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十二執政官序列六位『悪童』ザンニ⑥

 『悪童』ザンニの魔性化形態は、当然海斗も知っている。

 『蛇王アンフィスバエナ』と契約しているザンニは、無限に蛇を召喚できる。

 そして、霧の国全体に『蛇』を放ち、それを経由して国全体を監視している。

 その蛇のサイズは様々だ。大中小と大きさが違うのもあれば、戦闘に特化した異形の蛇もいるし、擬態に長けた蛇もいれば、全身が甲殻で覆われた蛇もいる。

 ザンニは、それら全てをこのヨミヒラサカに終結させていた。

 そして、自らの身体を蛇で包み、『繭』のような状態へ。


「はは、羽化でもするのか? そして……俺が、それを待つとでも?」


 海斗が左足を踏みしめると、天井を突き破って巨大な『左足』が落ちて来た。


「『魔王の踏潰(オーバー・スタンプ)』!!」


 ズドン!! と、蛇が集まった『繭』に直撃するが、ビクともしない。

 踏みしめた床にすら亀裂が入らない。海斗は舌打ちした。


「そういや、こいつのジョブは『変質士』だったな。物体の素材を変える力……床を硬い物質に変えて、衝撃を無効化させやがった」

『それもあるけど、柔軟なゼリーにして、衝撃を吸収したってのもあるよ』


 繭から声が聞こえて来た。

 海斗はククリナイフを向けると、繭に亀裂が入る。

 そして、繭が溶けるように消え、現れたのは。


「はぁぁ~~~~~~…………いい気分だねぇ」


 ザンニだった。

 だが、身体の大きさが違う。

 海斗と同年代ほどだった身体つき、顔付きが成長していた。

 二十歳ほどの青年の姿だ。白衣が消滅し、身体中に『蛇の皮』を巻いたようなコートを着こんでいるように見える。

 さらに、後頭部からは無数の蛇が髪のように伸び、下半身は蛇の身体となっていた。

 目も、蛇のような縦長の瞳孔。さらに舌もシュルシュルと蛇のように出し入れしている。

 尾の長さは数儒メートルはある。意外にも細く見えた。


「久しぶりに、ボク自身で戦うことになるなんてねえ……フフ、救世主くん、キミにはしてやられたよ。というか、ますます興味が出てきた」

「そりゃけっこう。でも、お前は死ぬ……もう、『核』に傷が付いてるだろ?」

「まあね。でも、致命的な傷じゃない。寿命の半分を犠牲にすれば修復も可能かな……まあ、それでもかまわない。寿命が半分もあれば、キミをじっくり調べられる」

「へえ、やっぱお前は天才だな」


 海斗を調べれば、ザンニは遠からず『魔神の器』としてピッタリな素材だと気付くだろう。もちろん、海斗はそんなことをさせるはずはない。

 

「ザンニ。ここではっきり教えてやる。お前がやってることは正しいよ」

「へえ?」

「俺は、『魔神エレシュキガル』の器だ。俺を殺し、魔王の骨を全て身体に取り込めば、エレシュキガルの器として確実なものになる」

「……自分が何を言ってるのかわかってるのかい?」

「ああ。お前に教えてやるのは、それが無理だから。そして、お前がここで滅びるからだ。くく、クハハハハハハハハハハッ!!」


 海斗は、右手で弄んでいた『魔王の背骨』を見せつけ、叫んだ。


「さあ、見せてやるよ……『魔王骨命(オーバー・リ・ボーン)』!!」


 ◇◇◇◇◇◇


「グガァァァァァァァァ!!」


 サクヤは、もう敵しか見ていなかった。

 三本の刀を持つ女、小太刀を二本構える少女。

 コノハナが死ぬ。それを阻止するためには、目の前にいる『敵』を殺すしかない。

 薙刀を振り回すが、その動きは洗練されている。


「殺すのは簡単だが……それができないのは面倒だ」


 ヨルハは、三本の刀をジャグリングしながらサクヤの薙刀を受ける。

 二刀流から一刀流、二本の剣を合体させ一本の双刀にし、さらに一本の刀を足の指で掴み、蹴りのモーションで振る。

 カグツチは、その動きに驚愕だけじゃない。見惚れていた。


(す、すごい……)


 ヨルハは、リクトのハーレムで最強に近い実力を持つ。

 単純な戦闘力だけで言えば、ハーレム最強と言ってもいい。原作でも『リクトに惚れる』という愚行さえなければ、ハーレムメンバーを半分は確実に殺していた。

 それくらいの強者。カグツチではヨルハを殺すのは不可能だろう。


「此花咲夜流……『桜花』!!」


 薙刀による連続突き。

 カグツチは辛うじて躱すが、ヨルハは最低限の動きで躱し、懐から取り出した『手裏剣』をサクヤに投げつける。

 手裏剣は、サクヤの腕で防御……竜麟にはダメージがない。

 

「後輩その二」

「…………え? あ、わ、わたしですか? は、はい。カグツチです」

「カグツチ。私はあの『もののけ憑き』を無力化する策を用意しています。が……少々動きが速く、狙った一撃を繰り出すのが『やや困難』な状況です。ほんの二秒でいいので、動きを止められますか?」

