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7、三人のクズ①/女好きの『聖騎士』

 リクト追放から数日が経過。

 海斗は、マークスの背中に手で触れていた。

 そして、先日目覚めた新しいスキルを発動させる。


「『骨鋼(スティール・ボーン)』」

「──……これは」


 外見の変化はない。だがマークスは自分の拳をパシッと掌に叩き付ける。

 

「……骨を硬くするジョブ、ですか?」

「そうです。今、マークスさんの骨は鋼と同じくらい硬いです。でも、重さはそのまま……俺の魔力で骨を強化するスキルです」

「なるほど。骨折することはなさそうですね。でも……」

「ええ、骨が硬くなるだけで、皮膚は特に強化されないので……剣で斬られたら血が出ます。でも、斬られても骨で止まる、かも」

「ははは、それはありがたいですね」


 使いどころが微妙なスキルだった。

 だが、海斗の知らないジョブだ。


(そもそも邪骨士はラスボスのジョブ。骨の軍勢とか使っていたけど、こういう骨の強化とかは原作でも使っていなかった……本来はあるスキルだけど、物語で描写されていない? となると……邪骨士のスキル、俺が知らないのもたくさんある可能性があるな)


 スキルを解除。海斗はマークスに質問する。


「あの、マークスさん。一つのジョブに対して、スキルはいくつ覚醒するんですか?」

「……その質問には答えられない。というか、不明ですね」

「ふ、不明?」

「ええ。かつて『英雄』というジョブを持つ救世主がいましたが、彼は九十九のスキルを持っていた、と言われています。しかし、三つしかスキルを覚醒しない勇者もいましたし……正確な数は不明です」

「……なるほど」


 海斗は、ジョブに対しスキルがいくつ覚醒するのか、原作でも説明がなかった……ような気がする、と思っていた。

 そもそも全十七巻の原作。読み込んだとはいえ、詳細な設定を思い出すのは難しい。

 海斗は知識が風化する前に、日本語で羊皮紙に内容を書き、自室の机に入れていた。


「ですが、焦らなくても大丈夫。カイトくん、この世界に来て二週間……キミは順調に強くなっていますよ」

「あ、ありがとうございます」

「では、近接訓練を。と……本当に、ナイフでよろしいので?」

「ええ。俺、剣よりナイフのが使いやすいので」


 海斗は、剣を使わずにナイフによる格闘訓練を受けていた。

 そもそも邪骨士は骨を使役するサポートよりのジョブ、と思っている。

 海斗自身が戦うことは、そうない。

 それに、『骨鋼』は海斗の骨も強化できる……さらに、海斗には近接格闘を鍛えることに狙いがあった。


「マークスさん。格闘術も厳しくお願いします」

「わかりました。ああ、格闘でしたら……エステルのが得意ですが」

「いえ。腑抜けた騎士より、マークスさんにお願いしたいです」

「……手厳しいですね」


 現在、訓練場の片隅でエステルが見ている。だが、リクトが『エルフ少女を送りに行った』と聞き、腑抜けてしまったのかやる気がない。

 そもそも海斗は、リクトのハーレムメンバーに関わるつもりがなかった。妙なフラグを立てる可能性がゼロではないし、正直なところ、エステルには消えて欲しいとすら思っていた。

 なので、思いついたことを言う。


「あの、マークスさん。リクトのことですけど……」

「エルフの国、ですね。少女を送り届けに行ったとのことですが」

「ええ。思ったんですけど、今からでも案内人とか付けた方がいいんじゃないですか? エステル……あの子なら、今からでもリクトに追いついけるかも」

「……確かにそうですね」

「俺の訓練相手は、タックマン団長とマークスさんがいればいい。エステルには、リクトの案内役の仕事を任せたらどうです?」

「ふむ……」


 翌日、エステルに『リクトを追って補佐しろ』との命令が出た。

 覚醒のフラグはすでにへし折ったので、リクトが勇者として覚醒することはない。だが、覚醒しないなら勇者ではなく一般人レベル……命の危険もある。

 なので、エステルに護衛をさせる。

 さすがに、リクトが野垂れ死にすることは海斗も望んでいない。この程度の気遣いはする海斗だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 二週間後。

