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六種混合異種人『月』のツクヨミ

 ツクヨミ。

 六種混合の異種人。

 人間をベースに、鬼人、竜人、土人(ドワーフ)森人(エルフ)、海人の血が混じった異種人である。そして、人間をベースにしているため『ジョブ能力』を持つ。

 その能力は。


「気を付けろ!! そいつは『格闘士(グラップラー)』のジョブ能力者だ!!」


 海斗が叫ぶ。そして、意外にもハインツが誰よりも早く特攻、一歩遅れイザナミ、クルルも飛び出した。

 ハインツは盾を構え、腰のロングソードを抜く。

 ツクヨミは、ニヤニヤしながら身体を低くし……消えた。


「は? ──ぉっぶ!?」


 ズドン!! と、盾を構えた正面ではなく、側面からの蹴りをモロに頭に受けた。

 ハインツは白目を剥くが、気合いで歯を食いしばって耐える。

 最初に『防御上昇』のスキルを使っていたおかげで耐えれたが、その威力は並ではない。


「なんつう蹴り」

「たりめーだろ」


 ハインツの背中を蹴り飛ばし、目の前にいるイザナミの連続斬りを紙一重で回避する。

 そして、パワーの込めたクルルの一撃を。


「『発破クラッシュ』!!」

「よっと」


 横薙ぎの、脇腹を狙ったスイングを、なんと素手で押さえて止めた。

 そして、ギョッとするクルルの胸に手を伸ばし、なんと衣服をはぎ取った。


「っ!?」

「おお、デカいねえ」

「あわわわわっ!? ななな ──っぶ!?」


 動揺し、胸を押さえようとした瞬間、無防備な腹に蹴りが入った。

 クルルは血を吐き、そのまま吹き飛ばされる。

 そして、イザナミの刀がツクヨミの首を斬り飛ばそうとした。


「『閃刃』!!」

「おっと」


 だが、ツクヨミは刃の軌道を見もせずに、首をひねって回避。

 そして、イザナミの胸にも手を伸ばしたが、イザナミは身を捻って回避。回避の瞬間にツクヨミに蹴りを入れる……同時に、イザナミの背後からマルセドニーの『火弾』が連続で放たれた。


「お、魔法」


 パパパパパパン!! と、拳のラッシュでイザナミと、火弾を全て叩き落とした。

 そして、イザナミに急接近。そのまま拳で腹を殴打し、胸を鷲掴みする。


「お前もデケエなあ。キキキっ」

「……触れるな!!」


 ビリっと、胸を覆う衣類が破れて胸が晒されるが、イザナミは気にすることなくツクヨミに向かう。

 その間、フラフラのハインツがクルルを回収し、ナヴィアの方へ。


「がっは……クソ、あの野郎」

「黙って。うわ……内臓、ヤられちゃってる。アンタも」

「早く、治せ。ヤベーぞ、おい!!」

「わ、わかってる!!」


 ナヴィアは、クルルの胸にタオルをかけ、ハインツと同時に『範囲治療(エリアヒール)』で怪我の治療を開始。

 マルセドニーは、援護を続けていたが……冷や汗を流していた。

 そもそも、ツクヨミとイザナミの攻防が激しく、速すぎる。

 残像に向かって『属性弾』を放っていいのか。イザナミの邪魔になるかもしれないと考えると、迂闊な援護は出せない。

 すると、海斗が叫ぶ。


「イザナミ!! 速すぎて対応できねえ!! とりあえず、攻撃するから、利用しろ!!」

「かか、カイト、どういう」

「マルセドニー、とにかく撃て!! イザナミに当ててもいい。ってか、あいつには当たらん!! 俺らの攻撃を利用して、ツクヨミに当てるはずだ」

「そ、そうなのか!? ええい、とにかくやるぞ!!」


 マルセドニーは眼鏡をクイッと上げ、人差し指を向ける。

 そして、地水火風の『弾』を連射。

 海斗も、地面を足で踏みしめ、さらに『狼の骨』を投げる。


「『骨命(リ・ボーン)魔改造カスタマイズ』!! 【狂骨狼フェンリスヴォルフ】!!」


 骨に鋭利な突起が生えた巨大な狼がイザナミたちに向かって走り出す。

 そして、地面から半透明の人骨が大量に生まれ、広場全域を囲んだ。


「『幻骨(ファンタズマ)』!! 【スカルスクラム】!!」


 大量の人骨……手には、自身の頭蓋骨があった。

 イザナミ、ツクヨミはギョッとする。


「イザナミもろとも、喰らえ」


 海斗がニヤリと笑う……すると、広場、建物の上、木の上と至る所に現れた半透明の人骨が、一斉に自身の頭蓋骨を投擲した。


「おいおいマジか。お前も狙ってるぜ?」

「さすがカイトだ」


 砲弾のような速度で飛んで来る【頭蓋骨】を、舌打ちしたツクヨミは全身を捻って、さらに手足で叩き落とし破壊する。

 イザナミも同じ……ではなかった。


「っつ」


 イザナミは、砲弾のような速度で飛んで来る頭蓋骨を無視。

 頭に直撃し血が噴き出し、足に直撃し骨が軋み、腹に直撃して内臓が傷ついた。

 だが、目が死んでいない。

 頭蓋骨を無視し、ツクヨミを殺すためだけに剣を振った。


「マジかよ」


 ゾッとするツクヨミ。そして、一瞬のスキが生まれ、ツクヨミの腕に【フェンリスヴォルフ】が噛みついた。


「っぐぁぁぁ!? やっべえええええ!!」

「『四閃刀(しせんとう)』!!」


 そして、イザナミの四連刃が、ツクヨミの両腕、両足を切断。ツクヨミが地面を転がった。


「っくああああ痛ぇえええええええ!!」

「終わりだ」

「待て」


 と、海斗が止める。

 そして、四肢切断状態のツクヨミの頭を掴み、ニヤリと笑った。


「大した情報は持ってないだろうが……こいつは使えそうだ」

「……へへへ、お前、なんつう目ぇしてんだよ。マジで怖えぞ」


 ツクヨミの身体から力が抜け……敗北を宣言するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 切断した手足をロープでまとめ、ナヴィアが切断面を治療……そのまま転がされたツクヨミは、海斗のククリナイフを首に当てられ、尋問されていた。


