海斗、今の強さ
現在、デラルテ王国はクリスティナの統治のもと、平和な日々が続いていた。
執政官討伐、魔族自治区の消滅は国民に大いなる喜びを、税の削減や、流通の拡大など、他の国の執政官が倒されたことで、流通も広がり始めている。
現在、デラルテ王国はガストン地底王国、妖精族の国であるフェアリ妖精王国との取引が始まった。
意外なことに、取引は魔族の妨害や邪魔など入らず、スムーズに進んだ。
他国の執政官はそこまで気にしていないということもあり、統治から解放された国など関係ないのであろう……仲間意識皆無な魔族、執政官という存在は素直にありがたい。
ガストン地底王国から戻り、十日ほど経過……海斗たちはまだ、デラルテ王国にいる。
これまでと変わったのは、海斗の周囲だ。
現在、海斗はマークスと摸擬戦を行っているが、海斗のナイフがマークスの首に添えられ、摸擬戦は終了……マークスは言う。
「強くなりましたね。カイトくん」
「はぁ、はぁ……でも、まだまだです」
近接戦では、マークス相手に勝利を収めることもできるようになった海斗。
マークスは嬉しそうに言う。
「確かに、まだまだですね。ですが、それは私も同じ。共に強くなりましょう」
「はい」
「ふふ……スキル込みでの戦いでは、もうキミに勝つことはできませんね」
マークスは苦笑、海斗も苦笑した。
海斗は、ハインツの『防御』を高めるために、巨大なハンマーでひたすらハインツの盾を殴っているタックマンの元へ。
「あの、タックマン団長」
「む、カイトか、どうした」
「いえ、お願いが」
「うむ、いいだろう。ハインツ、休憩だ」
「へ、へえ……うえっぷ、スキル発動しっぱなし、クソ辛いわ……」
汗だくのハインツは盾を落とし、地面にへばりついた。
スキルは覚えて終わりではない。使えば使うほど成長し、新しいスキルを覚える。
タックマンは、デカいハンマーをずっと振り回していたくせに、全く汗を掻いていない。
「で、お願いとは?」
「現時点で、俺がどのくらい強いか、見てほしいんです」
「……それは無理だ」
「え?」
タックマンは、ハンマーをズシンと地面に置いて言う。
「カイト。お前は本当に強くなった。このワシよりもな」
「……そう、ですか?」
「ああ。一対一で執政官を倒したことが何よりの証。それに、気付いているのだろう? お前の身体は、この世界に召喚された時よりも成長している。そう……あり得んほどな」
「…………」
その通りだった。
魔王の骨を二つ宿し、権能を二つ手に入れて確信した。
視力が良くなり、筋肉が付き、体力も増えた。
「魔王の骨の力か……」
人外にでもなったのか。海斗は自分の手を見た。
タックマンは言う。
「成長はしたが、技術は足りん。正攻法での模擬訓練はここまでにし、次からは邪道を叩きこむとしよう。マークスにはそう伝えておく」
「邪道って……卑怯な手、ですか?」
「そうだ。ククク、マークスは邪道に関してなら、ワシ以上だ。誇るべきではないがな」
「……いいですね。俺向きだ」
「うむ。と……例の娘は?」
イザナミのことだ。
現在、イザナミは『救世主の友人』という立場で城に滞在している。
クルルも同じだ。『救世主の友人』は、ハインツたちも当てはまる。
「イザナミは、瞑想するとか言って、部屋にいます」
「そうか。ふむ……相当な使い手なのだろう。一度、騎士団に稽古でも付けてくれたらと思ったんだが」
「いいですよ。俺が呼んできます」
「む……すまんな」
海斗は、イザナミを呼ぶために訓練場を出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
イザナミの部屋に到着しドアをノックする。
「俺だ。少しいいか」
『……どうぞ』
返事があったのでドアを開けると、そこにいたのは。
「カイト……何か用事か?」
「…………」
イザナミが、裸で立っていた。
全裸。下着すら付けていない……が、海斗が見たのは裸身だけではない。
イザナミの髪は白く、ツノが額から二本生え、両手の指先から肘、両足の指から膝下まで鱗のようなものが生えていた。
