ダンジョンボス
「ハインツ、クルル。前衛を交代だ」
海底洞窟のダンジョンに入り二日目……海斗は支持を出した。
たった今倒したサハギンの上位種、『グレートサハギン』を解体しようとしていたハインツ、クルルは驚いて顔を見合わせる。
「おいおい。交代って……誰が戦うんだよ」
「俺に決まってるだろ」
海斗は描きかけの地図をマルセドニーに渡し、首、手首、肩とコキコキ骨を鳴らす。
「俺も少しは運動しないとな。戦闘をお前らに任せて、ただ地図を書いてるだけじゃ身体が鈍る」
ワイヤーダートの先端をナイフに変更し、手首を逸らす。するとナイフが飛び出した。
腰に差してあるナイフも抜いて確認。先端が曲ったような特殊な形状である『ククリナイフ』をクルクル回して構えを取る。
「というわけで、前衛は俺、中衛はハインツ、クルルはマルセドニーとナヴィアの護衛。イザナミは……前衛だ」
「よし」
「ただし、一人で突っ走るなよ」
「……私は、そこまで信用がないのか?」
「ああ。一度死にかけてるからな。戦闘に関して、そう簡単に信用しないと思え……信用されたければ、行動で示すんだな」
「わかった」
海斗が言うと、イザナミは大きく頷いた。
二人が並んで立ち、ゆっくりと歩き出す……すると、通路の先に大きな扉があった。
「……マルセドニー、扉があるけど、これは?」
「ダンジョンボスの部屋だな。ははは、前衛を交代した途端にダンジョンボスの部屋とは。カイト、どうするつもりだ?」
「……このままいく。ハインツ、クルル、俺の指示があるまで手ぇ出すなよ」
「けけけ、面白そうだぜ」
「わ、わかりました!!」
「……カイト。あなたは、私が守ると誓う」
と、イザナミが言った瞬間、海斗は人差し指をイザナミに突きつけた。
「それ、余計だ」
「……え?」
「守る? 何様のつもりだ。俺の隣に立った以上、お前が守るのはお前だけだ。後ろを守るのは別にいる。俺たちは、目の前にいる敵を倒すだけだ……いいか、一緒に前線に立つって意味をはき違えるな。たとえお前が俺より強くても、俺はお前に守ってもらいたいなんて思わない」
「…………」
「行くぞ」
海斗が扉を押すと、観音開きの扉がゆっくり開く。
その部屋は、かなりの広さだった。
天井も高く、海斗が通っていた高校の体育館よりも広い。バスケコート四面分はありそうな空間だ。
その部屋の中央に、白い蜷局を巻いた巨大な『蛇』が二匹、絡み合うようにいた。
マルセドニーが言う。
「カイト、王城の図書館で見た記憶がある……こいつは、海に住む魔獣『シーサーペント・ツイン』だ」
「説明」
「その名の通り、二匹のシーサーペントだ。全身がぬめりのある体液で濡れており、魔法を弾く性質がある。直接攻撃も通じにくい。それと、こいつに捕まったら最後、間違いなく絞殺され、そのまま丸呑みだ。気を付けろ」
「わかった。じゃあ援護頼む。イザナミ、二匹いるから片方はお前な」
「わかった」
海斗、イザナミが近づくと、それが合図となったのかシーサーペント・ツインが動き出す。
ダンジョンの魔獣は、ある程度接近しないと動き出さないとハインツが言っていた。海斗はそれを思いだし、ククリナイフを肩に担ぐ。
「さあて、蛇狩りの時間だ」
◇◇◇◇◇◇
海斗、イザナミが飛び出すと、シーサーペント・ツインも蜷局を巻いた状態から一気にほどけ、海斗とイザナミに向かって大口を開け這ってきた。
イザナミは無表情だが、海斗は違う。
異世界慣れしてきたし、それ以上に修羅場もくぐって来た……が、やはり日本生まれで怪物とは無縁の生活をしてきた少年なのだ。
あまりにも巨大な『蛇』を相手に、少し身体が硬直していた。
「キッモいな……くそっ」
海斗は横っ飛び。海斗のいた場所をシーサーペントがスライドするように滑る。
