表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/113

9、三人のクズ③/我儘な『聖女』

 エンティア大聖堂。

 人間は、魔族によって『祈る神』を剥奪されたが、祈る行為は咎められていない。

 人間は何に祈るのか。それは自らを苦しめる『魔神』ではなく、奇跡の力を持つ存在。

 すなわち、ジョブ能力者。そして大聖堂、聖職者たちが崇めるのは、神の軌跡を持つ『癒しの聖女』であった。

 現在、この世界に癒しの力を持つ者はごく少数……そして、デラルテ王国には一人しかいない。

 その者の名は、『聖女』ナヴィア。

 若干十七歳。エンティア大聖堂で最も広く豪華な部屋を宿にして、寄付金を使い贅沢三昧をする少女。

 今日もナヴィアは、我儘を言っていた。


「祈りの時間~? それに信者たちへの顔見せとかダルいし~……あたしに似た女にローブ着せて、適当に手ぇ振らせとけばいいじゃん~……いいでしょ?」

「わかりました。そのように」


 ナヴィアは、ソファに寝そべり、クッキーをボリボリ食べながらジュースを飲み、大きな欠伸をしていた。

 見てくれは、間違いなく美少女だった。

 柔らかで長く伸びた桃髪、小顔できめ細かな肌、ぱっちり開いた瞳、そして豊満なスタイル……だが、それらを台無しにするくらい、今のナヴィアは酷かった。


「ふぁぁぁぁぁぁ~……だっる。そういや、救世主の相手するの今日だっけ。めんどくっさ……なんかもう飽きたし、やめちゃお」


 ナヴィアが冒険者登録をしたのは、なんとなく面白そうだったから。

 救世主相手に手ほどきを頼まれたのも、異世界から来たという存在に興味があったから。

 そして、王室御用達の化粧品をもらえるから。

 だが、ナヴィアはもう飽きていた。

 

「お昼寝~……」


 とりあえず、今日は昼寝をすることにしたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 お昼になり、昼食が運ばれてきた。


「うっげ……肉~?」

「はい。こちら、ドワーフの国から取り寄せた……」

「パス~、お魚食べたいわ~、お肉捨てちゃって~」

「し、しかし……」

「いらない、っつってんの。わかる? 聖女様の命令よ? 逆らうと奇跡起こせなくなるよ?」

「し、失礼しました!!」


 ドワーフの国から取り寄せた高級肉は、一口も食べることなく廃棄される。

 寄付金の四割が、ナヴィアの無駄遣いで消える今の現状。


「この甘ったれも問題だが、それと同じくらい問題なのは……この状況を受け入れてる大聖堂だな」

「はぁ?」


 突如、部屋に入って来たのは海斗だった。

 そして、海斗の背後には一人の少女……まだ七歳ほどだろうか。

 他にも、十名以上の司祭たちが、海斗の背後に立っていた。


「あんた、救世主じゃん……何よ、勝手に人の部屋に~」

「お前、聖女クビになったから」


 あっさりと、海斗はナヴィアに死刑宣告。親指を立て、自分の首を掻っ切る真似をした。

 ポカンとするナヴィア。カイトは少女の背を押す。


「この子はシンディ。お前と同じ『聖女』のジョブを持つ少女だ。孤児院にいた子供でな、お前とは違って清らかな心の持ち主なんだ」

「は? は? せ、聖女って……」

(原作三巻でお前の後釜が決まって、立派な聖女としてやっていくって言ってもしょうがねぇか。それにクリスティナが後継人になったし、大聖堂の司祭がクズじゃないかぎりなんとでもなる)


 心の声だけで言い、海斗はシンディに言う。


「シンディ。心の声に従って言ってくれ。『聖女』になって何をしたい?」

「わ、わたし……わたしみたいに、食べるのや着るのに苦労してる子供たちを、たすけたいです……」

「司祭たちも、同じ考えか? 救世主としての、俺が質問する」

「もちろん、人々を救うために存在するのが聖女様であり、その手伝いをするのが私たちの役目」


 司祭たちは一斉に頭を下げた。

 そして海斗はやや躊躇い、ナイフで腕に傷を付ける。


「っぐ……おいナヴィア。お前が聖女ってんなら、俺の傷を治してみろよ」

「はぁぁ? な、なんでそんなこと」


 と……司祭たちが、一斉にナヴィアを見た。

 眼を見開き、ゾッとするような冷たい目で。

 ナヴィアはビクッとし、震える手で海斗の腕に手を伸ばす。そして、弱々しい光が海斗の手を包むが、中途半端なカサブタができるだけで、止血すらできなかった。

 そして、海斗はシンディに手を伸ばす。


「えっと……す、スキル、『ヒール』」

 