「なんで俺たちのことを知ってる?」

「ドットーレ様だよ。あのお方が、オマエらのことを察知して、ザンニ様に報告したんだ」

「……ッチ。やっぱりこの時点で『狂医』はいるのか」

 

 海斗は舌打ち。

 すでに治療を終え、新しい服を着たイザナミが言う。


「……カイト。どうするんだ」

「…………」


 予定では、三強を始末するまでに海斗たちのことがバレたら撤退。

 最初の時点で、もう撤退条件を満たしている。

 それに、ツクヨミ。海斗はツクヨミの強さが想定外だったことも驚いていた。


「お前、ジョブは『格闘士』だよな。六種混合の異種人としての身体能力とスキルを合わせて、ゴリ押しする戦闘スタイルで間違いないな」

「ほー、詳しいね」

「……お前。ザンニに忠誠を誓ってるか?」

「ああ?」

「おいカイト、何を考えてる」


 マルセドニーは察したのか、海斗の肩を掴んで止めようとする。

 だが、海斗は言う。


「ツクヨミ。原作じゃお前……確か、戦うだけの戦闘馬鹿だよな。ザンニへの忠誠とか、戦う理由とかない、ただ戦えればいいだけのヤツだったはず」

「…………」


 海斗が何を言いだしたのか、マルセドニー以外はわかっていない。

 マルセドニーは「まさか」と呟き、海斗の肩を掴んだ。


「待て。カイト、まさか」

「戦力が足りない。それに、こいつは使える」


 海斗は、アイテムボックスから小さな骨を取り出し、ツクヨミに見せる。


「俺のジョブは『邪骨士』……骨を使役するジョブ能力だ」

「ケッ、気色悪いな」

「それは同意する。でも……こいつは使えるんだよ。例えば……『骨爆弾(ボム・ボーン)』」


 海斗は、骨に力を注ぎ、ツクヨミの傍に投げた。

 すると、骨が破裂……粉々に砕け散る。

 ギョッとするツクヨミ。海斗はニヤリと笑い、人差し指をツクヨミの額に当てた。


「骨を爆破するスキル……そして今、お前の全身を爆弾に変えた。ククク……なあ、人間の全身の骨を爆弾に変えて爆破するとどうなると思う? すげえんだ……内側から爆ぜると、内臓が花火みたいに飛び散るんだよ。そして、俺の匙加減で爆破の威力は調整できる。例えば……内臓だけをズタズタにして、身体の内側だけ爆破させたり、とか」

「…………」

「お前は生命力にあふれてる。四肢切断とか、大量出血くらいじゃ死なない。でも……骨が爆発して、内臓がぐちゃぐちゃになったらどうだ? 間違いなく死ぬが、死ぬまで『死ぬほど』苦しむだろうな」

「……いい性格してやがる」

「正直に言え。お前、死にたいか?」


 そして、ハインツたちもようやく、海斗の意図していることを理解した。


「死にたいわけねえだろ。オレぁな、まだまだ戦い足りねえんだ」

「だったら、ザンニを裏切って、俺らのために戦え」


 全員が驚愕していた。

 海斗は、ツクヨミを仲間に引き入れ、使うつもりだった。

 ツクヨミは頬をヒクつかせる。


「は、はぁぁ? お、オレを仲間にするつもりか?」

「違う。都合のいい道具だ。どうせお前、俺らに負けたとなればザンニに処分される。このままザンニの元に返して、最大出力の爆破でザンニもろとも吹っ飛ばすのも面白そうだけどな」

「……」

「でも、お前は強い。全身に爆弾を抱えて、俺らのために戦わせるのも面白そうだ。なあ?」

「……オマエ、最悪すぎるぞ」

「ははははは!! どうする? お前の働き次第では……全てが終わったあと、自由にしてもいい」

「……全て?」

「執政官を始末するまでだ」

「は? ざ、ザンニ様、ってことか?」


 海斗は答えずニヤニヤするだけ。

 ツクヨミは理解した……海斗は、十二執政官を全員、始末するつもりだ、と。


「選べ。仲間(バクダン)として戦うか、爆弾(なかま)の元で吹っ飛ぶか」


 ツクヨミは震えた。

 魂が震え、海斗が輝いて見えた。

 自分は狂っている。戦えればそれでいいと思っていたが、海斗はそれ以上に狂い、嗤っていた。

 こいつの下でなら、もっと戦える。

 ツクヨミは、もう迷わなかった。


「「ハハハハハハハハハハ!!」」

 

 海斗、ツクヨミは同時に笑う。

 そして、ツクヨミは。


「いいぜ。やってやる。お前の『爆弾』として、使われてやるよ」

「決まりだな」


 海斗はロープで縛った四肢を放り投げ、ナヴィアに言う。


「治療しろ」

「……ま、マジなの」

「……おいマルセドニー、カイトって『救世主』なのか? なんか、魔王に見える」

「悪いが、ちょっと気分が」

「……震える。カイト、なんて男だ」

「えと……えええ? えっと、仲間、ですか?」


 こうして、ツクヨミを仲間にし、海斗たちは先に進むことを決めたのだった。

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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