六種混合異種人『円壊』のスサノオ
クルルは、戦慄し、ハンマーを手に立ち尽くしていた。
「オオオオオオ!!」
「ガアアアアア!!」
「ハアアアアア!!」
音がした。
金属音、そして打撃音。かろうじてわかったのは、イザナミが刀で『円月刀』を受け、ツクヨミがスサノオに殴りかかり、スサノオがそれを受け止めている音がするだけ。
入ることなどできない戦いだった。
三人は額からツノを生やし、竜麟を浮かべ、髪を白く染めている。
異種人。混血の竜鬼形態が当たり前の力となり、戦場を支配している。
「…………」
クルルは、どうすればいいのかわからない。
イザナミは味方だ。ツクヨミも一応は味方……加勢すべきだろう。
だが、自分より遥か上の存在であるスサノオに立ち向かう勇気が、クルルには出ない。
「……どう、しよう」
もともと、クルルは炭鉱夫だ。
炭鉱に現れる魔獣こそ屠っていたが、ここまでレベルの高い戦いとは無縁だった。
本当の意味での、命のやり取りが目の前にある。
クルルは、そこに踏み込むだけの力も、度胸もない。
ジョブ能力『大槌士』の力なんて、まるで意味がない。
「…………」
クルルは、傍観する。
見えたのは……血を流すイザナミだった。
「ぁ……」
イザナミは三種混合の異種人。ツクヨミにすら劣ると海斗は言っていた。
スサノオは、ツクヨミよりも強く見えた。
イザナミの攻撃を捌きつつ『円月刀』でダメージを与え、さらにツクヨミとの打撃戦を真正面から受けてはやや勝っている。
クルルは、邪魔にしかならない。
「ぐっ……」
「あ、い、イザナミさん!!」
すると、イザナミが押し負けてクルルの方へ飛ばされてきた。
クルルはイザナミを支えようと手を伸ばし掴む。
「イザナミさん、大丈夫ですか!?」
「ああ……くそ、恐ろしい使い手だ。これほどまでとは」
「……ツクヨミ、さん……でも、勝てないですか?」
「わからん……だが、負けるつもりはない」
刀を構え、イザナミは呼吸を整える。
イザナミが抜けたことで、スサノオは『円月刀』を使い、ツクヨミに迫っていた。
クルルは俯く。
「わたしじゃ、力になれない……ごめんなさい」
「……クルル。逃げるのか?」
「え……?」
イザナミは、不思議そうに首を傾げて言う。
「仲間だろう? 助けてくれないのか?」
「……あ」
仲間。
敵わないから何もしない。邪魔になるから何もしない。
そうではない。仲間だから、共に戦ってほしいとイザナミは言った。
クルルは、間違っていた。
「……仲間、だから」
「ああ。仲間だから、手を貸してほしいんだ。自分にできることをやってほしい」
「……わたしに、できること」
クルルはハンマーを強く握る。
そして、ポケットからカートリッジを抜き、ハンマーにセット。
「イザナミさん、一緒に戦いましょう!!」
「ああ……共に」
ハンマーを構えるクルル、刀を構えるイザナミ。
二人は並び、敵に立ち向かうべく走り出す。
「ほう……いい顔をしている。だが!!」
「ぐっ!?」
スサノオは、ツクヨミを蹴り飛ばし円月刀を手に回転。
その勢いのまま、イザナミに向かって円月刀を投げつけた。
「『円旋牙』!!」
ジョブ能力『投擲士』のスキル、『投擲』で強化された円月刀。
本来の使用法は掴み、斬ることではない。
回転させ投げることこそ、この武器の真骨頂。
イザナミは円月刀の真正面に立ち、刀を納刀……そして、一瞬で抜刀した。
「抜刀技、『春華愁刀』!!」
一瞬の抜刀で円月刀を斬ろうとしたが、イザナミの刀では円月刀を斬ることができない。
だが……イザナミが円月刀と競り合った瞬間、真横に現れたクルルがハンマーを振り被る。
「『爆裂烈破』!!」
クルルのハンマーが円月刀に直撃した瞬間、爆発が起きた。
そして、円月刀が粉々に砕け散る。
「何ぃ!?」
「おい、余所見してんじゃねぇぜ!!」
「──しまっ」
顔面に連続でジャブをもらい、鼻血が噴き出すスサノオ。
そして、ツクヨミは好機を得た。
ステップを踏み高速移動。木々、岩、建物の壁を利用した三角飛びを連続で行い、さらに移動の瞬間にスサノオに拳、蹴りを連続で放ちダメージを与える。
それを連続して行う、『格闘士』の上位スキル。
「『ストライクコンドル』!!」