 海斗は、クリスティナと二人で、海斗の私室で話をしていた。

 クリスティナはやや不機嫌だった。


「……なんだ、機嫌悪いのか?」

「当然です。あなたが話をするのに毎度毎度、あなたの私室を指定するから。わかってるんですか? 私、あなたにその……」

「俺に?」

「そ、その……ああもう!! というか、話は何ですか? さっさと話してください!!」


 ぷんぷん怒るクリスティナ。

 海斗は、クリスティナと話すうちに、素の自分で話すようになっていた。


「じゃあまず一つ。俺が頼んだものは調達できたか?」

「ええ。発破石……鉱山開発で使う、爆発する石ですね。言われた通りに調達しましたけど……」

「それを、俺が指定する場所に運んでくれ。魔族に気付かれないようにな」

「……どこです?」


 海斗は地図を見せると、クリスティナは「ええ?」と首を傾げた。

 そして、小さな骨の欠片をいくつかテーブルに置く。


「これは……骨?」

「ああ。こいつも一緒に置いてくれ。すでに力は込めてある」

「……何の骨ですか?」

「内緒。とにかく頼むぜ……これで『短気』なスカラマシュを倒せる」

「……本当なんですか? というかあなた、知っているんですか? 魔神が特別に力を与えた十二の執政官。そのジョブの力……これまでの数百年、執政官は一度も落ちたことはないんですよ」

「そいつを倒すために救世主をこっそり召喚してるんだろ。いいから、言われた通りにしろよ」

「……わかりました。それと!! 頼みごとをするのはいいですけど、あまり無茶はしないでください!! 発破石はドワーフの国では貴重なモノで、これだけの量を調達するのにどれくらいかかったのか……ううう、しかもお父様に内緒で!!」

(……内緒にするしかないんだよ)


 国王(海斗は名前を覚えていない)は、魔族と繋がり、国を裏切るから……とは言わない海斗。

 現在、海斗のパトロンはクリスティナだけ。

 

(まず、一つ目の仕込みは終わった。あとは……クズ三人)

「カイト。ところで、今日は冒険者三人との実地訓練では?」

「ああ、今日は休み。俺の支度金を配って自由にさせた」

「え……し、支度金って、あなた!! あれはあなたの装備を整える準備金で」

「またくれよ。必要なことなんだ」

「こ、この……ああもう!! こんなに金遣いの荒い救世主は初めてです!!」

「待て待て。じゃあ情報を一つ。この国の貴族のアスワン公爵っているだろ。そいつ、違法な奴隷売買で儲けてるし、闇オークションとかも開催してかなり稼いでるぞ。摘発して、資産没収しろよ」

「え」


 本来は、リクトが潰すはずの悪役貴族。

 クリスティナは「そそ、そんな情報があるなら早く教えなさい!!」と、慌てて出て行った。

 海斗には『予知』があると思っているので、基本的に海斗の言葉は疑わない少女。


「あれで同い年の十六歳ね……リクトがすぐに旅に出ちまうから、一巻で召喚したあとはサブキャラ以下。次に出てくるのが最終巻っていう脇役王女。ハーレムメンバーじゃなくて安心したよ。安心してパトロンとして利用できる」


 とりあえず、海斗は立ち上がり、窓を開けて城下町を眺めた。


「さて次は……クズ三人を攻略するか」


 ◇◇◇◇◇◇


「あ~っはっはっは!! おい酒、酒もってこい!! 金ならある!!」


 ハインツは、テーブルに並ぶ大量の酒瓶、そして両隣りに女性をはべらせ、べろんべろんに酔っ払っていた。

 女性の胸元には札束が突っ込まれ、女性は嬉しそうにハインツへお酌したり、頬にキスをする。


「ハインツさまぁ、今日は羽振りがいいですねえ」

「そりゃそうだ。いい金づる見つけてなあ……この世界を救う救世主サマだとさ!! バッカじゃねぇの? 魔族の支配するこの世界!! 金さえあれば生きていけるこの世界!! 救いなんてねぇし、あるとしたら酒場で飲む酒、金で買う女だけよ!! ぎゃ~っはっはっは!!」