「えーと……」


 カグツチは、まだ難しい言葉がわからない。が……動きを止めろと言われたのは理解した。

 頷き、小太刀を構える。


「わかりました。やってみます」

「ではお任せします」


 ヨルハが消えた。

 部屋にはいるはずなのだが、全く気配がつかめない。

 すると、サクヤが薙刀をブンブン振り回し、周囲に竜巻のようなものが形成された。


「此花咲夜流、『螺旋風』!!」

「……」


 とどめの一撃とするつもりなのか、サクヤは叫ぶ。


「妹は死なせない。守る、私が……!!」

「あなたの気持ち、ちょっとだけわかります」

「……何!?」

「わたしも、妹だから。イザナミ……お姉ちゃんが、わたしを見る目、あなたと同じでした」

「…………」

「だから、わたしは……あなたを止めます」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 カグツチは、走る。

 小太刀を構え、サクヤに向かってまっすぐと。


(──わたしにも、できるよね)


 額が熱くなり、何かが飛び出た。

 竜麟が全身を包み、盛り上がり、まるで鎧のようになる。

 髪が真っ白になり、瞳の色が変わり……手にしていた小太刀にも竜麟が絡みつき、形状が変わる。


「な……!?」


 サクヤの技が中断された。それほどの衝撃だった。

 同時に、思い出すのはザンニの言葉。


『理論上、三種の異なる種族の血を混ぜて生み出されるだけで、異種人としては完成する。あとは……血を混ぜれば混ぜるほど、その力を引き出しやすくなるんだ』

『ジョブ能力、身体能力、そして肉体変化……これら三つが組み合わさり、その力を開放することを『竜鬼解放』っていうんだけど、これは四段階に分けられる』

『クォーター、ハーフ、スリークォーター……これらの開放は、血が混ざれば混ざるほど、解放しやすいってだけで、混じった血の多さに優劣なんてないんだよ』

『でも、理論では越えられない最後の壁を越えた異種人にだけ開花させる究極の形態。フル解放』

『サクヤちゃん。キミは一番そこに近い位置にいる。頑張ってね』


 目の前にいるのは、竜の外殻を纏った『フル』の異種人。

 サクヤは、サクヤがいた『位置』を一瞬で通り過ぎた。


「──っがぅぁ!?」


 全身を浅く斬り付けられ、サクヤの身体から血が噴き出した。

 小太刀による連続斬りである。


(み、見えな……)


 ズシン、とサクヤの身体に電流が走ったような衝撃。

 いつの間にか、背後にヨルハが立ち、苦無で背中を刺したのだ。


「血管や内臓を避けて刺した……ここだな?」


 苦無の先端は、『鎖蛇』の頭を正確に潰していた。

 苦無を抜き抜くと、先端に蛇の頭が刺さっている。それを掴んで引き抜くと、サクヤの体内から『鎖蛇』が抜き取られた。


「…………ぁ」

「苦無には麻酔薬が塗ってある。しばし眠れ」


 サクヤは倒れ、そのまま意識を失うのだった。

 そして、カグツチがヨルハの元へ。


「終わったんですか……?」

「うむ。もう、死に怯える必要はなくなった。カグツチ……見事な技であったぞ」

「は、はい……あの、あなたは一体」

「拙者はカイト殿、主の『影』だ。カグツチ……今日からあなたもだ」

「わ、わたしも?」

「うむ。悪いが拒否はさせん」

「…………わ、わかりました」


 カグツチは、頷いた。

 今は、姉イザナミのことより、ヨルハの方が気になっていた。

 華麗な技、その強さ……カグツチは、もっと強くなりたいと思うようになっていた。

 ヨルハは言う。


「ところで、なぜ全裸なのだ?」

「えっと、さっきみたいに変身すると、内側からこう……肉が変わるというか、服はそのままビリっと爆ぜちゃって」

「ふむ、不便なものだ」


 ちなみに、カグツチは育った環境のせいか羞恥心が薄い。全裸で実験を受けることは当たり前だったし、男女関係なく実験を行うこともあったので、異性の裸体というものは「オスメスの違い」程度にしか思っていない。

 同様に、ヨルハも同じだった。羞恥心とは無縁の生活、環境だったので、カグツチが目の前で全裸でも気にしていない。シーツや替えの服を渡すという気の利いたことはしなかった。

 なので、そのまま。


「次の指示だ。主の加勢は不要。このまま裏口から脱出し、コリシュマルドと合流する」

「……えっと、誰ですか?」

「我らと同じ『影』だ。彼女も連れて行くぞ」

「は、はい!!」


 ヨルハはサクヤを担ぎ、海斗と対峙しているザンニを見る。


「……あれは強い。主、どうかお気を付けて」

「……カイトさん」


 ヨルハは扉の先へ。カグツチもぺこりと頭を下げ、出て行った。

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確認したいのですが。 終結→集結ではないでしょうか。 集まっているので此方のほうかと。
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