十二執政官序列六位『悪童』ザンニ⑧
海斗は、骨狼の背に乗って、限界まで走らせていた。
血肉がない骨なので疲労を感じることがない骨狼。さらに、海斗の力で強化されているので、走る速さは車以上だ。
だが、ザンニは地を這いながら追って来る。正直、強さ云々より大蛇が追いかけてくるという光景が海斗にとっては恐怖……だが、負ける気はしない。
『待ってくれよ、おーい、ここからどうするんだい?』
ザンニは、ここから海斗がどうするのか、そればかり聞いてきた。
強いから勝つ、負けるとかではない。ただ自分が知りたいから、海斗を追って来ている。海斗は思う……恐らくザンニは、この戦いの勝敗など、興味がないのだと。
海斗がここからどうするか。それを知りたいだけなのだ。
「もう少しいい場所で……」
ヨミヒラサカを出て、平原を走る。
このままでは国境を出てしまう。海斗は軽く舌打ちする。
「この先は鬼人の領地……戦いの国ゼタか。領内に入るとカピターノが気付くかもしれない」
十二執政官序列四位『剣帝』カピターノ。
そこにも魔王の骨はある。だが、今は近づけない。
海斗は周囲を見る。
「……よし、いけるか」
海斗は骨狼を停止させ、こちらに這ってくるヨルムンガンドに手を向ける。
『おお、何をするんだい? ねえねえ、見せておくれよ』
「ああ、見せてやるよ。第三の権能……『無限骨重』!!」
海斗が右手をヨルムンガンドに向けた瞬間──ヨルムンガンドの身体に、強烈な『負荷』がかかった。
地面に亀裂が入り、身体が沈む。
ヨルムンガンドは何が起きているのか理解できなかった。だが、喋ることはできた。
『あ、っが……こ、れは……!?」
「第三の権能『無限骨重』……魔王の背骨の力。この力は、対象の骨の重量を増加させる。その重量は『対象が動けなくなる重量』までだ。つまり、お前は自分の骨の重さで動けなくなってるんだよ……!!」
骨の重量を増加させる権能。
しかも、権能が『対象が動けなくなる重量』に到達するまで、骨の重量を増やし続ける。
スキルによる拘束などは存在するが、この力は物理的、骨を持つ生物なら全て有効となる。逆に……骨のない生物にはまったく効かない。
弱点は『骨のない生物』と、『権能発動中は海斗は動けず、さらにほかのスキルも使えない』という。
「……その大きさなら、骨の重さだけで自壊は時間の問題だな。さあ、どうする」
メキメキと、ヨルムンガンドの骨が砕け始め、砕けた骨が身体を突き破り始めた。
ヨルムンガンドは吐血。
『こ、ヵ』
喋れないようだ。が……大きな口が少しだけ開くと、小さな塊を吐き出した。
同時に、ヨルムンガンドが自重で潰れ、そのまま塵となって消滅。
小さな塊は、魔性化形態のザンニ。だが、身体が酷く損傷し、ボロボロの状態だった。
「ひどいねえ……救世主くん」
「礼はいい。さて、まだやれるなら……ここからが本番だ」
海斗の背後に、魔王の右手、左足が浮かぶ。
するとザンニは両手を上げた。
「降参するよ」
「……あ?」
「降参。まあ、このまま戦ったら、たぶん負ける。キミに深手を与えるくらいはできるけど……倒せないんじゃやっても意味がない。それにさ、見てみたいんだよね……」
「…………」
シュルシュルと、ザンニは魔性化を解き少年の姿へ。
傷も全て消えていた、が……核が損傷し、寿命を犠牲にして修復したのか、酷く弱っているように見えた。
「力、かなり落ちたねえ……スカラマシュと同じくらいにまで落ちちゃったよ。これじゃ、サクヤやキミの仲間に簡単に殺されちゃうや。それに、ボクの同胞にも、ね」
「…………く、ははは、ハハハハハ!! なぁるほどなあ」
海斗はククリナイフを手にザンニへ近づき、その頬をナイフの腹でペシペシ叩く。
「お前、見たいんだな? 俺が『魔王の骨』を全て身体に納めるところ。そして……その先を」