ヌメヌメした液体が地面を濡らす。海斗は右腕をシーサーペントに向け、ワイヤーダートを発射……だが、ナイフがシーサーペントに触れた瞬間、ぬめって弾かれた。
「チッ、だったら……『魔王の掌握』!!」
巨大な右腕の骨を出現させ、シーサーペントを掴もうとした……が、なんとウナギのように、掴んだと思ったらニュルンと手から逃れてしまった。
「う、ウナギかよこいつ!?」
『シュガアアアアアアア!!』
そして、海斗めがけて大口を開け、シーサーペントが迫って来る。
海斗は頭上に向けてワイヤーダートを発射、一気に巻き取り上空へ。
ククリナイフをクルクル回転させ、落下の勢いを合わせてシーサーペントの頭を思い切り斬りつけた。が……またしてもぬめりで、刃が滑った。
「こ、こいつ……なんつう身体してやがる」
海斗は着地。すると、背後から炎弾が発射され、シーサーペントの身体を焼く。
『ギュアアアアアア!!』
「やはり炎が弱点か。カイト、ボクが炎でそいつの体液を焼く!! 体液が消えたところを攻撃しろ!!」
「マルセドニー、お前本当に頼りになるな!!」
炎弾が連射され、シーサーペントの身体を一気に焼く。
海斗は地面を踏みしめる。
「『幻骨』──【斬骨剣】!!」
半透明の『骨を削って作られた鋭利な剣』が一気に二十本ほど出現。海斗はそれをひたすら投げると、回転してシーサーペントの身体に突き刺さった。
「ハインツ、来い!!」
「おう!!」
ハインツに骨の剣を二本、海斗が二本手にし走り、二人同時にシーサーペントの身体に突き刺した。
『シュガアアアアアアア!?』
血が噴き出し、のたうち回るシーサーペント。
海斗、ハインツは離れる。
海斗は再び足を踏みしめた。
「クルル、とどめ!!」
大量の骨が地面から現れ、のたうち回るシーサーペントの身体を包囲する。
そして、飛び出したクルルがカートリッジをハンマーにセット。そのまま思い切り、シーサーペントの頭に向かって振り下ろした。
「『発破クラッシュ』!!」
ズドン!! と、ハンマーが爆発……シーサーペントの頭も爆発した。
ズズンと、のたうち回っていたシーサーペントの身体が停止……ようやく討伐した。
海斗は言う。
「よくやった。お前ら、本当に強くなったな。安心して背中を預けられる」
「へん。そう思うなら、たまには奢れよな」
「ああ、デラルテ王国に戻ったら奢ってやるよ」
ハインツの胸を叩くと、カツンと鎧の音がした。
イザナミの方を見ると。
「……安らかに」
すでに終わり、イザナミは祈りを捧げていた。
綺麗に首が切断されたシーサーペント。血も綺麗に抜けており、切断された頭部、顔の部分は不思議と穏やかに見えた。
「カイトカイト!! あの頭、売ればお金になるんじゃない!?」
「確かにな……回収しておくか」
イザナミの倒したシーサーペントをアイテムボックスに入れる。
「カイト……私は、どうだった?」
「……」
見ていなかった。だが、一瞬で終わったのだろう……ケガもなく、一呼吸でシーサーペントだけを斬ったその腕前は計り知れない。
「お前は強い。本当に」
「……そうか」
「だけど、それだけじゃダメってことを学ばないとな」
「……」
イザナミは、よくわかっていないのか首を傾げた。
とりあえず、海斗も今はこれ以上言うつもりがない。
シーサーペントがいた背後に、観音開きのドアがあった。
「あそこが、このダンジョンの出口か……」
「あ、お宝部屋もあそこじゃない!? ね、行こ行こ!!」
ナヴィアが張り切る。
ハインツもクルルも、お宝が気になるのかソワソワしていた。
「よし。お宝を手に入れて、ダンジョンは終わり……次は『魔王の骨』だ」
こうして、海斗たちはダンジョンをクリアするのだった。