ざまあ三人組の戦い
「……おいマルセドニー。出口まだかよ」
「ボクが知るわけないだろう。この牛の、野生の勘を頼るしかない」
『モォォォォ』
「あ~、なんかあたし、この子に愛着湧いてきたかも。ね、食べるのやめない?」
三人は、ブラックモーモの背中で、いつまでたっても森から出られないことにイラ立っていた。
獣道を進むブラックモーモ。人為的な道ではないが、獣が通った道であるということは、もしかしたら人の手が加わった道に出るかもしれないと思っていた。
だが、一向に森の出口どころか、人為的な道すらない。
すると、ナヴィアがブラックモーモの背中を撫でながら言う。
「ね~、もしかしてさ、あたしら『敵』に襲われてるんじゃない?」
「はあ? なんでだよ」
「だってさ、あたしらへんな『黒いの』に飲まれたら、ここにいたわけじゃん? つまり……敵の攻撃は今も続いてる!! ふふん、大戦力であるあたしらを、この森に閉じ込めるって攻撃よ」
「おー、そりゃあり得るな!! けけけ、大戦力を恐れる気持ちはわかるぜぇ? まともに戦っても勝てねえから、こんなカビ臭い森に閉じ込めるくらいしかできねえってこった。ぎゃっはっは!!」
「……楽天的だな。まあ、大戦力というのは否定しないが」
『大戦力』という言葉に酔っているのか、三人はゲラゲラ笑っていた。
当然……この様子を、アマテラスは見ていた。
「何が大戦力よ……雑魚のくせに」
鉄扇を開き、調子に乗っている三人を木の上から見ている。
アマテラスの任務は、海斗たちの分断まで。
分断後、この三人をどうするかどうかまでは任せられている。殺すもよし、無視するもよし。
「スサノオが楽しく遊んでるのに、私はこんな雑魚の相手……今からでも、スサノオの方に行っちゃおうかしら」
鉄扇を閉じ、三人をジロリと見た時だった。
「あん?」
「えっ」
ハインツが、木の上にいるアマテラスを見た。
目が合った。ハインツとしばし見つめ合っていると。
「うおおおおおおお!? な、なんかいる、なんかいるぞあそこ!!」
「うるさいな。デカい声出さないでくれ。何かって……え?」
「んん? あれ、女じゃん。だれ?」
三人が、アマテラスを見た。
アマテラスが驚く。間違いなく、気配は消していた。
だが、ハインツは気付いた。
アマテラスは、考えるのをやめて木から降り、ハインツたちの前に着地する。
そして鉄扇を開いた。
「なぜ、気付いたのかしら?」
「うおおおマジか。おいナヴィア、お前の言う通りだったんじゃね!?」
「でしょでしょ? 敵っしょ敵!!」
「ふ……大戦力というのは本当の用だ。ククク、この女、見る目はあるな。ボクたちを森に閉じ込めたのは正解だ」
三人はワイワイとはしゃぎ、アマテラスの言葉を聞いていない。
アマテラスはピクピクと眉を動かし、もう一度言う。
「もう一度言う。なぜ、気付い」
『モォォォォ~……』
ブラックモーモが鳴いた。
ハインツたち三人は首を傾げる。
「あ? なんか言ったか?」
「ところで、敵なのか? ハインツ、なんで気付いた?」
「いやぁ、そういやスキルに『危機察知』ってのを覚えてよ。敵意を感じれるようになったんだよ。でも、敵と戦う時って大抵、目の前にいるし……あんま役立たねぇと思ってカイトにも言ってねえ」
「へー、役立ってんじゃん」
『モォォォォ』
アマテラスを無視し、三人はアマテラスの問いに答えた。
目の前にいるのは、六種混合の異種人。だが、三人はあまりにもいつも通りだった。
仮にも、格上のプルチネッラに立ち向かい、魔族のステージに立ちスカピーノの眷属と戦った三人である。観客もいない森の中で、敵が女一人という状況では、臆したりしない。
