだり、娼館に通ったりと楽しんでいる。徒手格闘の達人でもあるので、デラルテ王国に新設された徒手格闘部隊の隊長を任された。
意外も意外。言葉使いこそ粗暴なところもあるが、面倒見のいい隊長として部下に慕われているとかいないとか。
ダンジョンの報酬の七割は、霧の国シャドーマの運営資金となった。
ハインツたち三人は文句を言いまくったが、これからのシャドーマには資金が必要なことを言うと、かなり迷ったようだが諦めた。だが、残りの三割だけでも相当な大金で、六分割して分けた。
これまでハインツたちがもらってきたボーナスの二十倍ほどの報酬になり、それだけでも大喜びしていたようだ。
ちなみに、ハインツたちが連れて来たブラックモーモのモータンは、これからの移動運搬で使われることになった。
イザナミは、妹であるカグツチが死んだと思っている。だが、妹という存在にまだしっくりきていないのか、今ではもういないことに対し何かいうことはない。
海斗の仲間として、今はデラルテ王国の騎士たちを訓練している。
クルルも、「今回、あんまり活躍できませんでした……」と微妙に落ち込んだが、すぐに復帰。
報酬で、王都の一角に小さな自分用の家を買い、鍛冶場として使うことにした。よくイザナミが刀の研ぎを依頼したり、ナヴィアが遊びに行く姿が見られている。
そして、海斗。
これまでと変わらず訓練に励み、己の力を高めている。
そう、表向きは。