カグツチ
ツクヨミの治療を終え、一行は居住区画へ。
海斗は、ツクヨミに質問した。
「おい。ここ、なんで研究員がいないんだ?」
「ここだけじゃないぜ。ナカツクニも、アマノイワトも、主要な研究施設の研究員は全員、ザンニのいるヨミヒラサカに行っちまった。アマテラスもスサノオも、この先にある研究施設でオマエらを待ち構えてるぜ」
「……チッ。ストーリー無視してるから展開が読めないな」
海斗は舌打ち。ツクヨミは「はっ」と鼻で笑い、イザナミを見る。
「なぁお前。解放率はどれくらいだ?」
「……貴様に話すことはない」
「カカカ。そう邪険にすんなよ。もう仲間じゃねぇか。なあ、そっちのドワーフちゃん」
「……胸、見ましたよねあなた。嫌いです」
「カッカッカ。嫌われちまった。まあ安心しろよ。性欲は並みじゃねぇが、仲間にゃあ手ぇ出さねえよ。お前ら、カイトの女だろ? カカカ、手ぇ出したら殺されちまう」
ツクヨミはケラケラ笑う。今のところ、イザナミとクルルの評価は最低だった。
マルセドニー、ナヴィアは会話するつもりがないのか距離を取る。
だが、意外なこともあった。
「お前、マジで強いのな。クソ……くやしいぜ。リベンジしてやるから覚えてろ」
「あん? まあ、そう落ち込むんじゃねぇよ。オマエ、オレがこれまで相手した連中の中じゃ、かなり硬い部類だったぜ」
「そ、そうか?」
「おう。まだ未熟だが、鍛えりゃ化けるだろうーな。カカカ」
「ケケケ、そりゃいい。お前、ムカつくけど話せるじゃねぇか」
ハインツが、ツクヨミと楽しそうに会話していた。
マルセドニー、ナヴィア、クルルが海斗の傍に来て言う。
「おいカイト……あいつ、本当に仲間にするのか?」
「戦力としては上々だろ。現時点で、イザナミと同じくらい強いぞ」
「でもでも、なんかアタシ嫌よ……」
「文句言うな」
「ううう、わたし、胸見られましたけどぉ~」
「忘れろ。とは言えんけど、忘れるよう努力してくれ」
「うううう」
海斗はツクヨミに言う。
「ツクヨミ。確認するが……お前が少しでも裏切ろうとした瞬間、お前の全身の骨は一気に破裂して即死させるからな」
「わーってるよ。オレぁ戦えればなんでもいいんだ。ザンニの元でも、オマエのところでも同じさ」
「…………」
「ツクヨミだったか? 今回は、カイトが手ぇ貸したおかげでオレを殺せたが……一対一なら絶対に負けねえ。リベンジするから覚えておけ」
「……フン」
イザナミは感情が希薄だが、ツクヨミに対しては冷たく当たった。
そして、タカマガハラの研究施設、居住区画へ到着。
ツクヨミに質問する。
「ここの『実験対象』はいるんだよな」
「おう。というか、ここにいるのは失敗作ばかりだぜ。使えそうな素材は連れて行かれたけどよ、三種混合の異種人は全員残ってるはずだぜ」
「じゃあ、カグツチって女の子は残ってるか?」
「名前なんか知らねぇよ。アイウエオ順に管理されてるから、いるんじゃねぇの?」
居住区画の建物は、マンションのような作りだった。
十階建築で、一階部分はア行。二階はカ行となっている。
目的はカグツチ。海斗たちは二階に進み、部屋のプレートを確認しつつ探し……見つけた。
「あ、カイト。ここ、カグツチって書いてある」
ナヴィアが『カグツチ』と書かれたプレートを指差した。
「……俺とイザナミで行く。残りは一階で待機」
ハインツたちは一階へ。
海斗は、イザナミを見て言う。
「カグツチは、お前が姉だってことを知らない。だけど……お前もカグツチも、血縁者だってわかるはずだ。いいか、俺が最初に会話するから、何も言うな」
「……カイト」
「ん。なんだよ」
「なぜ、あんな男を……」