ハインツたちはブラックモーモから降りた。
「まあいい。ケケケ……敵だけど美人だぜ。倒して、拘束しねえとなあ。武器とか持ってたらヤベエし、いろいろ『チェック』しねえと」
「さいってい……ゲス野郎じゃん」
「同意する。というか、こいつは強いのか?」
ニタニタするハインツ、侮蔑の表情のナヴィア、なんともいえない表情のマルセドニー。
アマテラスは、馬鹿にされていると判断した。
「……殺す」
ツノが生え、竜麟が浮かび、瞳の色が変わる。
鉄扇を両手に持ち、バサッと開いた。
ハインツは盾を構えて突撃槍を手にし、マルセドニーは人差し指を向ける。ナヴィアは鞭を取り出してパシンと地面を打つ。
「ケケケ、やるぜお前ら!!」
「仕切らないでくれ。まったく」
「うしし、カイトいなくてもできるってこと、教えてやるじゃん」
三人の戦いが始まった。
ハインツはさっそく、スキル『防御上昇』を使用。
盾を構え、突撃槍を強く握りしめた瞬間。
「ぶぇ」
とんでもない速度の蹴りが飛んで来た。
盾に蹴りが直撃、盾が顔面に当たり、吹っ飛ばされ、近くの木に激突した。
「「え」」
「おぶぶ……い、いでえ」
ハインツは鼻血を出した。そして、アマテラスはハインツに接近、そのまま足を振り上げ、ハインツの胸を踏みつける。
鎧を壊す勢いで踏みつけたのだが、鎧に亀裂すら入らない。
「あら、硬いわね。いい鎧ね」
「うおおおお……こ、この野郎!!」
ハインツは腕を伸ばし、アマテラスの足をガシッと掴むが……なんと、アマテラスはそのままハインツの身体を持ち上げ、持ちあがったハインツの顔に自分の顔を寄せた。
「へえ、なかなかいい男」
「そ、そうですか? えと……き、綺麗な足ですね。あはは」
「ふふ、ありがと」
そのまま足を振ってハインツを吹っ飛ばす。
「え、ちょ」
「うっそ」
ズドン!! と、横並びになっていたナヴィア、マルセドニーに激突。さらにブラックモーモまで巻き込んで三人と一頭は吹っ飛んだ。
眼を回す三人、そしてブラックモーモ。ハインツが首をブルブル振ってようやく気付く。
「おい、もしかしてあいつ……めちゃくちゃ強いんじゃ」
「……だ、だろうね。なんだか、死ぬ気がしてきた」
「かか、回復、回復」
ナヴィアは『範囲回復』で回復。
三人は立ち上がり、ついでにブラックモーモも起き上がって顔を寄せる。
「どど、どうすんだよ!! あんなの相手できねえぞ!!」
「ま、待て待て。考えさせろ。天才のボクなら、妙案が」
「し、死ぬ。ヤバイって~!!」
『モォォォォ!!』
急に、いつもの三人に戻ってしまった。
アマテラスはニコニコしながら、三人が話終わるのを待つ……そして。
「さて、どうする? あら……天気も悪くなってきたわね。でも、濡れるのは好き」
雨が降ってきた。
すると、マルセドニーがひらめく。
「……待てよ?」
「お、天才の閃きか?」
「マジ期待!!」
『モォォォォ!!』
マルセドニーは、ボソボソと二人と一頭に作戦を伝える……が。
「いまマジで言ってんのかよ」
「し、死ぬわ。嫌よ」
『モ……』
「ううう、我ながらアホとは思うが……閃いてしまったんだ」
結局、マルセドニーの作戦に乗ることにした。
ハインツは盾を構えると、アマテラスに向かって言う。
「おいキレーなお姉さんよお!! あんたクソ強いのはわかった。だから……オレらは逃げるぜ!!」
「はあ?」
三人はブラックモーモに騎乗。ナヴィアがお尻を叩くと、ブラックモーモは森の中へ消えた。
「「「あばよー!!」」」