 淡く温かな光が海斗の腕を包み、傷が塞がり、綺麗に完治した。


「真の聖女がここに現れた!! こいつは偽物だ!!」

「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

「え、ちょ、うそ、まっ」


 司祭がナヴィアに殺到……ナヴィアは拘束され、そのまま大聖堂の外に放り出されるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 海斗は、着の身着のままで放り出され、大聖堂裏のゴミ置き場に叩き込まれたナヴィアの元へ。

 そして、どんよりした眼で海斗を見るナヴィアに言った。


「お前の堕落した生活も終わり。今日から汗水たらして働くんだな」

「お、まえ……ッ!! お前が余計なことするから、あたしがこんな!!」

「こんな? 何? お前、ジョブだけでスキルを一つも持ってないくせに『聖女』気取りで、寄付金を小遣いみたいに使う生活がそんなに楽しかったのか?」

「あたしは『聖女』よ!? みんな崇めてくれるし、何したっていいって!!」

「でもそれは、お前に限ったことじゃない。現に、お前以上の『聖女』が現れたら捨てられただろうが」

「なっ」

「お前、『聖女』はジョブだぞ? あの司祭どもは、魔神に代わって崇拝する偶像が欲しかっただけだ。で、お前がそれだった……お前が特別じゃなければ、別の特別を崇拝する。で、お前は捨てられた」

「…………」

「まあ、シンディに代わってさらに強い力を持つ『聖女』がいたら、シンディも捨てられるんじゃないか?」


 海斗がそう言うと、納得できないのかナヴィアは震えて歯を食いしばる。


(まあ……実際には、シンディは真面目に『聖女』のジョブを鍛えつつ、国民のためにいろいろ尽くして真の聖女となるんだけどな)


 やや白けた感じでナヴィアを見る海斗。

 すると、ナヴィアが言う。


「……どうすりゃいいのよ」

「は?」

「あたし、どうすればいいのよ!! ごはんとか、食べ物とか、お金とか、どうすりゃいいのよ!! 誰がやってくれんのよ!!」

「馬鹿かお前。そんなの、お前がやるしかないだろうが」

「ど、どうやってよ!!」

「ははは。奴隷にでもなるか? 俺の奴隷になれば、朝昼晩と三食付き、おやつも付けてやる。その代わり、死ぬまで働いてもらうけどな」

「……な、なっ」


 ナヴィアは後ろに下がる。

 何を想像しているのか知らないが、海斗はざまあキャラであり、さらにゴミ捨て場に叩き込まれたことで生臭い、身体に野菜くずの付いた女をどうこうするつもりは欠片もない。

 なので、あえて強く、脅すように言う。


「奴隷じゃない選択肢ならあるぜ?」

「……え」

「お前、俺は何だ?」

「は? あんたは……救世主」

「そうだ。つまり、俺はこの世界を救う……ハインツ、マルセドニーも俺に屈した。お前も俺に屈しろよ。そうすれば、仲間として迎えてやる」

「……え」

「『聖女』……偶像としてのお前は死んだけど、ジョブの能力は残ってる。これから死ぬほど訓練して、スキルを獲得し続けて俺の役に立て。そうすれば、お前の立場は『利用価値のある聖女』から、『替えの利かない世界を救った聖女』になる」

「はああ!? ま、まさか……マジで魔神を、魔族と戦うつもり!? 無理無理無理無理、死ぬに決まってんじゃん!!」

「俺はできるし、やる。いいか……お前も来い。それしか、お前の生きる道はないぜ」

「……ッ」


 ナヴィアは、海斗を睨む……怒りを、恨みを込めて。

 そして、小さく呟いた。


「……わかった」

「決まりだ。まあ、よろしく頼む」


 海斗の差し出した手を、ナヴィアが掴むことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~
レーベル:GA文庫
原著:さとう
イラスト:山椒魚
発売日:2025年 5月 15日
定価 863円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
iafemxj63vzbenw1cozh6eykl32_k9p_k8_sg_2x9u.jpg



お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