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8、三人のクズ②/借金博打の『賢者』

 とある酒場の奥にあるギャンブル場。

 カード対戦をする台に、冒険者マルセドニーが座って足を組み、側頭部を指でコンコン叩いていた。

 ディーラーが一人、そしてプレイヤーがマルセドニーを含め四人。

 行っているのは、シンプルなカードゲーム。ディーラーがカードを配り、ディーラーの持つカードに合計数が近いか遠いかを当てるゲームである。

 もちろん、不正はできない。場内には客を装った店の見張りや、ガタイのいい冒険者の護衛などが大量に配置されている。

 だがマルセドニーは、ニヤリと笑う。


「二枚、くれ」


 ディーラーの持つカードの合計数は不明。だが、合計五枚のカードのうち、四枚はテーブルに公開される。

 現在の合計数は十五。ディーラーの手には最後の一枚があり、それが多いのか少ないのかはわからない。

 そして、マルセドニーにカードは合計で十七……すでにディーラーのカードをオーバーしており、これ以上カードを増やすのは危険だった。

 カードの最大枚数は五枚……マルセドニーは二枚受け取り、合計数が二十五になる。

 他のプレイヤーも汗を流し、カードを受け取らずに勝負する者、そして降りる者といる。


「勝負……」


 下りなかったのは、マルセドニーともう一人のプレイヤー。

 カードを公開。マルセドニーは合計二十五、もう一人のプレイヤーは二十。

 そしてディーラーのカードは……二十五。


「フフン。ボクの勝ち……残念だったね。ククククク」

「チッ、またマルセドニーの勝ちかよ。お前、イカサマしてんじゃねぇだろうな」


 イカサマ。

 その言葉に、場内の数名が視線を向け、従業員たちもジロッと見る。

 だがマルセドニーは人差し指をチッチと振る。


「イカサマなんてしたら死ぬだろ? 簡単だ……ボクは、みんなの視線、呼吸数、手の動き、動作などを観察して、自分が有利かそうでないかを見ているんだ。さすがに数字までは読めないからね……自信があるかないか、それだけわかればそれでいい」

「で、勝つか大負けかのどっちか、だな。どうせ今日の勝ち分も借金返済だろ?」

「まあね。でも、しばらくは金に困らないから遊べるさ。フフフ、ギャンブルは金を使ってこその遊び。妥協なんてつまらないね」

「で……お前は借金まみれ、ってわけか」


 マルセドニーの肩に、手が乗せられた。

 視線を向けると、そこにいたのは。


「これはこれは、救世主クン。なんだ、きみもギャンブルをしに来たのかい?」

「ああ、ギャンブル狂のクズを矯正するためにな」


 海斗は、マルセドニーのテーブルにいたプレイヤーたちにチップを渡してどかせ、ディーラーにチップを払う。


「俺とお前でカード勝負だ。俺が勝てばお前の借金は全て俺が肩代わりし、さらに十億ギール支払おう」

「…………は?」


 ギールは、この世界の通貨の単位。

 さらに、価値は日本円とほぼ同じ。金貨銀貨があり、さらに紙幣も流通している。

 海斗は、カバンから札束をいくつか出し、テーブルに乗せた。


「ディーラー、誓約書を」

「ま、待て!! 本当に、十億!? さらに借金帳消し!?」

「ああ。さらに条件を追加……もう、俺の指導をしなくてもいい。お前は好きなだけギャンブルしていいし、自由だ……やるか?」

「く、ククク……ははははは!! いいね、やろう!! で……キミが勝った場合の条件は?」

「俺の仲間に。そしてその間はギャンブル禁止」

「はっはっは!! いいよ、やろうか」


 ディーラーが誓約書を持ってきた。

 マルセドニーはニコニコ顔で誓約書を読み……驚愕、真顔になり海斗を見た。


「な、な、なんだ、この条件は……!?」

「見ての通りだよ」


 誓約書には、『百ゲームの勝負を行い、一度でも海斗が負けたらマルセドニーの勝利』と書かれていた。つまり……これから百ゲーム行い、海斗はマルセドニーに百回勝つ、ということだ。

 さすがのマルセドニーもキレた。


「馬鹿にするなよ……貴様、このボクに、一度も負けることなく百のゲームに勝つだと?」

「ああ。お前程度のギャンブラー、俺が負けるわけがない。それとも何だ、有利すぎて怖いのか?」

「き、貴様……」

「マルセドニー・マルルセイヤ。『賢者』のジョブを得たマルルセイヤ伯爵家の三男。優秀な頭脳を持つが他者を見下す傾向が強く、伯爵家の領地経営に失敗し多額の借金を負い除名される。冒険者として登録し再起するが、ギャンブル癖が抜けず、借金を重ねて落ちぶれ、今に至る……」


 海斗は、ニヤニヤしながら言う。

 マルセドニーは歯を食いしばり、海斗を睨む……が、肩の力を抜いて笑った。


「動揺させようとしても無駄。さ、ゲームを始めようか。ゲーム内容は?」

「シンプルに。カードを二枚配って、数字が多い方が勝ち。少ないと判断したら降りていい。降りた場合は引き分けだ。俺が百回勝つまで勝負は続き、一度でも負けたらお前の勝ちだ」