「決まってんだろ。お前より強いからだ」
イザナミは、ストレートな海斗の言葉に、ショックを受けたように固まった。
実際、ツクヨミはイザナミよりも上だ。原作では、イザナミをメインに、リクトのハーレムメンバーと協力して戦った相手だ。それでも、イザナミもハーレムメンバーも負傷し、なんとか倒すことができた。
イザナミ単独では、間違いなく勝てない。
海斗はドアをノック……反応がなかったので、ドアノブを捻って開けた。
「入るぞ」
ドアを開けた先は、真っ暗だった。
海斗は言う。
「俺は敵じゃない。話をしに来た……カグツチ、いるんだろ」
真っ暗な室内から返事はない。
海斗は部屋に入る。
古いアパートみたいな間取りだ。ドアを開けてすぐ部屋があり、ベッドや椅子テーブルが暗い中でも見える。
そして、海斗が土足のまま踏み込んだ時だった。
「──!!」
「ッ!!」
海斗の真横から、何かが光った。
同時に、イザナミが海斗を押しのけてナイフを抜き、光る何かを受ける。
海斗は舌打ちし、アイテムボックスからランタンを出して明かりを付けた。
そして、見た。
「……え」
「…………」
明かりに照らされたのは、二つの顔。
一つはイザナミ……群青色の、片目が隠れているロングヘア。
もう一人は、十三歳ほどの少女。
イザナミと同じ群青色の髪、片目が隠れているが、こちらは肩にかかるほどのショートヘア。
驚いているのは……少女とイザナミが、同じ顔をしていることだった。
驚く少女は、手にしていたフォークが、イザナミのナイフで受けられたことを驚く暇もない。
海斗は、同じ顔だと知っていたが、並んでみるとその同じ顔に驚く。強いて言えば、少女……カグツチの方が、やや幼さがある。
「カグツチ。俺たちは敵じゃない。お前を助けに来た……話を聞いてくれ」
「…………あなた、だれ?」
「俺は海斗。そして、こいつはイザナミ」
「いざ、なみ……?」
「……」
二人は見つめ合う。
そして、海斗は言った。
「わかるだろ。カグツチ……イザナミは、お前の血縁者。お前と同じ鬼人の腹から産まれた、お前の姉だ」
カグツチの目が見開かれ、握っていたフォークが床に落ちた。
◇◇◇◇◇◇
カグツチが落ち着くと、部屋の明かりがついた。
カグツチは、入院患者が着るような薄い検査着しか来ていない。十三歳のわりには肉付きがよく、ナヴィアよりもスタイルが良かった。
原作では、ザンニの実験に使われ、異形の姿となってその生涯を終えるが、今はただの三種混合の異種人だ。
カグツチは、イザナミを見て言う。
「……姉、なの?」
「……そうらしい」
「悪いが、感動の再会はあとだ。カグツチ、俺たちと一緒にここから出て行くぞ」
「い、行くって……あたし、明日は実験が」
「もう実験は受けなくていい。お前を自由にする」
「じ、自由?」
「信じられないよな。とにかく、一緒に来てもらう」
「……行くぞ」
イザナミが手を差し出すと、カグツチはまだ混乱しているのか一歩下がった。
だが、イザナミが前に出る。
「混乱する気持ちは理解できる。だが……今はここから出よう。そのあとで、お前の疑問に全て答える。私も……お前のことを、知りたい」
「…………」
カグツチは、迷いつつもイザナミの手を取った。
海斗は言う。
「カグツチ。ここにある『死体処理場』の場所、わかるよな」
「う、うん。宿舎の裏にある施設だけど……なんで?」
「そこに、『魔王の骨』があるからだ」
こんなこと言ってもわからないだろうけど、と海斗が苦笑した時だった。
「え? 魔王の骨って……ザンニ様が回収した、あの背骨?」
「──は?」
海斗は、キョトンとしているカグツチを、驚愕の眼差しで見つめるのだった。