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『タカマガハラ』の施設

 海斗は、テーブルに手書きの地図を広げた。


「まず、ここから先にある『タカマガハラ』の施設には、六種混合の異種人ツクヨミがいる。そして、イザナミの妹カグツチもいるから、『魔王の骨』を回収し、カグツチを救う」

「……カグツチ、か」


 イザナミは、カグツチが同じ鬼人の腹から産まれた妹ということを知らなかった。複雑な心境であることは明白だが、海斗は言う。


「イザナミ。間違っても暴走するなよ。お前が暴走した時点で、霧の国シャドーマは見捨てる。目立つわけにはいかないのはわかるよな」

「……ああ」

「あの、カイトさん……さすがに、厳しすぎるんじゃ」


 クルルが言うと、海斗は首を振る。


「言っておくけど、真正面からザンニにぶつかって勝てる可能性は二割もない。でも、三強と二人の秘書兼護衛を倒せば、俺らだけでザンニを真正面から倒すことも不可能じゃない……とにかく、三強を倒すまでは、見つかるわけにはいかないんだよ。もし、イザナミが暴れて……いや、俺らの誰かが原因で、俺らの存在がザンニにバレたら、最優先は『魔王の骨』だけだ。カグツチも当然、見捨てる」


 冷酷な判断……だが、自分たちが最優先である今、海斗の判断は間違いでもなかった。

 クルルもこれ以上は言わない。海斗はイザナミに言う。


「イザナミ。六種混合の異種人は強い……戦う場合は、必ず俺の指示に従えよ」

「……わかった」

「よし。じゃあ……今夜、施設に侵入する。それまでしっかり休んでおくぞ」

「お、おい!? 今夜って、今夜!? 今日ここ来たばっかだろ!?」


 驚くハインツに海斗は言う。


「他にここでやることなんてないだろ。酒場で一杯やってから行こう、なんて言うと思ったのか?」

「いや、驚いてんだよ……ああもう、わーったよ」


 海斗たちは仮眠し、装備を整え、夜を待つことにするのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 夜。

 海斗たちは装備を整え、イザナミの家を出た。

 外はすっかり暗くなり、雲一つない空では星が瞬いている。

 クルルは空を見上げながら歩いていた。


「ね、クルル。空になんかあるの?」


 ナヴィアが言うと、クルルは苦笑する。


「いえ。その……ずっと地底にいたので、星空を見たことがなくて。最近は、眠くなるまで夜空を見上げるのが日課になってまして……」

「か、可愛い……うん、いいじゃん」


 ナヴィアが何故か敗北者のような顔をしていた。

 マルセドニーは言う。


「カイト。真正面から行くのか?」

「いや、側面の裏口から入る。イザナミ、わかるよな?」

「搬入口か……」

「ああ。ちなみに、あそこは攻め入られることを想定していない、本当にただの研究施設だ。魔族もいるけど戦闘なんてしたことのない研究者……でも」

「……例の、六種混合の異種人か」


 マルセドニーが言うと、海斗が頷いた。


「ああ。ザンニの配下の異種人だ。魔族じゃないが、ザンニに心酔している完全な敵だ……まずは、魔王の骨を回収し、ここを守るツクヨミを暗殺するぞ」


 海斗は、『蛇の骨』と『鼠の骨』を出す。


「『骨命(リ・ボーン)』」


 骨蛇、骨ネズミが顕現。しかも、骨のサイズが通常よりも小さく、子供のような大きさだった。


「施設に侵入しろ。絶対に見つかるなよ」


 骨の蛇とネズミは闇に消えた。

 そして、しばし歩き……見えた。

 白い大きな壁に阻まれた巨大な研究施設。正門はがっしりと閉じており、壁を登ろうにも垂直な壁は道具がないと登ることはできない。

 海斗たちは、イザナミの案内で正門の東へ向かった。

 そして、見えたのは壁に埋め込まれているような、鉄格子の扉。


「あそこだ。物資の搬入口……あそこから入るぞ」

「けけけ、なんか暗殺者みたいな感じするぜ」

「やれやれ……真面目にやってくれよ」

「あたし、回復役なんだけど、今更だけど付いてこなくてよかったかも……」

「うう、緊張してきました」


 海斗たちは、抜き足差し足で鉄格子へ近付く。

 会話はもうない。見回りもいなければ、明かりもない。静寂だけがあった。

 そして、鉄格子に近づき、海斗はイザナミに言う。


「……これ、斬れるか? できれば音もなく」

「……容易い」


 キン……と、一瞬で抜刀。鉄格子が綺麗に両断され、ハインツとクルルが倒れる鉄格子を慌てて支える。海斗は頷き、静かな声で全員に言う。


「よし。イザナミ、ここからはお前の案内だ。ツクヨミは恐らく寝ているはず……あいつの部屋に行って、始末するぞ」


 全員が頷く。

 こうして、海斗たちは暗殺者のように、施設に侵入するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 裏口から入り、細い通路を進む。

