次の相手
ハインツたちの休暇が終わり、三人は満足したような顔で城に戻って来た。
クリスティナに頼んで会議室を借り、海斗のチーム六名、クリスティナの七人で集まる話をする。
「休暇最高だったぜ~!! やっぱ外で飲む酒は最高!! なあなあカイト、城下町に新しい酒場がオープンしててよ、入ったらそこドワーフいたんだよ。で、ドワーフの酒飲んだらマジで火ぃ噴いてよ。くっそキツい酒だったけどまた飲みたいぜ。今度行こうぜ!!」
「少し黙ってくれないか。いやあ、実は恋愛小説にハマってしまってね。メイヤーズに『読んだことのないジャンルにあえて手を出すのも面白い』なんて言うから、試しに読んだ。くそ……気付けば部屋には恋愛小説が溢れ、休暇が終わってしまった。ギャンブル場に行かない休暇なんてありえなかったのに。おのれ恋愛小説ぅぅぅぅ!!」
「男どもうるさいし。んふふ、マリアと街のスイーツ店巡りしたのよ。執政官が死んで、魔族の自治区もなくなったおかげで、商売繁盛してるところ多いしさ、新しいお店とかもできててさ、もう最高~!! あ、お姫様……じゃなくて、女王代理もこっそり連れて、女三人で遊んだの。楽しかった~!!」
話が長く、互いを押しのけるように海斗に話す三人。
海斗はめんどくさそうに、イザナミは無表情、クルルは「あはは」と苦笑、クリスティナは「ちょ、ナヴィアさん、その話は内緒!!」と慌てていた。
そして、海斗は三人を手で制する。
「あとで話は聞いてやる。それより、今後の方針を話すぞ」
三人は席に座り、海斗は言う。
「次の標的は、異種人の国を支配する十二執政官序列六位『悪童』ザンニだ」
「じょ、序列六位か……思い切ったね」
マルセドニーが眼鏡をクイッと押し上げて言う。
ハインツが椅子にもたれかかりながら言った。
「順番通りじゃねぇのか? 十一位の次は十位だろ?」
「序列十位『盲目』タルタリヤは、リクトが始末した」
「……リクト? 誰だっけ、それ?」
ナヴィアが首を傾げる。ハインツも同じように首を傾げたが、マルセドニーは覚えていた。
「カイトと同じ、もう一人の『救世主』か……エルフの国に行ったのでは?」
「エルフの国に行くには妖精族の国を通る必要があるだろ。そこで討伐したんだろ……だよな、クリスティナ」
「ええ。妖精の国フェアリの王女、リリティアラ様を救うために行動した……と、妖精族の使者は仰ってました。リリティアラ様はそのまま、リクトに同行して旅に出たそうです」
「ハーレム形成は順調ってわけだ。クソ忌々しい」
海斗がポツリと呟く。そして軽く咳払い。
「とにかく、序列十位が死んだ。序列九位は後回し、序列八位と七位はここから遠いし、今は時期が早い……よって、『魔王の骨』がある序列六位の領地、霧の国シャドーマに行く」
「後回し? なんでだ?」
「理由は後だ。で……お前ら、『悪童』ザンニについて知ってることは?」
海斗は、ざまあ三人組に聞く。
「知らね。異種人の国とか興味ねぇし」
「あたしも~」
「……ボクは少し知っている。確か、『狂医』と仲がいい、研究者とか何とか」
マルセドニーが言うと、イザナミが水の入った木のカップを握りつぶした。
ビクッとする三人。イザナミは言う。
「……あいつは、存在してはいけない生物だ」
「それには同意する。『悪童』ザンニ……序列三位『狂医』ドットーレが医者なら、『悪童』ザンニは研究者だ」
研究者。しっくりこないのか、ハインツとナヴィアだけではなく、黙って聞いているクリスティナとクルルも首を傾げる。
「『悪童』ザンニは、異種人の身体を使って様々な実験を繰り返し、そのデータを『狂医』ドットーレに提供している。霧の国シャドーマは国なんかじゃない。『悪童』ザンニの広大な実験施設みたいなもんだ」
「「「…………」」」
三人はドン引きして黙り込んだ。