『モォォォォ~!!』
あっという間に三人は消えた。
アマテラスはポカンとし……クスクスと笑い出す。
雨が本格的に降り、着物も髪も濡れるが、心地よさしか感じなかった。
「アッハッハッハ!! 面白い子たちねえ……私の『空間』から逃げられると思ってるのかしら」
すると、アマテラスの周囲に『黒い穴』がいくつも開き、アマテラスはその中に入る。
真っ暗な闇の中を進み、光差す方へ手を伸ばすと……ちょうど、ハインツたちの目の前に現れた。
「「「うっそ!?」」」
『モォォォォ!?』
ブラックモーモが急ブレーキ。
目の前に現れたアマテラスが、先頭に座っていたハインツを蹴り飛ばした。
ブラックモーモも倒れ、ナヴィア、マルセドニーが地面に放り出される。
「ぶっは!?」
「フフ。追いかけっこは嫌いじゃないけど……そろそろ終わりにする?」
「へ、へへへ……」
「なあに? そんなにニヤニヤしちゃって」
「いやあ? あんたってマジ美人。水も滴るいい女だぜぇ? 着物が微妙に透けて、形のいい胸とかのラインがよーく見えるぜ。けけけ」
「スケベな子。それじゃあ……さようなら」
「ああ、お前がな」
ハインツが突撃槍をアマテラスに向ける。
アマテラスが怪訝そうな目をした瞬間、背後が輝いた。
「くらえ……上級雷魔法、『雷撃の魔槍』!!」
マルセドニーが放った雷の槍が、雨に濡れた地面を伝い、さらに避雷針となったハインツの突撃槍を目掛けて飛んだ。
突撃槍の真正面にいるアマテラスの背中を貫通し、雷の槍はハインツを直撃。
雨に濡れていたアマテラスだけじゃない。ハインツも感電し、さらに飛び散った雷がナヴィア、マルセドニーをも感電させた。
「……ぁ」
黒焦げになったアマテラスが倒れる。
そして、同じようにボロボロになったハインツも崩れる。
マルセドニーも気絶……だが、ナヴィアへの被害が最小限になるよう、マルセドニーが調整したおかげでナヴィアは意識を保っていた。
「ひ、ひーる……」
自身を治療、身体を引きずり、マルセドニーとブラックモーモを治療。
そして、息も絶え絶えのハインツに向かってハイヒールを掛けると、三人はようやく息を吹き返す。
マルセドニーは、ゼエゼエ息をしながら言った。
「……もう、二度とこんなバカげた真似はしない」
「あはは……まさか、雨に濡れた敵に向かって、ハインツの槍ごしに雷を放つなんてね」
「死ぬかと思ったぜ……ってか、よく見つからずに攻撃できたな」
「キミが彼女を苛立たせるようなことを何度も言ったからな。それに、攻撃は全てキミに向かっていた。ボクやナヴィアは後回しでもいいと思ったんだろう。濡れた地面、濡れた身体、そして敵を口説くキミ……まさに、隙だらけ。魔力を練り込んだ上級魔法を叩き込めた」
「あたしに攻撃があんまり来ないようにもしたっしょ?」
「ああ。キミに回復してもらわないと、同士討ちだしね……」
「まーとにかく勝ちだろ勝ち。どれどれ……」
ハインツは、黒焦げに近いほど感電したアマテラスを見に行き、「うげえ」と言って戻って来た。
「いやー、黒焦げだわ。生きてはいるけど……なあ、治療できるか?」
「するわけないじゃん。敵っしょ敵」
「その通り。とにかく、ここから出よう。そいつを倒したんなら、もう出られるだろう」
「よっしゃ。さっさと出てステーキ食おうぜ」
『モォォォォ!?』
「ちょっと。モータンはもう食料じゃないからね!!」
「モータン? なんだ、名前を付けたのか?」
「愛着わくじゃん。かわいいし、あたしらのペットにしよ!!」
こうして、ハインツたちはアマテラスに勝利……森を脱出し、先に進むのだった。