ご褒美
すみません、ここから『混血人』を『異種人』に変更させてもらいます。
差別用語と知りませんでした。書籍版では『異種人』に変わっていますので、よろしくお願いいたします。
「というわけで、お三方には報酬、そして休暇を与えます」
「「「おおおおおお!!」」」
帰還した翌日、ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人は、クリスティナから直々に報酬を与えられた。十日間の休暇、そして現金二百万ギールである。
ハインツたちは報酬の入った袋を受け取り、大興奮。
「うおっしゃあああああ!! 飲んで、遊びまくるぜぇ!!」
「ククク……元金ができた。最近のボクはツキまくってる。十倍に増やしてみせよう」
「新作のアクセ、化粧品に、服買お~!!」
欲望が渦巻いているが、特に文句はない。
指導係のタックマン、メイヤーズ、マリアは微妙な顔をしていた……が。
「おうオヤジ、今夜付き合えよ。マークスの野郎も連れて来ていいぜ!!」
「コホン。メイヤーズ、少し気になる参考書があるのだが……ギャンブル前に少しいいかい」
「ね、マリア。一緒にお買い物行こ~」
三人は、当たり前のように指導員たちの元へ。
クリスティナはクスっと微笑み、様子を見ていた海斗の元へ。
「カイト。イザナミ、クルルのお二人は? 彼女たちにも報酬を支払いたいんですけど」
「クルルは鍛冶屋、イザナミは刀を研いでもらうとかで一緒に行った」
「えー? じゃあカイト、二人の行き先を知ってるなら、報酬を渡しに行ってくれませんか? 私がやるより、カイトのがいいと思いますよ」
「んだよその理屈……まあ、いいけどよ」
こうして、海斗は二人の報酬を預かり、城下町へ行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
向かったのは、クルルの両親が経営している鍛冶屋だ。
今日は槌の音は聞こえない。ドアが開いていたので中を覗くと、イザナミとクルルがいた。
「脂がすごいですね……お手入れ、ちゃんとしてましたか?」
「……水洗いはしてる」
「そ、それじゃダメですよ。それに……刃も少し傷んでますね」
クルルは、刀を研ぎ始める。
海斗は解放されているドアをノック。すると、イザナミが気付く。
「カイトか。どうした?」
「お前らに用があってな。クルル、作業前に少しいいか?」
「…………」
「クルル?」
クルルは聞こえていない。すでに仕事を始めている。
イザナミの刀を研ぎ、磨き、刀身をチェック……いつものホワホワした感じがない、職人としてのクルルがそこにいた。
海斗、イザナミはつい、その様子をジッと見つめてしまう。気付けば結構な時間が経過していた。
「……よし。イザナミさん、こんなものでどうで……って、カイトさん?」
「よう。すごいなお前……鍛冶師って感じだ」
「えへへ……」
クルルは、イザナミに刀を渡す。
「カイトさん。今日はどうしたんですか?」
「お前ら二人に、執政官討伐の報酬を渡しに来た」
海斗は、アイテムボックスから二百万ギール入った袋を渡す。イザナミは受け取るなり、そのままクルルに渡した。
「研ぎ代金だ」
「いやいやいやいや、こんなにいいですよ!!」
「しかし、技術に対する報酬は支払われるべきだろう」
「そ、そうですけど」
意外にも正論だ。
結局、クルルは一万ギールだけ受け取った。
海斗は、お世辞にも綺麗とはいえない、狭苦しい鍛冶場を見て言う。
「お前の両親と妹は?」
「えっと。不動産ギルドに、新しい仕事場を探しに行っています。カイトさんのくれた報酬のおかげで、わたしを含めての四人で過ごす、新しい家を買えるようになったので」
「なるほどな。じゃあ、この鍛冶場は店じまいか」
