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霧の国への入り方

 数日、馬車は霧の国シャドーマに向かって進んだ。

 馬車での宿泊がメインで、ガストン地底王国へ行く途中の分かれ道を通り、霧の国シャドーマに向かう街道をひたすら進む。

 そして、霧の国シャドーマに入る直前の、ガストン地底王国にある国境の町にて。

 この日は町の宿に泊まり、最終確認をすることにした。

 宿の海斗の部屋に全員が集まり、海斗は言う。


「明日は徒歩で国境を超える。クルル、パンクリザードだけど……」

「大丈夫です。パンクリザードは頭がいい子なので、ちゃんと言い聞かせれば一人でデラルテ王国まで帰ることもできますよ。その場合は……この、デラルテ王国の印章が入った首飾りを首に下げないといけませんけど」


 クルルは、デラルテ王国の印が刻まれたぶ厚い首飾りをカバンから出して見せた。


「いや、帰りもこの町を経由する予定だ。この宿に金を支払って、世話してもらうのはどうだ?」

「あ、それいいですね。じゃあわたし、交渉します!!」


 クルルは嬉しそうだ。そして、ナヴィアが挙手。


「はいは~い。徒歩ってマジ……?」

「ああ。国境を越えたら『霧の国シャドーマ』だ。そこはもう、『悪童』ザンニの使役する『蛇』が多く徘徊している……触れたり、見られたりすればそこで終わりだ」

「はあ? じゃあどうやって入んのよ」


 徒歩が嫌なのか、ナヴィアの表情は険しい。

 海斗は平然と言った。


「海から入る」

「……え」

「マルセドニー、お前の風魔法で身体を包んで、海に入る。そして、海底洞窟を抜けて霧の国シャドーマに入るぞ」


 予想だにしていない入り方に、全員がポカンとしていた。

 そして、マルセドニーが挙手。


「あ~……何を言えばいいんだ。その、海?」

「ああ。霧の国シャドーマは海に面しているからな」

「……ボクの魔法って、そこまで便利じゃないぞ」

「一人ずつ空気の膜で覆うんじゃない。でっかい一つの『風船』みたいに空気の球を作って、その中にみんなを入れて進むんだ。風魔法を推進力として使えば、水中も移動できる」

「……でき、る、かも……しれん」


 マルセドニーは、脳内でシミュレーションをしながら言った。

 そして、クルルとハインツが挙手。


「あ、あの~……わたし、泳げません」

「オレも。海とか見たことしかねぇよ」

「問題ない。それよりも問題なのは、海底洞窟だ」


 海底洞窟。海斗は、記憶を刺激したことで思い出す。

 リクトが霧の国シャドーマで水遊びをしたこと、ハーレムメンバーたちの水着立ち絵や、巨大なイカが襲ってきてハプニング続出や、海底洞窟を発見したことなどだ。

 だが、海斗がいる限り、水着イベントなど存在しない。


「まず、海底に向かう途中に、『ジオスゲイノ』って魔獣が出ると思う。水中だからろくに戦えないから、マルセドニーには頑張って逃げてもらうしかない」

「ぼ、ボクの負担が大きすぎるぞ……」

「それと、海底洞窟。ここはダンジョンでお宝がある。まあ、未発見のダンジョンで、普通に財宝だらけだ。そこはザンニも把握していないから、俺らの活動資金として頂戴しておくか」

「「!!」」


 ハインツ、ナヴィアの目が輝いた。

 そして、海斗は続けて言う。


「冒険者のお前らなら知ってると思うけど、ダンジョンである以上、海底洞窟には魔獣が出るぞ。それと……ダンジョンボスもな」

「ケケケ、そんなのオレら全員でヤれば問題ねぇだろ。イザナミとかクルルは強いしな」

「……邪魔をするなら、斬るだけだ」

「わたしも、叩き潰します!!」

「……そう、上手くいかないと思うぞ。海底洞窟のダンジョンボスは、イザナミ、クルルと相性最悪だからな」

「……そう、なのか?」

「ええ? あ、相性?」


 イザナミは首を傾げ、クルルは驚いていた。

 マルセドニーは言う。


「まあ、この天才であるボクがいれば問題ない。物理がダメなら、魔法で叩けばいい。まあ……まだ初級魔法しか使えないが、詠唱破棄に魔力削減とスキルは覚えているから問題ない」

