第一実験区画『タカマガハラ』
ダンジョンボスを倒した奥の扉を開けると、そこにあったのは。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
「わあ、すごーい!!」
「……財宝。こんなものが、故郷に眠っていたなんて」
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアが絶叫。クルルは普通に驚き、イザナミは静かに感想を述べる。
海斗も、目の前の光景を見て驚きつつ、足元にあった金貨を手に取った。
「こいつがダンジョンの財宝か。マルセドニー、この規模はすごいのか?」
「す、すごいなんてモンじゃないぞ!! い、い、一生遊んで暮らせる……いや、人生何度かやり直しても遊んで暮らせるほどのお宝だ!! 間違いなく大発見!! 歴史に名が残るレベルだぞ!!」
「へえ」
目の前に広がるのは『黄金』だった。
大量の金貨が山積みとなり、宝石や黄金細工などが部屋一面に置いてある。
フィクションの世界でしかない『金銀財宝』が、まさに目の前にあった。
「あたし、生きてるよね。死んでないよね……夢じゃないよね」
「酒、女はもちろん、王都に豪邸、大勢の使用人、大富豪の仲間入りだぜ!!」
「……ククク。この金で、恋愛小説の巨匠クリシュナ先生に、ボクが主役の夢小説を書いてもらうことも夢じゃない。ああ、世界がまぶしい!!」
ざまあ三人組は、すでに財宝の使い道を考えている。
海斗は考えつつ聞く。
「マルセドニー。この財宝を全部回収して、ダンジョンは大丈夫なのか?」
「問題ない。ダンジョンボスはリポップするだろうが、ダンジョンはそのまま残る。さすがに財宝全てはリポップしないが、ダンジョンがある程度の財宝をここに生み出すだろう」
「へえ……」
「ダンジョンが消滅するのは、『ダンジョンコア』を破壊した時だけだ。大抵は、ダンジョンのどこかに隠されている……壁の中とか、隠し部屋とかだな。普通は見つけられないし、見つけても破壊しないのが普通だ」
「わかった。よし、とりあえず財宝を回収するか。今後の活動資金として使えそうだしな」
「おいカイト!! これだけの金額、全部活動資金とかにするつもりじゃねぇよな!! オレらにだって分け前もらう権利あるぞ!!」
「そうよそうよ!! ダンジョンの財宝は仲間内で分けるってのは、冒険者のルールだからね!!」
金額が金額なので、ハインツとナヴィアの目の色が変わっている。
さすがに、ここで『おあずけ』をすると、今後に影響を及ぼす可能性もゼロではない。
海斗はため息を吐きつつ言う。
「わかってるよ。ザンニ討伐後に、ちゃんと分け前はやる。今は優先すべきことがあるから、あとにしろ」
「マジで誤魔化そうモンなら暴れるからな」
「あたしも」
「お、おお……」
金は人を変える……海斗は、ハインツとナヴィアの威圧感にやや押された。
「あの、あたしはもう充分、カイトさんによくしてもらってるんで、べつにいいですよ」
「……私も、興味がない」
クルル、イザナミはあまり興味がないようだ。
マルセドニーは興味を持ちつつも、ハインツやナヴィアのように興奮はしていない。
海斗は、アイテムボックスから大量の麻袋を出した。
「とりあえず、こいつに詰めろ」
海斗は『サルの骨』を使い手数を増やし、仲間たちと協力して財宝を回収。
麻袋二百個ほどの財宝をアイテムボックスに全てしまい、汗を拭く。
「さて、この先は出口だ。イザナミ、『タカマガハラ』への道案内を任せる」
「わかった……魔族も知らない隠し通路がある。そこを使おう」
「よし……出発は夜、闇に紛れて行くぞ」
こうして、海斗たちは『海底洞窟』を攻略。莫大な財宝を手に入れ、いよいよ霧の国シャドーマへ入るのだった。
◇◇◇◇◇◇
夜。
ダンジョンの出口は、入口と同じ洞穴だった……が、出口は樹の根でびっしりと塞がれており、外に出ることができない。
イザナミは言う。
「樹の根……この樹は、タカマガハラ郊外にある大樹の根だ。まさか、ダンジョンの出口になっていたとは」
「ふむ……海底が入口で、ここが出口か。仮にここが入れるようになっていても、ダンジョンは入口からしか入れない。どうあがいても、出口は出口というわけだ」
マルセドニーがしみじみ言うと、クルルが言う。
「あの、どうするんですか? やっぱり……切るしかないんですか?」
「問題ない。大樹は大きい……通れるほどの出口を作る程度なら平気だろう」
イザナミは一瞬で抜刀、納刀……すると、樹の根が綺麗に切られ、外の光が差し込んだ。
外は夜。すでに暗く、空は星空が見えた。
全員でダンジョンの外へ出て、海斗は言う。
「……何度も言ったが、すでにここは『霧の国シャドーマ』だ。ザンニの監視である『蛇』には気を付けろ」
「気を付けろっても、蛇の気配なんてわかんねーぞ」
「出会うのは仕方ない。不審な行動はするなってことだ。もちろん、触れるなんて論外だぞ」
「わーってるよ。好き好んで蛇なんて触んねーし」
「とにかくイザナミ。タカマガハラに案内しろ」
「わかった」
イザナミは歩き出し、海斗たちも後を追う。
森の中は真っ暗で、コウモリのような泣き声、ガサガサと茂みが揺れた。
ナヴィアは、クルルの背中にピッタリくっついて言う。
「ぶ、不気味~」
「あの、ナヴィアさん。あんまりくっつかれると、いざという時に戦えないんですけど……」
「い、いいじゃん別に……ダメ?」
「うー、まあ、少しなら」
ナヴィアは怖いのか、クルルにぴったりくっついている。
ハインツは欠伸をする。
「くぁぁ~、おいマルセドニー、なんか眠いよな」
「同感だ。だが、安全圏に入るまで気を抜くな。キミは前衛なんだぞ」
「へいへい。お前、クソ真面目に磨き掛かってねえか?」
「無事に、そして早く帰って読書したいんだ。全く……」
ハインツ、マルセドニーはいつもと変わらない。
そして、イザナミと海斗。
「……カイト。タカマガハラは町であり研究施設だ。私の住んでいた家が残っていると思う……そこなら安全かもしれない」
「ああ。そこに案内してくれ」
「わかった」
一行が進むこと三十分……ようやく森を抜けた。
そして、目の前に広がる光景に、海斗は驚く。
「……なんだこりゃ」
森を抜けると、目の前には巨大な『白い壁』があり、その周囲には木造のあばら家がいくつも並び、さらに外周を白い壁が囲んでいた。
海斗たちがいるのは、森の出口であり、崖の上。
巨大な窪みの中に町があり、町の中心に白い壁がある、妙な地形だった。
「あの中心が『タカマガハラ』で、その周囲にあるのが異種人の家……異種人たちは定期的に、白い壁の内側にある研究施設で実験を受ける」
「…………」
「私が生まれたのは、あの白い壁の内側だ」
「……お前の妹も、そして『魔王の骨』もあそこにある」
「……まずは、私の家へ行こう。こっちだ」
一行は、イザナミの家を目指し、歩き出すのだった。





