六種混合異種人『空間』のアマテラス
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人は、森の中を歩いていた。
「「「はぁぁ~……」」」
三人は同時にため息を吐く。
妙な黒い穴に飲み込まれたと思いきや、三人仲良く森の中で目覚めたのだ。
そして、行くアテもなく、ただひたすら森を歩いている。
獣道ともいえない藪を、ハインツを先頭にただ歩いていると、マルセドニーが言う。
「なあ、このまま歩き続けていいのか? 地図もない、食料もない、使えそうな物は全部カイトのアイテムボックスの中だ……」
「……うええ、サイアクすぎ。え、ちょい待った。まさかこのまま森で野垂れ死にとか!?」
「イヤなこと言うなっつーの!! クソが、マジでヤベエ……おいマルセドニー、頭脳明晰なお前なら、この状況なんとかできんじゃねぇのかよ」
「そう言われてもな……とにかく、森を出て、何か目印とか、人工物でも見つけて位置を把握しないと」
三人は森を歩き続ける……すると、小さな泉が見えた。
そして、その泉の傍で、黒い大きな『牛』が水を飲んでいる。
マルセドニーが気付いた。
「あれは、『ブラックモーモ』だ。牛の魔獣で、肉は超高級……ステーキにすると絶品だ」
「いいね。腹ぁ減ったぜ……焼いて食うか?」
「お肉……いいわね。ハインツ、あれ倒せる?」
「余裕だぜ。けけけ」
と、ハインツが背負っていた突撃槍を手にした時、マルセドニーがハッとした。
「待て。食べるのはあとだ」
「「は?」」
「ハインツ……お前、あの魔獣を『騎乗』できるか? あの大きさなら三人で乗れるだろ。あいつに乗って、森を抜けた後に食べるというのはどうだ?」
ハインツ、ナヴィアは顔を見合わせ、マルセドニーを見た。
「お前、天才かよ!!」
「見直したし!!」
「フフン。天才ゆえの発想さ。凡人であるキミたちには思いつかないだろう? というわけで……ボクがあいつの足止めをするから、ハインツは隙を見て騎乗してくれ」
マルセドニーはゆっくりと泉に近づき、人差し指を『ブラックモーモ』の足元へ向ける。
普段は、魔力に属性を乗せて発射する『魔弾』を主な攻撃手段として使うが、今回は違う。
マルセドニーは、人差し指を向けながら呟いた。
「『大地の守り』」
すると、ブラックモーモの四方に、土の壁が現れた。
『ブモォォォォォォ!?』
「へへ、今だぜ!!」
驚くブラックモーモ。そして、跳躍したハインツがブラックモーモの背に飛び乗った。
「スキル『騎乗』!! オラオラ、大人しくしやがれ!!」
スキルを発動させると、ロデオのごとく暴れていたブラックモーモが大人しくなり、その場でしゃがみ込む。そして、マルセドニーとナヴィアが近づいてきた。
「乗ることができれば、動物だけじゃなく魔獣ですら従えるか……『聖騎士』のジョブ、なかなかいいな」
「ケケケ。もっと素直に褒めやがれ」
「うわ……なんか少し臭い。ちょっといい?」
ナヴィアがブラックモーモに手を向ける。
「『浄化』」
すると、ブラックモーモの汚れが消え、体毛がフワフワになった。
「おお、すっげえ」
「服とか汚れとかキレーにするスキルよ。マジこれ覚えた時嬉しかったわ~」
「ほお……大したものだ」
三人はブラックモーモに乗り、ハインツが命じる。
「おい、この森を抜けれるか? 人間の作った街道まで行け」
『モォォォォ』
ブラックモーモは歩き出す。
マルセドニーは言う。
「ボクたち。かなり成長しているな……」
「ああ。カイトの野郎にそそのかされて、嫌々始めた訓練だけど……なんか、今はもうコレしかねえって感じだぜ」
「……だね。ねえあんたら、執政官って全部倒せると思う?」
ナヴィアが言うと、二人は少し考えつつ言う。
「まあ、できるんじゃねぇの? カイトの野郎もできるって言ってたし」
「ボクも、できると思う。まだ魔族の恐ろしさを知らないから言えるだけかもしれないが……少なくとも、カイトに付いて行けば、なんとかなる……気がする」
