十二執政官序列六位『悪童』ザンニ②
第零区画『ヨミヒラサカ』にて。
ザンニは研究所にある執務室で、柔らかな椅子に座りながら「お?」とほほ笑む。
その様子を、秘書のサクヤが見ていや。
「所長、何か?」
「いや。あはは、やっぱり『骨』は面白いなあ」
「……所長。何か?」
サクヤはもう一度聞く。今度は「話せ」と目が語っていた。
ザンニはサクヤに怯えてるような顔をし、苦笑して言う。
「いやあ、『骨』がツクヨミを懐柔して仲間にした。意外な展開……てっきり始末すると思ったけど、まさか言葉巧みに、仲間に引き込むなんてねえ」
「なっ……」
さすがに、サクヤも黙っていない。
「所長!! つまり、裏切りということですか!? 六種混合の異種人が、まさか侵入者に」
「落ち着きなって。まあ……可能性はあったよ? ツクヨミは『戦う』ことだけが生き甲斐だしね。ボク以上に戦いの場を提供できる人材がいるなら、そっちに付いて行くとは想定してた。まあ……まさか、敵は容赦なく殺しそうな『骨』が仲間にするとは思わなかったけど」
「……所長。監視しているのなら、侵入者が今後どうするかの対応を」
「えー? 別に、好きにさせたら?」
「ダメです。所長……お忘れですか? 敵は、所長より序列の高い執政官を、殺しているのですよ」
プルチネッラ。
序列五位『鷲鼻』が殺されることなど、ザンニはもちろん、魔族は想定すらしていない。
そして、プルチネッラを殺した人間が、霧の国シャドーマ……ザンニの支配する地域にいるのだ。
サクヤは、強い瞳をザンニに向ける。
「始末すべきです」
「まあそうだねえ。研究員はみんな、こっちに呼び寄せたし、研究所にはアマテラスとスサノオがいるから、まあ問題ないけど……うーん」
「……所長。私が出ましょうか」
サクヤは立ち上がり、机に立てかけてあった『薙刀』を手にする。
ザンニは言う。
「まあ、キミは四種混合の異種人だけど、ツクヨミより強いもんねえ。六種の血が混じっただけのツクヨミと、四種の血の力をフル解放できるキミとじゃ、勝負にはならないけど……ダメ」
「所長!!」
「まあまあ。ちょっと面白いこと、思いついたんだ」
「……え?」
ザンニは、回転椅子をクルクル回転させ、自分も回る。
「彼ら、チームワークはけっこういいセンいってるね。だったら……分断したらどうなると思う?」
「分断、ですか?」
「うん。そーだなー……ボクが一番気になってるのは『骨』だから、孤立させよっか」
「……できるのですか?」
「ああ。アマテラス、スサノオに雑魚を任せて……『骨』はコノハナに任せるよ」
「!?」
サクヤは驚愕する。
だが、ザンニはサクヤが何かを言う前に手で制した。
「まあ落ち着きなよ。コノハナの強さなら、死ぬことはないって。それに、あの子が懐柔されるなんてあり得ない」
「…………ですが」
「心配性のおねえちゃんだねえ。まあ、最悪の場合はボクも手を貸すからさ。ふふ……というわけで、まずは彼らを分断してみようか」
ザンニが指をパチンと鳴らすと、足元から大量の『蛇』が現れ、音もなく床を這う。
「サクヤちゃん。コノハナ、アマテラス、スサノオに連絡~……敵を分断するから、それぞれ撃破して。あと、コノハナは『骨』の相手をよろしくね~」
「…………承知、しました」
サクヤは、ペコっと頭を下げて部屋を出て行った。
そして、ザンニは誰もいない部屋で言う。
「ドットーレ、いるんだろ」
「おや……気付かれないようにしていたんだが」
すると、誰もいないはずの部屋に、仮面を被った男が現れた。
間違いなく、誰もいなかった。サクヤですら気付かなかった。
顔半分を仮面で覆ったスーツの男は、どこか楽しそうに言う。
「ザンニ。分断とは面白いことをするね」
「まあね。それでも……ここに来るかもねえ」
「ほう。つまり、キミ自身が戦う、ということか?」
「あはは。あり得ないよ。ボクは研究者だからね、戦いなんてしたくないし、するつもりもない」
「ほう……」
ドットーレは、クスクス笑いながら指を鳴らす。
「正直なところ。私はプルチネッラより、キミの方が強いと思っている。キミは実力を隠しているね?」
「さあ、なんのことやら。それより、研究の方だけど、いいデータが取れる」
「ほう? いいデータとは?」
「『骨』さ。フフフ……デラルテ王国の『救世主』は、骨を使うことは知ってるよね。不思議なんだよねえ……まるで、『魔王の骨』を使うために現れたようなジョブだ。もしかしたら……この『骨』は、『魔王の骨』を使うために現れたのかもしれないね」
「それはそれは、面白い」
「彼の死体を手に入れることができれば、異種人なんかよりいい『器』になる。最悪……彼に、『背骨』をあげてもいいかな、なーんてね」
ザンニがニヤリと黒い笑みを浮かべると、ドットーレは口元を歪める。
「それは面白そうだ。現在、『骨』は『右腕』に『左足』を身体に宿している。そして、キミの見つけた『背骨』だ……」
「ああ、そうだね」
「わかっていると思うが……キミが『背骨』を手に入れ、実験に使用していることを、カピターノとアルレッキーノに知られるわけにはいかないよ」
「それも、わかってる。さすがに、殺されるだろうね」
ザンニは、殺されると言いつつも笑っていた。
「アルレッキーノ。『道化』は元気にしてる?」
「ああ。『恋人』と仲良くしている……まるで、人間のようにね」
「ふぅん……さぁて、話はおしまい。忙しくなるね」
「……では、私は失礼するよ」
ドットーレは、普通に歩き、ドアの前に立ち、ドアノブに手をかけた。
ザンニは首を傾げる。
「あれ、見学しないのかい?」
「こう見えて、私も忙しいのでね。『骨』の相手は、キミに任せるよ」
「あっそ。忙しいってことは、『勇者』にでも会いに行くのかい?」
「まさか。あの偽善者に興味はない。タルタリヤを倒したようだが、近くカピターノが処刑するだろう。どうあがいても、ヤツの死は決まっている」
「ふーん」
「では、また会おう」
ドットーレは出て行った。
ザンニは、テーブルに置いてある瓶の蓋を開け、カラフルなキャンディをいくつか手に取り口に入れた。
「さぁて、ボクはボクで、遊ばせてもらおうかな」
十二執政官序列六位『悪童』ザンニの遊びが、本格的に始まった。