「うふふ!! 今日もい~っぱい、サービスしちゃう」

「おう!! へへへ、まだ飲み足りねぇ。ベッドはもうちょい待ってくれや~っはっはっは!!」


 立ち上がり、腰をカクカクさせるハインツ。


「…………」


 あまりにも下品な『聖騎士』に、店の入口にいた海斗は開いた口が塞がらない。


(女、酒好きのクズ……リアルで見るとあんな感じなんだな。反吐しか出ねぇや)


 クリスティナに、ハインツの出入りしている酒場を調べてもらい、支度金をわざと渡して盛大に金を使ってもらった。

 見ての通り、クズ丸出し、酔っ払いのゲスと化している。


(ざまあキャラ。一巻でリクトに負けて死ぬとしても仕方ない……というか、こんなヤツ俺も使いたくないけど)


 ハインツはクズ。だが『聖騎士』……このジョブは使える。

 海斗はハインツのテーブルに背後から近づき、ハインツの頭を掴んでテーブルに叩き付けた。


「ぎゃぶっぇ!?」

「「きゃぁぁぁ!!」」


 絶叫する女性たち。

 カウンターにいた店主がギロッとカイトを睨むが、海斗はポケットから札束を出し、店主に投げた。


「店の修理代だ」

「……どうぞごゆっくり」


 マスターの許可が出た。

 海斗は、ハインツの頭から手を離し、怯えている女たちに「あっち行ってろ」と声を掛ける。

 そして、鼻血を出したハインツが青筋を浮かべ顔を上げた。


「なにしやがん……テメエ!! カイト!! 気ぃ狂ったのか、あぁぁん!?」

「そろそろ、俺のやり方でお前をしつけようと思ってな」

「しつけだぁ!? テメエ、オレぁ怒らせたぞ……あぁん? ブチ殺すぞ!!」


 ハインツは剣を抜く。

 海斗は構え、一瞬でハインツの懐に潜り込み、腕と肩を押さえて押し倒す。

 そして、腕に力を籠め……。


「あいだぇぇぇぇぇだだだだっ!?」

「まずは肩」


 ボグッ……と、ハインツの肩を外した。


「ッッッッ!? っがァァァァァァ!?」

「マークスさん仕込みの関節技。うぇえ……ヒトの肩を外すなんて経験、もうしたくないな」

「ぎゃぁぁいっでぇぇぇぇぇ!! ままま待って、まってくれ!! まけ、オレの負けだ!! 許してええええええええええええ!!」

「…………本当にダメだなこいつ」


 ハインツは、早くもギブアップ。

 涙を流し、鼻水が混じった鼻血も流し、バタバタ暴れて失禁した。

 海斗は、ハインツに顔を近づけて言う。


「ハインツ。お前さ、『聖騎士』のジョブを持って生まれたはいいが、ろくなジョブもないし、スキルも一つもないし、できることは剣を握るとちょっとだけ力が増すくらい……で、ジョブ持ちってだけでチヤホヤされる状況をずっと楽しんで今に至る……だよな」

「ふぇぁ……」

「そんな日々はもう終わり。いいか、今日からお前は女禁止、酒禁止だ。これからは俺の、救世主カイトの仲間として役立ってもらう。そうじゃなきゃ、お前は死ぬぞ」

「し、死、シ……」

「ああ、死ぬ。俺はな、少し先の未来が見えるんだよ……救世主だからな」


 海斗は腰に差してあるナイフを抜き、ハインツの顔の横に刺す。


「ざまあキャラ、一巻で死ぬ使い捨て、ジョブだけのザコ。だからこそ(・・・・・)、お前は俺の仲間に相応しい……死にたくなかったら、一緒に戦ってもらう」

「ぅ、ぁ」


 こうして、海斗はハインツを仲間にした。

 ざまあキャラ、一巻で死ぬ使い捨て、ジョブだけのザコ。

 一度はやってみたかった……ざまあキャラで世界を救うという、無謀な冒険を。

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