ブラックモーモが、のしのしと森を進む。
三人はしばし黙り込む。そして、ハインツが言った。
「とにかく。今はもう、カイトの野郎に付いて行くことだけだ。オレらは戦うだけでいいだろ。考えるのは全部、あいつの役目だ」
「……そうだな」
「ま、そうだね。アンタら馬鹿だし、余計なこと言わなきゃいいっしょ」
「おめーも馬鹿だろうが。なあ?」
「一緒にしないでくれないか。ボクは天才だぞ」
三人は、ワイワイと喋りながら森を進むのだった。
そんな三人を、近くの木の上で見る影があった。
「フフ……ハズレを引いちゃったかしら」
着物を着た、長い髪を簪でまとめた妙齢の女だった。
手には鉄扇を持ち、周囲には黒い玉がいくつも浮いている。
六種混合の異種人『空間』のアマテラスは、ハインツたちを見て鉄扇を広げた。
「フフ、時間はたくさんあるし……少し、あの三人で遊んじゃおうかしらね」
◇◇◇◇◇◇
一方そのころ。
「…………」
「ククク、なんだなんだ、さっきから険しい顔して。なあ、ドワーフちゃん」
「……わたし、ハーフなので、ドワーフじゃないです」
「そうかい。なあ、仲良くしようぜ? これは『危機』ってやつだろう?」
イザナミ、ツクヨミ、クルルの三人は、もぬけの殻となっている研究施設の一つ、『ナカツクニ』だ。海斗たちがツクヨミと戦った『タカマガハラ』の先にある施設の一つ。
目が覚めると、三人はここにいた。
「ったく、アマテラスのクソ野郎め。なんだってこんなところに」
「あの、ツクヨミさん……ここ、知ってるんですか?」
「おう。『ナカツクニ』……タカマガハラでいい結果を出した実験対象は、ここで次の実験を受ける。オレもここに来た事あるぜ」
研究所の外観は『タカマガハラ』と全く同じだ。
無人であり、人気が全くないところも同じ。
ツクヨミは言う。
「ここは、アマテラスが守っていたはずだ。でも、オレらを転移させるために来てたし……あーわからん」
ツクヨミは頭を掻く。イザナミはどうでもいいように言う。
「……今は、カイトたちと合流すべきだ。このまま先に進めば、きっと合流できる。カイトたちもきっと、先に進んでいる」
「そうですね。不本意ですけど……ツクヨミさん、この先、案内してくれますか?」
「いーぜ。まあ、この先……伏せろ!!」
「っ!!」
「え?」
と、イザナミはクルルの頭を押さえ、そのまま地面に押し倒した。
ツクヨミも伏せると、三人が立っていた場所を、何かが回転しながら飛んで行った。
そして、それはブーメランのように軌道を変え、ツクヨミたちの背後にいた男がキャッチ。
ツクヨミは立ち上がり言う。
「不意打ちとは、卑怯じゃねぇか……スサノオよぉ」
「ふん。裏切り者には相応しい死に方だろう」
長髪の、巨大な『円』を手にした男だった。
長い黒髪をポニーテールにした、筋骨隆々の男だ。
着物を着ているが半脱ぎで、上半身をあらわにしている。
手に持つのは独特な武器だった。クルルが目を細め、鍛冶師として気になるのか言う。
「あの剣……なに?」
「『円月刀』だ」
意外にも、スサノオから返事が来た。
綺麗なフープ状の県だ。中央に持ち手があり、スサノオがクルクル回転させ構えを取る。
イザナミも刀を抜き、ツクヨミは拳を構える。そして、遅れてクルルがハンマーを構えた。
スサノオは笑う。
「ククク、ツクヨミ……貴様の処刑だけではなく、そこの二人のような強者とも死合えるとはな」
「前々から言いたかった。スサノオ……オレも、てめえと殺し合いたかったぜ!!」
「……くだらない。カイトが待っている、すぐに終わらせよう」
三人の身体に竜麟が浮かび、ツノが生え、瞳、髪の色が変わる。
クルルは構えたが……三人の威圧感に、身体が押しつぶされそうになった。
「わ、わたし……一番、弱いかも」
こうして、異なる場所で、それぞれの戦いが始まるのだった。