「そうだな。序盤はマルセドニーが活躍するだろうな」

「ククク。カイト、報酬は弾んでくれ」


 マルセドニーが嬉しそうに眼鏡を煌めかせた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、一行は徒歩で国境を越え、すぐに海沿いへ向かった。

 歩きつつ、海斗は言う。


「もうここは『霧の国シャドーマ』だ。街道沿いには進まず、すぐ脇道に入る……すると」


 脇道を進み、獣道もない森の中を進んでいくと、潮の香りがした。

 そして、森を抜けると……そこは砂浜。


「……なんかショボい」


 海を見てナヴィアが言う。

 確かに、目の前には砂浜があった。だが……岩がそこら中に転がっており、流木も大量に流れ着いている。しかも、砂浜が小さく、とてもリゾートには使えそうにない砂浜だ。

 遠くには岩場があり、海に近づくと魚が泳いでいるのが見えた。

 ハインツたちは特に感動しなかったが……クルルは違った。


「わあ……これが、海」


 ずっと地底にいたクルルには、殺風景で綺麗とはいえない砂浜、海でも感動するのだろう。

 しばし呆然と海を見つめ、波打ち際に立ち海水を手で掬う。そして、飲み干した。


「うっひゃあ!? し、塩っ!!」

「当り前じゃん……あんた、何してんの?」

「えへへ、海……初めて見たので。すっごいですね……うみ」


 ぼんやりと、クルルは海を見つめていた。

 このまま放っておけば永遠に眺めていそうだ。海斗は言う。


「マルセドニー。さっそく頼めるか?」

「ああ、わかった。全員、一塊になってくれ」


 マルセドニーが中心となり、なるべく接近。

 そして、マルセドニーは人差し指をぴんと立てると、周囲の風が集まり、砂が舞い、そのまま球体となって海斗たちを包んだ。


「風だけではイメージしづらいのでな。砂で球体を作った……よし、行けそうだ」


 砂の球が動き出し、海水に触れる……すると、水を吸った砂がそのまま球体の状態で海に入る。

 窓ではないが、砂に覆われていないところから外……海の中の光景が見えた。


「わああ~……きれい」


 クルルは感動していた。

 砂に手を触れ、窓代わりの穴に顔をくっつけて海中を眺めている。

 イザナミ、ナヴィアも同じだった。


「海は見たことあるけど……こんな海の中は初めてかも」

「……美しいな」


 海底は、不思議な輝きだった。

 サンゴやワカメのような海藻が揺らめき、海斗も見たことがない魚や、異世界特有の魔獣みたいな魚が優雅に泳いでいる。

 意外にも明るく見えた。原因は、岩がキラキラと発光しているせいだろう。

 

「お、おいカイト……なんかオレ、落ち着かねえわ」

「まあ、海底だしな。マルセドニー、このまま真っすぐ、陸沿いに進むと洞窟があったはずだ」

「……」

「おい、マルセドニー?」

「……集中しているんだ。球体の維持、そして風のコントロールで移動するのは、けっこう神経を使う」

「邪魔しない方がいいか。とりあえず、集中……」

「お、おいカイト!!」


 と、言ったそばからハインツが叫ぶ。

 そして、震える手で指を差していた。


「あ、あれ……なんだ?」

「……出やがったか」

「か、かか、カイト……なんか、あれ、こっち見てない?」


 ナヴィアが、眉をヒクヒクさせながら言う。

 

「わああ~、大きいですねえ」

「……魔獣、なのか?」


 クルル、イザナミはよくわかっていないのか、マイペースな感じだった。

 そう、海斗たちの『砂玉』に向かって、何かが泳いできた。

 それは、巨大な『魚』に見え、いくつも触手を持つ『イカ』にも見え、身体中に突起があることから『サンゴ』のようにも見えた。

 全長二十メートル、巨大なサンゴに触手の生えたような怪物、『ジオスゲイノ』が向かって来た。


「あれが、『ジオスゲイノ』だ。マルセドニー、逃げられるか?」

「黙ってくれ。集中……集中……!!」


 マルセドニーは震えていた。大汗を流し、視界に入れてしまったのか『ジオスゲイノ』を見て恐怖を抱いてしまったようだ。

 さすがに仕方ないと、カイトはアイテムボックスから『サメの骨』を出す。


「仕方ない。ここは俺が相手する。さあ……やるか!!」

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