残像のようにブレて動くツクヨミが、スサノオを滅多打ち。
六種混合の異種人としての超腕力で殴打されるスサノオは、全身を骨折し、そのまま意識を刈り取られた。
着地したツクヨミは、クルルとイザナミに向かって親指を立てる。
「へへ、チームワークの勝利だな」
「……まあ、そういうことにしておこう」
「えへへ、うれしいです!!」
こうして、スサノオとの戦いにイザナミたちは勝利した。
◇◇◇◇◇◇
「ぅ、ぐ……」
「よお、起きたか」
スサノオの身体は、両腕両足両膝と関節を外されていた。
手足は動かせるが、関節が全く動かない。這いずることもできない状態だった。
「わりーな。殺しはしねぇけど、追いかけられても面倒なんでな」
「……構わん。どうせ、敗北した私は始末されるからな」
スサノオは、手足を縛られた状態で、大きな岩を背に座らされていた。
目の前にはツクヨミ。そしてイザナミ、クルルがいる。
近くには、砕けた円月刀の欠片が散らばっていた。
「……ふ。私のスペックは、お前やアマテラスよりも上だったが……まさか、三種と二種に負けるとはな」
「んなこたぁどうでもいい。とりあえず、アマテラスはどこだ?」
「知らん。私の役目は、お前たちの分断……そして、消去だ」
すると、イザナミが刀を抜き、スサノオの首に当てる。
「ザンニについて……知っていることを言え」
「無駄だ。どうせ、私は死ぬ……ツクヨミ、お前もだ」
「あぁ?」
「ククク……知らないようだな。お前も私もアマテラスも、ザンニ様が直接作り出した異種人の心臓には『蛇』が巻き付いている。ザンニ様の命令一つで、心臓を絞め潰し殺す……知っていると思うが、異種人の弱点は魔族と同じ心臓だ。決して、助からん」
「…………マジかよ」
ツクヨミは、自分の心臓を手で押さえる。
「どうせ死ぬなら答えよう。分断後、ザンニ様が狙っているのは……お前たちの仲間の『骨』だ」
「骨、って……カイトさん?」
クルルが言うと、スサノオは頷く。
「ザンニ様は、『骨』の身体を欲しがっている。『魔王の骨』と合わせ、異種人を作り出す実験で使うはずだ。そして、コノハナが捕縛に向かった」
「……マジかよ」
「コノハナが勝てないなら……わかるな?」
「……サクヤか」
ツクヨミは舌打ちする。
イザナミは、視線だけをツクヨミに送り言う。
「その、サクヤとは?」
「最強の異種人だ。四種混合の異種人だが、その『純度』は七種、八種混合の異種人レベルとか言われてる。現時点で、あいつだけが竜鬼形態のスリークォーターに成れる素体だ」
「つまり……?」
「サクヤは、妹を溺愛してるんだよ。コノハナが負けるようなら、ザンニの命令を無視しても、コノハナを救うだろうな……むしろ、ザンニの狙いはそっちかもしれねえ」
「え、じゃあ……カイトさんは?」
「やべーかもな。ザンニのヤツ、コノハナを倒したカイトにサクヤをぶつけて、サクヤの全力でカイトを倒すとか、そんなこと考えてるかもしれねえ」
「……カイトは、どこにいる」
イザナミが言うが、誰も答えない。
すると、クルルが言う。
「カイトさんなら……きっと、前に進むんじゃないでしょうか。わたしたちを探すなんて、しないような気もします」
「……確かにな」
「前に進む……なーるほどな。じゃあ、ヨミヒラサカに行けばいいってことか」
と、ツクヨミが言った時だった。
「「「おーい!!」」」
遠くから聞き覚えのある声。
振り返ると、黒い牛に乗った三人が向かって来た。
「いたいた。いや~マジで大変だったぜ~」
「……む、敵がいるぞ」
「でもでも、縛られてるじゃん。勝ってる勝ってる!!」
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人だった。
ブラックモーモが停止すると、クルルが言う。
「……牛、ですか?」
「ふふん。新しい仲間だし」
「……カイトは、やはりいないのか。やれやれ、面倒だな」
「おいおい。これからどうすんだ? ってか、オレ腹減ってきたぜ」
一気に緊張感が薄れてきた。
イザナミが言う。
「よし……カイトを追おう。目指すは、ヨミヒラサカだ」
こうして、海斗を追うべく、イザナミたちはヨミヒラサカへ向かうのだった。