 リノリウムのような廊下、壁も同じ材質で、天井には魔石の光が輝いている。

 さすがに緊張しているのか、誰も会話しない。

 先頭を歩くイザナミは、存在すら希薄に感じるほど気配を殺していた。

 海斗は、すでに骨蛇と骨ネズミが施設内にいることを察知……右目を閉じ、視覚共有でチャンネルを切り替えつつ進んでいた。


「……カイト」


 イザナミが小声で言う。

 海斗は右手で右目を押さえながらイザナミを見る。


「この先は、施設の中心だ。その先に研究対象の居住区がある」

「そのまま中心に向かう……」


 ソロソロと、足音を立てずに進んでいた……が。


「へくちっ」


 ナヴィアがくしゃみをした。

 全員が足を止めナヴィアを凝視。ナヴィアは口と鼻を押さえ、冷や汗をダラダラ流す……が、誰かが歩いて来るような音、こちらに向かう気配など感じることがなく、全員が息を吐く。


(大馬鹿野郎。おま、くしゃみってアホか)

(で、出ちゃったの仕方ないじゃん……)


 顔がくっつくくらいの近距離でハインツがナヴィアに言う。確かに、生理現象は仕方がない。

 歩くのを再開。廊下を曲り、周囲を観察しつつ先へ進む。

 そして、廊下の最奥にあるドアの前に立った時だった。


「──!!」


 海斗の動きが止まった。

 何故なら、急に『骨蛇』のチャンネルが途絶えたのだ。

 イザナミが、すでにドアに手を触れている。

 海斗はその手を止めようと、イザナミの手を掴もうとしたが……すでに、ドアノブが回り、ドアが開いた。


「まっ」


 待て、と海斗は言おうとしたが言えなかった。

 ドアの先は、居住区と研究区に繋がる広場。

 明かりもなく、静まり返っているはずの広場に……誰かが立っていた。


「ようこそ、侵入者の皆さん」


 そこにいたのは、若い男だった。

 群青色の逆立った髪、上半身裸で身体は入れ墨だらけ。黒いズボンに黒いブーツ。両手を覆うガントレットを付けた、二十代前半の男が、手に『骨ネズミ』を持ち、見せつけるように揺らす。

 同時に、広場の明かりが灯り、真昼のような明るさになった。


「キキッ、ホントに来た。侵入者……キキキ、おもしれーじゃん」

「なっ……」

「オマエたちが霧の国シャドーマに入ったことなんて、もうザンニ様は知ってるぜ。で……オレ様に相手してやれって命令も受けた」

「お、おいカイト。どういうことだよ」

「……わからねえ。こんなの、原作にない。いや……そもそも、俺たちの行動も『原作』から外れているしな」


 海斗は『原作』を知っている。だが……知っているのは、あくまで『原作』なのだ。

 イベントがどこで起きるか、どんなキャラクターが出るか、どういう戦い方をするのかは知っている。だが、それ以外の行動はわからない。

 海斗が知っているのは、『夜、施設は静まり返る』ということだけ。


「オレはツクヨミ。ザンニ様に作られた六種混合の異種人だ。キキキ……ここでオマエらを消すのが、オレの仕事」


 ツクヨミの額から一本の角、そして上半身に竜麟が生える。

 イザナミも、ツノを生やし髪の色が変わり、刀を向ける。


「へー、オマエも異種人。でも、三種しか混ざってない出来損ないだよなあ?」

「…………戦えば、わかる」


 海斗は舌打ちした。


「お前ら、やるぞ。戦闘態勢」

「お、おう!!」

「ううう、あたし下がってる」

「え、援護は任せろ」

「よーし!!」


 クルルはハンマーを構え、イザナミの隣に立つ。

 海斗はククリナイフを抜き、右手の指をコキコキ鳴らした。


「イザナミ、クルル、気を付けろ。こいつは近接戦のスペシャリストだ」


 戦いが始まった。

 本来なら『暗殺』する予定の、三強の一人ツクヨミとの戦いが。

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