「つまり……お前がギブアップを続けたら、勝負の決着はつかないということになるが?」

「それはない。俺は負けると確信した時以外はギブアップしない」

「……面白い」

「それと、テーブルに向かい合わせで座って互いのカードが見えないように。四方をこの店の従業員で囲んで不正がないよう見張ってもらう。自分のカードは、自分しか見えない……これでどうだ?」

「乗った」


 マルセドニーは指をパチンと鳴らす。

 

(多いか少ないか。ふふふ……ボクの観察力なら、キミの自身を見抜くことくらい簡単だ。数字に自信がないとわかれば勝負すれば、少なくとも負けはない)


 こうして、マルセドニーとのカード勝負が始まるのだが、マルセドニーは今更気付いた。


「……あれ? カイト、きみ……眼帯なんて(・・・・・・)していたっけ?(・・・・・・・)

「ああ、訓練で少し切っただけだ。気にすんな」


 カード勝負が、始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 勝負が始まり、カードが二枚配られる。

 対面に向かい合い、配られたカードを手にするマルセドニー。


(……チッ、合計数十二か。微妙なところだ)


 カードは1から13の4セット、合計52枚。

 マルセドニーは6が二枚……微妙な数字である。


(カードは二枚。最大数は26……まあいい。とりあえず最初の勝負といくか)


 マルセドニーは海斗を見る……が、海斗は欠伸をして言った。


「勝負」

「いいだろう」


 二人はカードをテーブルへ。

 海斗は14、マルセドニーは12……海斗の勝ちである。


「フン。まあ最初だしね……ふふふ、時間をかけてゆっくり、キミを分析させてもらうよ。仕草、挙動、目の動き、ボクを見る目、その全てがボクにとっての情報だ。シンプルな数字の勝負だからこそ、ボクはキミを」

「うるさいな」

「……何?」

「別に、俺をいくら見たところで、お前に勝ち目なんてない。だってそうだろ? 頭がいいだけのお坊ちゃん。希少な『賢者』のジョブを得たくせに、何もできない、しないだけのクズに」

「……クズ?」

「ああ、お前はクズだね。さ、次の勝負だ」


 マルセドニーの額に青筋が浮かぶ、が……すぐに肩の力を抜いた。


「フン……まあ、いいさ」


 マルセドニーの敗北まで、残り99回勝負。


 ◇◇◇◇◇◇


 二時間、経過。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……な、なんでだ」

「勝負。お前は?」

「しょ、勝負だ!!」


 マルセドニーがカードを叩き付ける。

 マルセドニーの合計数は25……だが、海斗のカードは26だ。


「な、なんで、なんでだぁぁァァァァァッ!! おま、なんで、なんで勝てる!? どうして、ボクの数字を知っているんだァァァァァッ!!」

「アホか。お前の数字なんか知らない。知っているのは……お前の挙動、視線、手の動きとか? それらを見て、お前の自身を読んでるだけ。お前と同じだよ」

「ぐ、ギギギギギッ!!」


 海斗の84勝目だった。

 マルセドニーは、まだ一度も海斗に勝てていない。

 自分の数字が読まれているようだった。

 眼帯に仕掛けがあるのかと疑い見たが、海斗は本当に目の上に傷があり、眼帯もただの布製……ディーラー、従業員が徹底的に調べたが、何もない。

 そして、124回目の勝負。


「どうする? 俺の勝ちで終わらせるか?」

「う、ぐゥゥ……」

「断言する。お前の底は見えた。お前程度じゃ、俺に勝てないよ」

「…………」


 カードが二枚配られた。

 マルセドニーのカードは、1と1。

 そして、海斗は。


「俺のカードは、1と……2」

「!?」

「俺はこれで勝負をする」

「……ぁ、ァ」

「合計数は3だ。負ける確率が非常に高い……でも勝負する。理由は、俺はお前なんかに負けないから。理屈じゃない、俺がお前の上にいるから、負ける気がしないんだよ」

「…………」

「さあ、勝負しようぜ」


 勝ち目がなかった。

 ギャンブラーとしても、その覚悟も。

 マルセドニーはカードを投げ捨て、テーブルに頭を打ち付けた。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 こうして、マルセドニーとのギャンブル勝負は、海斗の完勝で幕を閉じた。


 ◇◇◇◇◇◇


 当然だが、海斗はイカサマをしていた。

 深夜、店が閉まった頃、海斗は店の前で指を鳴らす。

 すると、一匹の『骨のトカゲ』が店から出てきて、海斗の指先に登り、骨に戻った。

 

「気付かれなくてよかった」


 海斗は、眼帯越しに、マルセドニーの背後で、トカゲの視覚を共有してカードを覗き見していたのだ。なので、勝か負けるかを判断できたので、負けることがなかったのである。


「さて、これでクズ二人は落ちた……残りは一人」


 ナヴィア。

 海斗は、王城の傍に立つ『大聖堂』を眺めるのだった。

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