クリスティナが挙手。
「あの~……それを止めるために、行くんですよね」
「ああ。イザナミの故郷を救う……のは、建前だ。目的はもう一つ、『魔王の骨』の回収。それと」
「それと?」
海斗はイザナミを見た。イザナミは海斗の言葉を待っているのか、ジッと海斗を見る。
海斗は少し迷う。
(イザナミの妹。三種混血の異種人を手に入れる……なんて、言っていいのか)
イザナミはこの時点で知らない。
イザナミと同じ、三種混血の妹がいることを。
最終的には、ザンニの支配に落ちて洗脳、肉体が活性化させられ怪物となり、リクトとイザナミの二人でトドメを刺され死亡する……『オレよろ』の世界では珍しい、バッドエンド的なストーリーだ。
もし、洗脳される前に救いだし、手懐けることができれば、戦力になるかもしれないと海斗は考えているし、理由はもう一つある。
(イザナミの妹。カグツチ……こいつが住んでいる家に、『魔王の骨』があるんだよな」
少し迷っていると、イザナミが言う。
「カイト。私は、あなたに運命を託すと決めた……私に言い淀むことなんてない。どんな言葉だろうと受け入れる」
「……」
海斗はため息を吐き、全員に言う。
「最初の目的地は、霧の国シャドーマにあるイザナミが生まれた町、タカマガハラだ。そこにある研究施設の一つに『魔王の骨』がある」
「でた、魔王の骨。カイトのパワーアップ道具だよなあ?」
ハインツが茶化す。海斗は頷く。
「それもある。そして、『魔王の骨』の近くには女がいる。そいつの保護もするぞ」
「女? けけけ、そりゃいいな。美女か?」
「十三歳だ。よかったなあハインツ」
「……ガキかよ。ケッ」
どこまでも正直な男であった。
イザナミは、海斗をジッと見ていた。
「タカマガハラ。研究施設……カイト、そこは」
「お前が生み出された研究施設だ」
「……そこにいる、十三歳の少女、とは」
「察してんだろ」
イザナミは顔を伏せる。ナヴィアは眉をひそめて言う。
「はっきり言ってよ。で、その女の子がなに? 保護してどーすんの?」
「ザンニに利用される前に確保すれば、敵になることがない」
「ふむ、理に適っているね。カイトの未来予知……本当に便利だ」
マルセドニーが感心。そして、クリスティナが言う。
「……カイト。その女の子って、どういう子なんですか?」
「……」
海斗は、もう一度イザナミを見た。が……イザナミは顔を伏せたままだ。
そして、全員に言う。
「名前はカグツチ。イザナミと同じ、三種混血の異種人だ」
「……え」
「イザナミが人間と竜人の間で作られ、鬼人の腹に移植されて生まれたのと同じ。だがカグツチは獣人と妖精の間で作られ、鬼人の腹で生まれた……そして、その鬼人は、イザナミを産んだ鬼人と同じだ」
全員がイザナミを見た。
海斗は言う。
「そうだ。カグツチは血のつながりこそ薄いが、イザナミの妹だ……そいつがザンニに利用される前に、『魔王の骨』を手に入れ、保護する」
イザナミは立ち上がる。手には刀をしっかり握りしめ。
すると、海斗も立ち上がりイザナミの前に立った。
「まさか、これから行く……なんて言うつもりか?」
「……知らなかったんだ。妹がいた、なんて……私は、あなたの言葉を疑わないと決めた。だから……」
「だったら、俺を信用しろ。まだ準備が足りない……一人で暴走するな」
「……でも」
「フン。安心しろ、お前の妹はまだ無事だ。そもそも、ザンニは原作の終盤で討伐される執政官だ。今は俺たちの存在すら知らねえはずだ。とにかく……俺を信用しろ」
「……わか、った」
こうして、会議は終わった。
次の敵は、執政官序列六位『悪童』ザンニ。
海斗は、ポケットにある猫が描かれたカードに触れて思う。
(イザナミの暴走が懸念される。早く記憶を活性化させて、『悪童』ザンニの対策をしないとな)