あとしまつ
スカピーノの討伐、そして最高司令官デルダの『降伏』宣言により、魔族はあっという間に武装解除……そのまま逃げだす魔族もいるかと思いきや、意外なことに国に残る魔族が多かった。
そして、ドワーフ族の代表……ずっと上層の『ドワーフ地区』に隠れていた国王が出て、海斗たち執政官を討伐した人間と謁見することに。
海斗たちは、上層にあるドワーフ地区の王城で、ドワーフ国王バンダムと謁見していた。
「執政官の討伐、感謝するぞ。これでドワーフ族は自分たちの道を歩んでいける」
「…………」
海斗は「白々しい」と思いつつ無言だった。
そもそもこのドワーフ国王バンダム。魔族の言いなりで、仲間のドワーフですら魔族に売り渡し、さらに外交で必要なドワーフたちなどは自信の身内や支持者のみで構成させていた。
海斗たちが炭鉱研修で会ったドワーフたちも、バンダムの支持者である。
それ以外のドワーフは、みんな過酷な現場で働かされている。
「現在、魔族たちは非常に大人しい。最上層行きの昇降機は封鎖し、魔族たちはみな最上層の自治区にいる。こちらは火山抑制装置がある……くくく、我々に従わなければ、火山が噴火し、自治区は消滅というわけだ」
海斗も似たようなことを言っていたが、ドワーフ王が言う方がゲスに聞こえると、海斗以外の仲間は皆思っていた。不思議なこと、誰もがこのドワーフ王にイライラしていた。
そして、海斗は言う。
「ここから先は、ドワーフ族の問題なんで、俺たちはもう口出ししない。でも……寛大な処置をお願いします」
「ふん、我々はずっと魔族に虐げられてきたのだ。これからはワシらが、魔族を管理してやる」
「……わかりました」
「近々、デラルテ王国に使者を送ろう。と……一ついいか? なぜ人間であるお前が、ワシらドワーフに何の相談もなく、国に乗り込んで執政官討伐を?」
「決まってるじゃないですか。ドワーフ王……あなた、人間である俺が『執政官を倒すので協力を』なんて言って、信じると思いますか?」
「……む」
「なので、勝手に討伐させてもらいました。というわけで、あとの外交は俺らの関知すべきところじゃない。帰らせてもらいます」
「……あ、ああ」
「それと、魔族を管理するのはいいですけど、やりすぎると今回みたいなことが起きるかもしれないってこと、覚えておいた方がいいですよ。魔族は、苦痛に耐えてきたドワーフたちの怒りが恐ろしいことを本当に知った。もし、自分たちが同じような目にあえば苦しみを理解できるし、反省する機会にもなる。でも……やりすぎれば、どうなるかわかりますよね」
「…………」
「平和ボケした魔族が怒りに支配され、ドワーフを滅ぼすべく動き出したら……まあ、地底王国は沈むでしょうね」
「…………」
「今は、スカピーノの言葉に動かされた魔族たちだけだ。もしかしたら、反省し、やり直すことを望む魔族もいるかもしれない。手を取り合うか、滅ぼし合うか……あとはまあ、ご自由に」
そう言い、海斗は立ち上がる。
クルルを見ると、叔父であるドワーフ国王をジッと見ていたが、国王の視線がクルルに向くことはなかった……もう、クルルのことなど、覚えていないのかもしれない。
「では、これで失礼します」
「お、おいカイト……その、お礼的なの、なんかないのかよ」
「んなもんあるか。帰るぞ」
こうして、ドワーフの国での用事を全て終え、海斗たちは早々に帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇
ドワーフ王の心遣いなのか不明だが、用意されていた馬車は二階建ての寝台馬車だった。
しかも、御者付き。ナヴィアが大喜びし二階の寝室へ。
「男ども、あんたら二階は立ち入り禁止。ベッド三つあるし、女の聖域だから」
「「どうでもいい」」
ハインツ、マルセドニーは興味ゼロ。適当に言う。