「はい。お父さん、けっこう有名な鍛冶屋みたいで……今度は、武器や防具にも力を入れるって。それに、わたしもお手伝いできる広さのがいいですし」
クルルは、幸せそうだ。
すると、イザナミが言う。
「カイト……『悪童』ザンニの元へは、いつ?」
「まだだ。少し準備が必要でな……そうだイザナミ、お前の知る『霧の国シャドーマ』について、何でもいいから情報をくれ」
「わかった。ここで話すか?」
と、クルルのお腹がここで盛大に鳴った。
思わずクルルを見る海斗、イザナミ。クルルは顔を真っ赤にする。
「え、えっと、すみません……」
話は後になった。
クルルの両親、妹が戻り、海斗とイザナミはそのまま挨拶。クルルを連れて三人で、夕食を食べながら話をすることになり、近くの食堂へ入り、個室を頼んだ。
適当に注文。イザナミ、クルルは海斗の五倍ほどの料理を頼み、海斗をドン引きさせる。
(そういや、異種人って例外なく大食いなんだっけか……)
二人はもりもり食べ始める。
海斗も、ステーキを切り分けて食べる。ミノタウロス肉のステーキは、この世界に来て海斗が一番好きな食べ物であった。
そして、食事を終えてお茶を飲み、ようやく話となる。
「霧の国シャドーマってのは、異種人の領地だよな」
「そうだ。霧が晴れることのない大地……領地は広くないし、住んでいる異種人たちも多くない」
「そこは王政なのか?」
「いや、違う……街や集落しかない。領地で唯一霧がない場所が、魔族の自治区だけ。そこに『悪童』ザンニと、研究者たちがいる」
「研究者?」
クルルが首を傾げる。海斗はようやく思い出した。
「ああ、異種人の研究施設があるんだったな……」
「そうだ。魔族自治区に住む魔族は皆、異種人の研究者だ。なぜ、他種族同士で交わると強力な人種が生まれるのかを研究している。『鷲鼻』の魔族の心臓を他種族に移し替える研究も、『悪童』が行っていたものだ」
「あー……そういやそうだったな」
海斗は、なぜ『悪童』ザンニに関する記憶がおぼろげなのか、ようやく理解した。
(胸糞悪いんだ)
そう、内容があまりにも『重い』のだ。
原作も、『悪童』編は賛否両論だった。
誰にでもある。ラノベで嫌なシーン、一度見たら見返したくないシーン、受け入れられないシーン……そういうシーンは、一度読んで、二度目に読むときは飛ばして読むことがある。
海斗は、『悪童』編が胸糞悪いから、一度読んだだけしかない。
「『悪童』ザンニ……確か、『蛇』を使役していたな」
「ああ。領内の至るところに『蛇』がいる。最初は、ただ多いとしか思っていなかったが、カイトの話を聞いてわかった。あれがザンニの契約している『災害魔獣』なのだろう」
「『蛇王アンフィスバエナ』……だんだん、思い出してきた」
だが、断片的な名前だけ。
そして、肝心なことも思い出す。
「…………イザナミ。霧の国シャドーマで、お前と同じ生まれの異種人がいなかったか?」
「……いや、知らないが」
「…………そうか」
海斗は、思い出した。
そして、なぜ『悪童』ザンニのストーリーがおぼろげなのか、その真の理由を思いだした。
(そういや、一人いたな……リクトのハーレムメンバーに加わるのかと思ったけど、そのまま死んじまった女が)
イザナミと同じ生まれをし、ザンニに利用され、ボロクズのように捨てられた憐れな異種人の少女。その壮絶な過去から、『オレよろ』の世界観に相応しくないと批判が殺到したこともあった。
(リクトが救えなかった異種人の少女。ザンニに利用される運命の異種人……くくく、こいつは使えるかもしれないな)
海斗はニヤリと笑う。クルル、イザナミが顔を見合わせる。
「……短い付き合いだが、この顔をしたカイトは」
「はい、なんだかすごいことしそうですね!!」
好き勝手言われているが、海斗は気にせず思考を続けるのだった。