海底洞窟のダンジョン
ダンジョン内は、迷宮のような構造だった。
鍾乳洞の中を進んでいるようだが、光るサンゴのおかげで周囲は明るく、道幅も広く天井も高い。
それに、未発見のダンジョンなだけあり、発見も多かった。
「わお!! カイトカイト、これって宝石!?」
「知らね。でも、回収しておくか」
「やったー!! 発見者あたし、あたしだからね!! 名前書いておいて!!」
海斗は、ナヴィアが拾ったキラキラ輝く石をアイテムボックスへ。宝石の原石のようにも見え、磨けばいいダイヤになりそうな物だった。
そして当然、ダンジョンなので魔獣も出る。
「む、ハインツ……何か来てるぞ」
「おう。クルル、いくぜ!!」
「はい!!」
マルセドニーが何かに気付き、ハインツが突撃槍を、クルルがハンマーを構える。
こちらに向かって来たのは、青い二足歩行の半魚人……正直、かなり気持ち悪い魔獣だった。
「『サハギン』だ。確か、海沿いによく出る魔獣……」
イザナミが、ナヴィアを守るように前に出て言う。
半魚人の手には槍のような武器が握られており、ハインツが言う。
「スキル、『防御強化』!!」
ハインツ、クルルの身体が煌めいた。まるで透明な何かにコーティングされたような状態に。
ハインツの新スキル『ガードアップ』だ。その名の通り、防御力を上げる。
サハギンが、ハインツ目掛けて槍を突き出してきたが、ハインツは素手で受けとめる。
「はっはー!! 痛くもかゆくも……ねえ!!」
なぜか、突撃槍を投げ捨て、鍛え抜いた身体……拳でサハギンを殴った。
サハギンは吹っ飛び、壁に激突……そのまま消滅。
クルルは、槍の一撃を額で受け、そのままハンマーでサハギンを殴った……消滅。
サハギンの数は七匹。マルセドニーが人差し指をサハギンに向けるが、すぐに降ろす。
「……援護は必要なさそうだ」
「同感。というかあのバカ、武器投げ捨てて素手で殴るって何考えてんだ?」
「あたし、あいつ怪我しても治さなくていい?」
「ああ、そうしろ」
呆れる海斗たち。イザナミがウズウズしているのがわかったが、見ていないフリをした。
◇◇◇◇◇◇
海斗たちは、魔獣を始末しつつ先へ進む。
曲道、階段のアップダウン、分かれ道……海斗は、城で習ったマップ作製の技術を使い、地図を書く。
ポツリとぼやくと、ハインツが隣に並んで言う。
「広いな……」
「まあそうだろ。ってか、オレらが普段入るダンジョンってのは、大抵は半分以上調査されたモンばかりのヤツだ。残り半分は未発見、その未発見でデカいお宝を見つけるのが何よりの楽しみなんだぜ」
「半分調査して、残り半分はしないのか?」
「ああ。全部調査なんかしたらダンジョン探索の旨味がないからな。それに、調査した部分も完璧じゃねぇ。壁の中に隠し財宝があったり、ギミックを解くと隠し通路が出たり……けっこうワクワクするぜ」
「へえ……なんか、冒険者っぽいせりふだな」
「冒険者だっつーの。と……そのお前が書いてる地図、ここで使うのはいいけど、冒険者ギルドに見せんなよ?」
「なんでだよ」
「未発見のダンジョンは冒険者ギルドに報告義務あるんだよ。それまでは、勝手に調査しちゃいけねぇんだ。まあ今回は特例だしな。けけけ……ってわけで、ここ出たら破棄しろよ。ここも、未発見ってことにしておいた方がいいぜ。まあ、発見者には、調査終了して解放前日に前乗りしてダンジョンに入れるって特典があるんだけどな」
「へえ……」
知らないことばかりで、海斗は素直に関心していた。
そもそも、こういう情報をマルセドニーではなくハインツから聞くのも、なんだか不思議な感じだった。
せっかくなので、いろいろ聞いてみる。
「冒険者ってのは、儲かるのか?」
「まあ、稼げるやつ、そうじゃないやつに分かれるな。まあその……オレらはよ、ジョブがあったし……あーくそ、優遇されてからそんなに困らなかった」
「ほう、認めたか」
「やかましい。とにかく、なりたては稼げねえ。ダンジョンの魔獣は放置するとダンジョンに食われて消えちまうからな。慣れないと素早く解体なんでできないし、苦労して倒したはいいが、解体中に魔獣が消えちまうなんてザラにある」
「へえ……」
「魔獣の素材は高く売れるぜ。ダンジョン内の魔獣は高価なモンばかりだしな」
と、ここでマルセドニーが言う。
「カイト、分かれ道だ」
「ああ。そうだな……地図を見ると、左の方はまだ空白だ。そっちに行こう」
「わかった。おいハインツ……お喋りはそこまでにして、前衛の役目を果たせ。全く、ボクらを守るその盾は飾りじゃないんだろう」
「へいへい。頭でっかち恋愛眼鏡め」
ハインツは前へ。するとナヴィアが隣に来た。
「ねーカイト、あんたもしかして冒険者に興味津々?」
「ない。そもそも冒険者ってのは、異世界テンプレの職業。言い方変えれば無職と変わらん。冒険者やるくらいだったら、町のパン屋に弟子入りして、生地をこねる方がマシだ」
「……なんかすっごいひねくれた言い方してる気がする」
ナヴィアが嫌そうな顔で海斗の脇腹を肘で打つ。が、鍛えているのでダメージはゼロ。
「ね、カイト。イザナミの妹だっけ……その子、どんな子?」
「普通の子だ。生まれが特殊なのと、後々、ザンニに利用されて最悪の敵になる以外はな」
「……最悪の敵ねえ」
「ザンニの部下は、秘書を除けば全員が研究者で戦闘員はいない」
「え、じゃあ楽勝?」
「んなわけあるか。ザンニが普通に強いのと、その秘書ってのが厄介だ」
「……どのくらい?」
「スカピーノの配下全員を同時に相手しても瞬殺できるくらい強い。それくらい、その『秘書』は強い。とにかく……お前らはそいつと戦うことになるだろうな」
「はあ? あんたは?」
「決まってんだろ。俺はザンニを倒す」
地図を書きながら海斗は言う。
(そうだ。ザンニは俺が倒す……三つ目の『骨』を手に入れれば、俺はさらに強くなれる)
海斗は、気付いていない。
いつの間にか、自身が『魔王の骨』で強くなり、執政官と戦うことを作戦に組み込んでいることに。