海斗は知っている。イザナミが『鬼』と『竜』の力を解放した時に起こる現象。『竜鬼解放』状態だ。
「お前、その姿」
裸で動揺したが、それを悟られないよう言う。
イザナミは、裸身を隠すことなく言う。
「……精神統一するときは、解放状態でするようにしている。私は、まだこの力を完全に制御できないから……少しでも力を引き出せるようにな」
「へえ……」
というか、なぜ全裸……とは言わない。解放云々より服は、という意味もあったのだが、イザナミは服を着ない方が集中できるのだろうと適当に思う。
身体を揺らすと、大きな胸が揺れる。
海斗はそれを視界に入れつつも動揺しないように言った。
「タックマン団長が、騎士団に稽古付けてやってほしいとさ」
「……無理だ。私は手加減ができない。殺してしまうかもしれない」
「だったら尚更だ。俺の仲間になった以上、今まで以上に強くなってもらわないと困る。力を上げることも大事だけど、誰かに教え、指導することで得られる強さもある」
と、何かの漫画か小説で見た……と海斗は言おうとしたがやめた。
イザナミは「なるほど……」と、胸の前で腕組み。大きな胸が持ち上げられ、海斗はついに目を逸らす。
「とにかく、服着て訓練場に来い。ああ、クルルは? あいつも一応は戦闘員だし、訓練した方がいいかも。今日は来てたはずだよな」
「クルル……確か、今日は城内の鍛冶場に行くと言っていた」
「わかった。とにかく、早く行けよ」
「わかった」
海斗はイザナミの部屋から出て、大きくため息を吐いた。
「……クソ。平常心、平常心」
女の裸……海斗は、赤くなった顔を冷やすため、顔を洗いに行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
鍛冶場に行くと、クルルがいた。
「あれ、カイトさん」
クルルは一人だった。
城の鍛冶場は広いのだが、作業をしているのはクルルだけ。
「お前、一人か?」
「はい。今は誰も使っていないので、その時だけ使っていいと」
「なるほど……で、何を作ってんだ?」
クルルは、大きな胸にサラシを巻いただけの姿だ。作業ズボンこそ履いているが、裸を見るよりもなぜか見るのを憚るような、なんともいえない姿だった。
海斗は目を逸らし、鍛冶場を眺めるフリをして言う。
「わたし、ハインツさんたちを見て、なんだかもっと合う装備あるんじゃないかなーって、先日、身体のサイズを測らせてもらって、新しい装備を作ろうと思いまして……あ、カイトさんは何かいりますか? その~、カイトさんはなんだか、装備というより骨があればいいのかなーなんて」
「それはそうだが、なんか釈然としねえ……」
「あ、あはは……とにかく、装備はお任せください!! わたし、ハーフドワーフなので!!」
「ああ」
摸擬戦に参加しろ、とは言いにくかった。
クルルは戦闘より、鍛冶などの装備関係を担当してもらえばいいかもしれない。
「えへへ、報奨金を何に使おうか迷ってましたけど、いい鉱石や鍛冶装備を買っちゃいました。家族に渡そうとしたら『いらない』って言われるし」
「そうか。それと、情報が集まったら霧の国シャドーマに行く。自分の装備も見直しておけよ」
「はい!!」
海斗はクルルと別れ、また歩き出す。
「……馬鹿か俺は。リクトじゃあるまいし」
好感度を稼ぎにきた主人公じゃあるまいし……と、海斗はブンブン首を振る。
ヨルハの様子を見に行こうと考えたが、今日はやめることにした。
部屋に戻り、原作ノートでも見返そうかと思っていたが。
「あれ、カイトじゃ~ん」
「……ナヴィア」
「なになに。サボり? アンタ、真面目そうだけど邪悪だし、やっぱサボりとかフツーにするんだ~」
「……お前を見てるとすげえ安心するわ」
「は、はあ? なにそれ、あたしに気でもあんの~?」
「それはない。じゃあな」
海斗はキッパリ否定し、ポカンとするナヴィアを置いてその場から去るのだった。
「はあああああああああ!? 何アイツ、ムカつくしいいいいい!!」
ナヴィアの怒る声が聞こえた気がしたが、海斗は聞こえないふりをした。