ここにない『背骨』
ザンニ様が回収した背骨。
その言葉を聞き、海斗は信じられない物を見るような目でカグツチを見た。
そして、確認するように言う。
「……おい。もう一度聞くぞ、『魔王の骨』は……ザンニが、回収したのか?」
「え、ええ。あの背骨ですよね。私が掘り出したから、間違いないと思います」
「確かなのか」
「は、はい……」
「……どういうことだ!!」
海斗は、壁を殴りつけた。
カグツチがビクッと震え、イザナミも驚いたようだ。
だが、そんなことを気にする海斗ではない。
(どうして、ストーリーが始まる時点で『魔王の骨』をザンニが回収している!? 待て……ザンニが魔王の骨を回収したのは原作の何巻だ? そもそも、回収する描写は? 物語の終盤ですでに、ザンニは『カイト』の身体に骨を埋め込んでいた。背骨は最後に回収されたはず……でも、すでにここにはない。ザンニは、物語中盤から登場するキャラだ。その時点ですでに、魔王の骨を回収していた? だとしたら……)
「カイト」
イザナミが、海斗の肩を掴んだ。
海斗はその手を振り払おうとするが、イザナミの手は動かない。
「ここは安全なのか? それがわからない以上、長居するのは危険だ。一度、私の家に戻るべきだ」
「……あ、ああ。そうだな」
「カグツチ。お前も一緒に」
「う、うん……」
海斗は、もう一度だけカグツチに聞く。
「カグツチ。お前は間違いなく、『死体処理場』で、『背骨』を見つけたんだな?」
「は、はい。ザンニ様が、死体を埋めた大地のどこかに、実験体じゃない生物の『背骨』が埋まってる。回収をしろ……と」
「…………」
ザンニは、ここに『魔王の骨』があることを知っていた。
海斗は舌打ちし、部屋を出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
ハインツたちと合流し、海斗たちはイザナミの家に戻って来た。
「それにしても、明るいところで見るとマジ同じ顔ね」
ナヴィアは、イザナミとカグツチの顔を交互に見る……そして、カグツチの胸部と自分の胸を見比べ、眉と口元をピクピクさせる。
「か、カグツチだっけ? あんた、何歳?」
「えっと……十三です」
「ふ、ふーん?」
「ケケケ。おいナヴィア、負けてる負けてる。ざまあみろ」
「んだとてめえ!! マジ怪我しても治さねえし!!」
本気でキレるナヴィア。ハインツはゲラゲラ笑っていた。
マルセドニーは興味がないのか、海斗に聞く。
「カイト。キミの様子がおかしいが、何かあったんだな?」
「……ああ。『魔王の骨』はすでに、ザンニの手元にある。つまり、ザンニとの正面対決は免れない」
「おほっ、オレ好みの展開だぜ」
ツクヨミは拳をパシッと打ち付ける。戦えれば、かつての主だろうが関係ないようだ。
そして、クルルは言う。
「あの、カイトさん。『魔王の骨』は絶対に回収しなくちゃいけないんですか? その~……正直、なんのための骨なのか、まだよくわかんなくて」
「…………」
海斗は、ハインツたちを含め、『魔王の骨』が何なのかきちんと説明していないことを思いだす。
ハインツたちには多少話したが、『海斗の強化アイテム』程度にしか思っていない。
「……『魔王の骨』ってのは、魔族の神である『魔神』が復活するためのアイテムだ。器、魔王の骨、魔神の魂が揃った時、魔神は復活する」
全員が、海斗の言葉を聞いていた。
「『魔神エレシュキガル』……死を司る魔族の神。かつてこの世界にいたもう一つの神である『天神エイレイテュイア』の宿敵。エイレイティアは消滅したと言われてるけど、エレシュキガルは死を司る……魂だけとなり、復活を企んでいる。そして、残された力で魔族を創造し、復活のために『器』と『魔王の骨』を探すよう命じ、十二の魔族に眷属を与え、強大な力を与えた……それが、十二執政官だ」
「「「「「「…………」」」」」」
海斗は、『ラノベの設定』を話す。
そして、『魔王の骨』について。
「魔王の骨は、エレシュキガルが最初に創造した魔族の骨。エレシュキガルに最も近い存在で、力の塊だ。バラバラになって世界のどこかに眠ってる……と、されている。まあ、今は俺の身体に二つ、ザンニの元に一つ、そしてあと四つがあるけどな」
「……な、なんかおとぎ話みたいだぜ。魔神とか、天神とか」
「そういや、教会の教本に、天の神がどーこーあったっけ……」
「『天神エイレイティア』だろう。子供でも知っているぞ……まあ、おとぎ話としてだが」
「ちなみに、人間を生み出したのはエイレイティアだ。エイレイティアは、人間を最初に生み出し、そのあとに異種人以外の種族を生み出した」
異種人は、別の種族同士で交配しないと生まれない存在だ。
エイレイティアが自ら生み出した存在ではない。
マルセドニーは言う。
「カイト。魔神が復活したら、どうなるんだ?」
「世界が終わる。魔神は、天神が生み出し、愛したこの世界と、魔族以外の全ての種族を憎んでる。復活して最初にやることは、この世界を滅ぼすことだ」
「……うそ」
クルルが口を押さえ、顔を青くする。
「だから、魔王の骨は全て回収する……確実にな」
ザンニは間違いなく倒す。海斗は、全員にそう言った。
すると、ツクヨミが大あくびし……海斗に言う。
「……おい、カイト。なんだかおもしろいことが起きそうだぜ」
「あ?」
「……何かこっちに向かってる。しかも、かなりデケエぞ」
「なに……まさか、ザンニの」
「かもな。ククッ、ヤるんだろ?」
「それしかねえだろ。全員、戦闘態勢。どうやらもう、俺たちは戦うしか道は残されていない」
海斗は、全員の顔を見て言う。
「……みんな、悪かった」
「「「え」」」
「あ?」
「えと、カイトさん?」
「「……??」」
海斗が謝ると、ハインツたち三人は驚き、ツクヨミは怪訝な顔をし、クルルはポカンとし、イザナミとカグツチは首を傾げた。
「できると思っていた。俺なら、ストーリーが始まってなくても、うまくできると思っていた……でも、実際には違った。こうして、危機が迫っている……執政官序列六位、舐めていた」
「おいおい、オマエらしくねえ弱気じゃねぇか」
ハインツが言うと、海斗は立ち上がる。
「かもな。とにかく……今はここを切り抜ける。ハインツたち三人はいつも通り、ツクヨミは前衛、イザナミはカグツチを守──」
海斗が指示を出そうとした時だった。
「──フフ」
突如、部屋の中に女の声が聞こえた。
同時に、海斗は自分の愚かさを激しく呪う。
「しまっ……全員、かたまって」
「遅い」
空間に黒い穴がいくつも空いた。
同時に、その穴が海斗たちを飲み込んでいく。
「──カグツチ!!」
「おねえちゃ……」
海斗は、イザナミが手を伸ばし、カグツチがその手を掴もうとしたが……手が届かず、二人が消えた瞬間を見た。
「……くそ!!」
そして、自らも闇に飲まれ……最後に、声を聴いた。
「フフフ。あたくしの『転移士』のスキルで、バラバラになっちゃいなさい……」
六種混合の異種人、『空間』のアマテラスのジョブ『転移士』……そのスキルである『ゲート』のことをすっかり忘れていた自分を、海斗は殺してやりたかった。