「ああそうさ。それに……キミ、欲しくない? ボクの知識。例えば……『魔王の骨』の在処」
「それは知ってる。執政官の情報もあるし、魔王の骨の位置も全部わかる。お前……他に、俺に何を差し出せる?」
「……忠誠、かな?」
ザンニはニヤリと笑い、恭しく一礼する。
「他の魔族とも手を切る。というか……ボクが消えたら、間違いなく死んだと思われるよ。だってキミ、すでに三人の執政官を倒してるでしょ? 序列五位のプルチネッラを容赦なく殺したのに、序列六位のボクを生かしておくなんて、ドットーレも考えないはずさ。それに、見てわかるだろ? 核の修復に寿命の半分を消費したから、今のボクは執政官でも最弱。スカラマシュのクズと同じ程度にまで落ちた。さらにさらにさらに~、切り札のヨルムンガンドを失い、全ての研究データはドットーレの管理する医療都市ハレルヤへ。あるのは、この身一つ……まあ、全ての研究データは、ここにあるけどね」
「ふーん。で……要求は?」
「研究施設かな。キミの身体のデータが欲しい……ああ、言っておくけど、異種人の研究はもうやめるよ。キミっていう最高の素材がいるからね。ボクの目的はあくまで『魔神様の器』を作ること……それが達成できるなら、何もいらない」
ザンニは本気だった。
本気で、『仲間にしろ』と言っているのだ。
海斗は言う。
「敵は殺す。敵の幹部は殺す。女だったら生かして改心させてハーレムに加える。悲しい過去を持つ悪役は救う。クズの悪役はたとえ女だろうと殺す」
「あは、なにそれ? どこの偽善者?」
「いや? テンプレってやつだ。異世界では、そういう偽善的な行いをするクズが存在する。で……俺は、そういうのが大嫌いなんだよ」
「へー……じゃあ?」
「いいだろう。十二執政官序列六位……いや、もう『元』六位か。『悪童』ザンニ。お前を、俺の仲間にしてやるよ」
海斗はザンニの胸に触れる。
「…………あ?」
胸があった。
つつましいが、間違いなく女にしかない膨らみだ。
ザンニを見ると、子供のように笑いだした。
「あ~っはっはっはっはっはっは!! あれれ、キミまさか……ボクのこと男だと思ってた? アッハッハッハ!! そっかそっか。そうだよねえ……執政官の誰も知らない、ボクさあ、身体は女なんだよね。男だとみんなに思わせてたけど、ボクも身体が女なだけで、気持ちは男だからすっかり忘れてたよ」
「…………」
二十秒経過。海斗はザンニの胸あら手を離す。
「『骨爆弾』設置完了。しかも、威力をかなり増やしたから、発動させればお前は粉々に吹っ飛ぶ」
「うんうん。構わないよ。ねえ救世主くん……いや、カイトかな? これからよろしくね♪」
「ああ。それと、お前の死を偽装するぞ」
「問題ないよ。魔族は核を破壊されると骨も残らないし、研究データはドットーレの元へ送った。ドットーレなら、ボクが命を賭けてカイトを研究するってわかってるんじゃないかな? 他の執政官は興味も持たないだろうし心配ないよ」
「……なら、行くぞ。俺がお前を倒したことにする……ヨルハ」
海斗がそう言うと、木陰からヨルハが現れた。
ザンニは「わお」と驚く。
「ヨルハ。今日からザンニも俺の仲間だ。納得できないか?」
「はい。こいつは危険です……が、問題なく処理できると思うので、問題ありません」
「よし……おいザンニ、金はあるか?」
「いちおうあるよ」
「なら、それを回収して、以降はヨルハの指示をあおげ。デラルテ王国で合流するぞ」
「はいはーい。ふふふ、楽しくなってきた。こんな刺激、初めてかもね」
ザンニは、ヨルハと共に闇へ消えた。
残された海斗は、骨狼を召喚。背に跨る。
「テンプレになんか、従ってたまるかよ」
こうして、ザンニを倒すのではなく『仲間』にした海斗は、ハインツたちの元へ戻るのだった。
霧の国シャドーマは解放され、魔族の脅威が消え去った。