馬車に乗るのは、海斗たち四人、イザナミ、クルルの六人だ。
馬車が走り出し、デラルテ王国へ向かって進む。
しばし進み、景色が草原に変わるころ、マルセドニーが言った。
「執政官、三人目の討伐か……なんだか、信じられない」
「だよなあ。けけけ、なあオレらってよ、歴史に名ぁ残るんじゃねぇか?」
「それある~。ってかさ、執政官討伐って、すっごいボーナスもらえるんじゃない?」
「うおおそれあるかもな!! なあなあカイト、オレら頑張ったし、臨時ボーナスとかくれよ」
「まあ、それくらいならクリスティナに言ってやる。三人とも、よくやったな」
「「「…………」」」
ハインツ、マルセドニー、ナヴィアの三人はポカンとし、どこか照れたようにする。
この三人、真正面からの礼に意外と弱いのだ。
「……あの、カイトさん。わたしのことなんですけど」
「ん、ああ」
ちなみにクルルは、討伐協力の礼として地底王国から解放された。
あっさりと解放され、今はデラルテ王国へ向かっている。
「わたし、カイトさんたちのおかげで、こうして前に進むことができました。皆さん、本当に感謝しています……ありがとうございます」
「気にすんな。こっちも、お前のおかげでかなり楽に進めた。感謝するよ」
「いえ。その~……もし、もしよろしければなんですけど……カイトさんたち、これからも戦い続けるんですよね? それで、その……わ、わたしも協力させてください!!」
「駄目だ」
ノータイムでの拒否だった。
クルルは硬直。ハインツたちも驚く。
「お前に言ってないことがあったんだ」
「え……?」
「お前の両親は、デラルテ王国にいる。そして、二人に間には子供……お前の妹がいる」
「……わ、わたしの、いもうと?」
「ああ。まだ小さいけどな。お前の戦いは、ここで終わりだ。今度は、両親や妹を守ってやれ。もう、危険なことに関わる必要はない」
「…………カイトさん」
「クルル。お前はずっと苦労してきた。これからは、自分の幸せを大事にして生きていけ」
海斗は微笑む。
立派な言葉だが、本当はリクトのハーレムメンバーにこれ以上関りたくないだけ、というのもある。もちろん、クルルに幸せ担ってほしいという理由もあるが。
クルルは俯き、ポロポロ涙を流す。ナヴィアがそっと抱きしめていた。
そして、イザナミ。
「カイト……」
「……お前は、これからどうするんだ?」
「もう、決めている。そして、カイト……私を、あなたの仲間にしてほしい」
言うと思った……と、海斗は顔に出さないようにするのに必死だった。
「カイト。執政官を全員討伐するのだろう? 私は……序列六位『悪童』ザンニの討伐に出向く。カイト……あなたがいれば、ザンニもきっと討伐できる」
「つまり、混血人の領地に行くってことか」
「ああ……あなたに、同行してほしい」
「……混血人の領地。霧の国シャドーマか」
霧の国シャドーマ。一年中、霧のかかった大地。
執政官討伐は問題ない。それに、シャドーマには『魔王の骨』もある。
だが、海斗は考える。
「十二執政官序列六位、『悪童』ザンニ……」
序列こそ、プルチネッラの下だが……ザンニは得体が知れないのだ。
原作では、やはりリクトに討伐された。だが、ザンニが討伐されたのは原作終盤で、ハーレムが完成したばかりのころだ。
イザナミを仲間にし、ハーレムが十七名揃い、ザンニに挑む……リクトも、終盤でかなり強化された状態での戦闘だったが。
「ザンニの能力……くそ」
海斗が、最も恐れていることが一つ。
敵を恐れているのではない。むしろ、自分に怒っている。
「……思い出せねえんだよな。『悪童』ザンニ……どういう執政官だったっけ」
書籍全十七巻。さすがの海斗も、全てを正確に把握しているわけではない。名前、容姿などは思い出せても、何巻で戦ったのか、戦ったメンバーは誰なのか、どういう能力なのかを、正確に思い出せてはいなかった。