イザナミの家
海斗たちは、イザナミの案内で『タカマガハラ』の町へ。
町と言っても、人通りが多かったり、活気のある商店街というわけではない。似たような家がいくつも並び、出歩いている異種人は誰一人としていない。
そんな町中を、海斗たちは堂々と歩いていた。
「ね、ねえカイト。こんな堂々と歩いてていいの?」
「……イザナミ、どうなんだよ」
「問題ない。そもそも、住人は普段、自宅待機が基本だ……特に、この辺りの住人は、すべきことがない場合は、家にいる」
「おいおい、カイトが言ってた『蛇』とか出ないのか?」
「蛇……少なくとも、私はここで見たことはない」
ハインツがキョロキョロしながら言うと、イザナミは急に道を曲り、細い道へ。
二人並んで歩くのすら厳しい通りを抜け、小さな木々に囲まれた古い家に到着した。
木造一階建ての平屋だった。イザナミは古い鉄門を開け中へ。
「……三年ぶりだ」
海斗たちも門の先へ。
門を通るとすぐに扉があり、イザナミは家の中へ。
家の中は狭い。埃っぽく、椅子テーブルがワンセット、水瓶、ベッドしかない。
「狭くて申し訳ないが……」
「ホコリっぽいわ~……」
「窓、窓あけましょう!!」
ナヴィアが文句を言い、クルルが窓を開ける。
海斗は、アイテムボックスから箒や雑巾、小さな壺を出す。
「マルセドニー、この壺に水。全員で掃除するぞ」
「「「はーい」」」
「わわ、みなさん意外に素直ですね」
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアは、修行を始めて必ず最後には宿舎や訓練場のなどの掃除をさせられていた。無意識に『掃除』と聞いて身体が反応してしまい、なんともいえない表情で雑巾を手にする。
海斗は箒を手に言う。
「とりあえず、ここを拠点に使わせてもらう。今後のことも話さないとな」
◇◇◇◇◇◇
掃除が終わり、海斗たち六人は椅子に座ってお茶を飲んでいた。
椅子は、海斗のアイテムボックスに入っていた野営用の椅子だ。家が狭いので、六人が座るだけで窮屈である。
一間しかないので、二階建て馬車のが居心地の良さではよかった。
「これからの予定は……まず、『タカマガハラ』にある研究所に行って、『魔王の骨』を回収する」
「出た。骨……で、今度はどこの部位だよ」
「背骨」
ハインツが「背骨……」と、なんとも言えない顔をする。
「イザナミ。『タカマガハラ』には、お前の妹がいる。三種混合の異種人だ」
「……ああ」
「それと……今のうちに言っておく。ザンニの配下で気を付けるべき敵は五人。ザンニを入れて六人だな……一対一じゃ間違いなく勝てない」
「「「え」」」
「え、えと、ろ、六人? え……初耳ですけど」
「……私も、知らない」
「まあ、イザナミがこの国を出たあとに生まれた異種人だからな。最初に言うと、ビビッて震えあがるだろうから、逃げ場のないここで言った」
海斗は平然としていたが、ハインツたち三人は唖然とする。
「お、おいカイト……まさか、全員相手にするつもりか?」
「状況による。少なくとも、原作ではリクトのハーレムメンバーが分担して戦ってたんだよな……イザナミを除いた、十五人のハーレムメンバーで。うーむ……」
ザンニは本来、原作終盤で戦う敵だ。そもそも、研究者であり、『狂医』ドットーレと共に『魔神』の器となる者を作るべく奮闘していたのだ。
原作でも、次巻への伏線として会話シーンがあったり、凶悪さを強調させる程度の会話だけで活躍はずっと後だ。だが……今こうして、海斗たちは霧の国シャドーマにいる。
テンプレ、ストーリーを無視……今更だが、海斗は微妙に後悔する。
(……さすがに、六人。いや……こっちには潜伏しているヨルハ、コリシュマルドもいる。合計で八人か……こっちにいるハーレムメンバーのイザナミ、コリシュマルド、ヨルハは、原作終盤では主戦力だった。問題はない……はず)
考え込んでいると、イザナミが言う。
「……カイト。敵の戦力について、説明してくれ」
「ああ。まず、敵の主力三人は、六種混合の異種人だ」
「……え」
イザナミが驚愕する。
ハインツ、マルセドニー、ナヴィア、クルルも唖然としていた。
「かかか、カイト……ろろ、六種って」
「イザナミがこの国にいた頃には、三種が限界だった。しかも、魔族に対抗するために、ザンニに隠れて研究し生み出された成果がイザナミ、そしてカグツチだ。ザンニは、その研究成果を根こそぎ取り上げて、さらに昇華させたんだ」
「な……」
「悪いな。俺も胸糞悪い記憶で曖昧だったけど、いろいろ思い出しちまった……」
イザナミの生まれた経緯は、『魔族に対抗するために、異種人たちが研究し生み出した三種混合の異種人』というのは間違いない。
だが……ザンニは、異種人たちの研究を知りつつも傍観し、成果を出させた。
魔族を恨む気持ちが、どのような異種人を生み出すのか、嘲笑いながら見ていたのだ。
そして生まれたイザナミ、カグツチ。イザナミが霧の国シャドーマで暴れ、国外に出たのを見送り、ザンニは全ての研究を取り上げ、研究者たちを皆殺しにし、成果をさらに昇華させた。
「そして生まれたのが、四種混合の異種人サクヤ。そして五種混合の異種人コノハナ。この二人はザンニの秘書で研究助手で護衛でもある」
「……馬鹿な」
イザナミは目を見開き、俯いた。
そして、ハッとして顔を上げる。
海斗は頷いた。
「そして、現時点での最高傑作。六種混合の異種人が三人……そいつらが、第零区画『ヨミヒラサカ』にいる」
「お、おいおいカイト……やべえのか、そいつら」
「ああ、スカピーノ、スカラマシュなら単独で殺せるかもしれないな」
海斗は言う。
「ツクヨミ、アマテラス、スサノオ。六種混合の異種人……こいつらをハメ技で倒し、ザンニのいる『ヨミヒラサカ』に行ってザンニを暗殺する。そうすれば、この国は解放されるってわけだ」
「「「「「…………」」」」」
海斗以外の全員が黙り込む。そしてマルセドニーが言う。
「……カイト。その、混合の異種人……『ジョブ』はもっているのか?」
「ああ。異種人を作る最低条件の一つに、『ベースは人間』って制約がある。人間をベースにしないと、異種人は作れない」
海斗は舌打ちする……そもそも、都合よく『ジョブ能力者』の母体などいない。ザンニは、ジョブ能力者の『死体』から、『遺伝子』を取り出し、十二種族のタネと交配させていた。
怖気のする内容に、この『霧の国シャドーマ』編が不人気だった理由がわかる。
「とにかく、敵の主戦力は個別撃破でいく。全員で、一人を罠に嵌めて確実に始末するぞ」
記憶活性したことで、海斗はどういう『イベント』が起きるのか理解していた。
敵は六人。確実に始末するために、海斗は動き出す。





