十二執政官序列六位『悪童』ザンニ⑤
ハインツ、マルセドニー、ナヴィア。そしてイザナミにクルル、ツクヨミの六人……プラス、ブラックモーモのモータンは、海斗たちより一時間ほど遅れて『ヨミヒラサカ』に到着した。
が……到着するなり、その『異常事態』に嫌でも気づく。
ナヴィアは、顔を真っ青にして震えていた。
「なな、なになになにこれぇぇぇぇ!! へへ、ヘビ、ヘビぃぃぃぃ!!」
そう、『蛇』である。
ヨミヒラサカにある巨大な『研究施設』に、大小様々な『蛇』が集まり、絡みついていた。
それだけじゃない。イザナミたちを敵と認識しているのか、無数の蛇がイザナミたちを包囲する。
イザナミは刀を抜き、襲い掛かって来た蛇を両断。
「……どうやら、戦いはすでに始まっているようだ」
ズドン!! と、クルルもハンマーを地面に叩き付けて蛇を圧死させる。
「すごい数……一万、二万匹?」
「それ以上だな。ザンニの『蛇』がこんなに集まるなんざ初めてだぜ」
ツクヨミは、ジャンプして喉笛に喰らいつこうとしていた蛇を素手で掴み、頭をグチャっと握りつぶす。
モータンは、三人を乗せたままワタワタしていた。足下にいる蛇が恐いようだ。
マルセドニーは、モータンの背で揺れながら言う。
「どど、どうするんだっ!? かか、カイトの元へ、行くにはっ、この蛇を、なんとかかっ」
「むりむり、こんなの、怖くて行けないしっ!!」
「ってか、数、数やべえって!!」
『モォォォォォッ!!』
すると、人間を丸呑みできるサイズの『蛇』が地面から現れた。その数、二十以上。
イザナミ、ツクヨミは竜鬼形態となり言う。
「どうやら……私たちの仕事は」
「おう。ここらの蛇を一掃することだな。ハハッ、強い気配をいくつも感じやがる……ザンニのヤツ、カイトに何かされたのかね? こんなに蛇を出すなんて珍しいなんてモンじゃねぇぞ?」
「あはは……カイトさんなら、やりそうですね」
「「「同感」」」
ざまあ三人組の声は綺麗に揃った。
イザナミは言う。
「……蛇を始末するぞ」
「おう。おいそこの三人、オメーらも手ぇ出せよ?」
「うっせえな。やるに決まってんだろうが!!」
「……正直、ヘビは苦手なんだが」
「あ、あたしも苦手なんてモンじゃない。あんなニョロニョロしたのキモすぎるし~!!」
「よーし。潰しますよ!!」
こうして、研究施設の外で、イザナミたちの戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
一方その頃。
研究施設の反対側では、コリシュマルドとコノハナがいた。
二人は、研究施設の外にある研究員の宿舎にいた。
コリシュマルドの手には、『鎖蛇』が摘ままれていた。
「つまり……わたしと、おねえちゃんの心臓、にも」
「ええそう。アナタのはすでに除去したけど、お姉さんの心臓にはまだ、ザンニの『鎖蛇』が巻き付いたまま」
「……そんな」
コノハナは、驚愕の事実を突き付けられていた。
ザンニは、コノハナをただの実験動物としか見ていないこと。コリシュマルドの水晶に映った『遠見』で、ヨルハが化けたコノハナがゴミのように始末されそうになったのを見た。
「あなたは、サクヤっていう強大な『戦力』を制御するためのストッパーだったようね。でも、その役目はもう終わったみたい……」
「…………」
「もう、わかったでしょう?」
コリシュマルドの足下には、宿舎に残っていた研究員の魔族が、『解体』された状態で転がっていた。
『鎖蛇』の真実を知らせるために始末した魔族である。同時に、いくつか面白い物も手に入れた。
そして、コリシュマルドは言う。
「カイトは、あなたを救うために身代わりを立てたの。ヨルハ……『傾奇者』のジョブを持つあの子をね。結果的に、お姉さんは暴走しちゃったけど……安心なさい。ヨルハなら、あなたの手術をした時に『鎖蛇』がどのように巻き付いているのかを観察した。あの子の剣術なら、心臓にダメージを与えずに、鎖蛇だけを殺すことができる」
「……じゃあ」
「ええ。見ていたでしょう? カイトはザンニを倒す。そうすれば、もうあなたたち姉妹は、脅かされることもない……二人で暮らせるわ」
「…………」
コリシュマルドは、ニヤリと笑って話を続ける。
「でも……自由になる前に、カイトのお願いを聞いて欲しいの?」
「お願い?」
「ええ。カイトは今、私やヨルハのような、表舞台には出ない『影』を作っている。カイトの目的が達成されるまで、そのお手伝いをして欲しいの」
「……わたしと、おねえちゃんが?」
「ええ。ふふふ……どうする?」
「……おねえちゃんが本当に助かるなら、自由になるなら……おねえちゃんも一緒なら、わたしは手伝ってもいい。ザンニ様……ザンニは、わたしを必要としていないから」
「そうね。必ず、あなたのお姉さんを救うわ」
コリシュマルドは、宿舎の一室にある椅子に座り、テーブルの上に水晶を置く。
スキル『遠見』……遠くの景色を水晶に映すスキルで、カイトたちの今を見る。
「さあ、ここで見ましょうか。この戦いの行方を、ね」
「……」
コノハナは頷き、コリシュマルドの後ろから水晶玉を覗き込むのだった。