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十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ⑧

 海斗は、不思議な気分だった。


(日本で平和に暮らしていた俺が、原作知識があるからって、ハリウッドメイクさながらのバケモノを前に、全く恐怖していない)


 魔性化態スカピーノ。間違いなく海斗を殺すつもりのバケモノだ。

 一度、海斗は死の危機を経験している。プルチネッラと戦った時の経験が、こうして海斗に勇気を、力を、そして余裕さを与えてくれた。

 それだけじゃない。今はもう別の作戦で動いている『仲間』たちの存在も大きい。

 スカピーノの周囲には、相変わらず無数のコウモリがいた。


「『骨命(リ・ボーン)幻骨(ファンタズマ)』」


 ドンと地面を左足で踏みしめると、先端が杭のようになった足の骨が無数に生み出され、海斗の周囲に浮かぶ。そして、海斗が右手を向けると、骨が一斉に飛んだ。


「【杭】!!」

「『無限痺れ蝙蝠インフィナイト・バッドボーイズ』!!」


 無数の骨が、無数のコウモリによって阻まれる。

 海斗はナイフを手に接近し、ギターをかき鳴らすスカピーノもカイトへ接近。

 海斗は、ナイフを巧みに操りスカピーノの心臓を狙いけん制、スカピーノは海斗の攻撃を避けつつ、ギターに紫電を集める。

 海斗はナイフを離した。


「『雷電破(エレキビート)』!!」

 

 避雷針となったナイフが黒焦げになり落ちた。

 海斗はアイテムボックスから大量の骨を出し投擲。


「『骨命(リ・ボーン)』!!」


 犬、猫、蛇、タヌキ、キツネと、小動物が一斉に襲い掛かる。

 そして、海斗は拳を握る。


「『骨鋼(スティール・ボーン)』、『骨傀儡(パペット・ボーン)』」


 自身の骨を鋼並みに強化、そして自らの骨を能力で操り、限界以上の動きをする。

 

「合わせ技、『鋼骨稼働(テレプシコーラ)』!!」


 海斗は、限界を超えて動く。

 骨を無理やり動かしているだけなので、筋肉が動きについてこれない。

 ブチブチと、身体の筋肉が悲鳴を上げているが無視。


「ッ!?」


 海斗が放った骨を全て破壊したスカピーノは、別人のような動きで向かって来る海斗に驚きつつも、ニヤリと笑いギターをかき鳴らす。


「『ライトニング・ステージ』!!」


 スカピーノの雷が、壊れたステージの照明を発光させ、さらに紫電が会場全体に放電、花火のように空中に弾けとんだ。

 その光景は、海斗ですら美しいと感じた。

 終わりが近い……海斗は、全身の痛みを無視。全身全霊でスカピーノへ挑む。

 手にはナイフ。スカピーノはギターを限界までかき鳴らし、紫電を超え、黄金に輝き始めた雷を全身に纏わせる。

 そして、海斗とスカピーノの一撃が交わり合う。


「『魂の雷音撃サンダーボルト・ライディーン』!!」


 黄金の雷が放たれた。

 直撃コース。だが、海斗は躱さない。真正面から挑む。

 人間が喰らえば死ぬ。だが、海斗は逃げなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


『───………』


 ◇◇◇◇◇◇


 海斗の脳裏に何かが浮かんだ。

 そして地面を踏みしめると、海斗を守るように両腕が、頭蓋骨が、胸骨が現れた。

 黄金の雷が、海斗の生み出した骨に直撃……相殺される。

 無傷の海斗が、出し尽くし、両手を広げているスカピーノの心臓にナイフを突き立てた。


「……最高、だったぜ、ベイベー」

「…………お前もな」


 スカピーノが崩れ落ち、海斗はスカピーノを見下ろす。

 海斗の全身から血が滴っていた。無茶な稼働のせいで内出血し、さらに皮膚も爆ぜて血が出ている。だが……海斗は、スカピーノの最後を見るために立っていた。


「……なあ、頼みがあるんだ」


 蝙蝠王カマソッソとの融合が解除され、スカピーノの身体が塵となっていく。

 海斗は、スカピーノの傍で座り、その言葉を聞いた。


「観客たち、なにも知らねえ、オレのファンなんだ。虫のいい話だけどよ……どうか、寛大な処置を頼むわ」

「ああ、わかってる。俺の仲間が動いてるから安心しろ」

「そうかい……それにしても、人間が、魔神様の骨を使うなんてなあ。ってか、スカラマシュとプルチネッラを倒したって、マジか?」

「マジだ。悪いな……魔族がこの世界を支配することはない」

「へ……じゃあ、オレから贈り物だ。まず『道化』……こいつはマジでヤベエ。そして『恋人』と『狂医』……オレなんかとは次元が違う。倒すなら、しっかり準備しな」

「ああ、わかってる」

「それと、『悪童』ザンニ……こいつもけっこうヤベエ。聞いた話じゃ、すでに『魔王の骨』を手にしたって話だ。まあ、嘘くせえし、どうでもいいと思ってたけどな」

「…………」

「ははは……はあ、さあて、最後、シメ、ねえと、なあ」


 スカピーノは立ち上がった。

 そして、半壊したステージに移動……海斗は、肩を貸す。


「……おいおい、優しいねえ」

「うるせ」

 

 スカピーノはニヤリと笑い、残された全ての力を使ってギターを鳴らす。

 会場内にいた魔族たち。泣き、崩れ落ち、困惑し、戸惑い、逃げる者が大半だったが、スカピーノのギターを聞いてステージを見た。


『ファンのみんな!! 今日限りで、オレら『メンバーズ』は解散だ!! 見ての通り、オレは人間に負けたぁ!! この国は、ドワーフ族に返すぜ!! ファンのみんなも好きにしな!! 国に残るのもいい、他国へ行くのもいい!! でもこの国はドワーフ族のモンだ!! これからは、自分の力で生きなくちゃいけねえ!! メーワク、かけんなよ?』


 海斗は、軽薄で音楽のことしか考えていないと思っていたスカピーノを、少しだけ見直した。

 プルチネッラ、スカラマシュとは違う。そう思い、最後までやらせることにする。


『さあ、オレの、最後の、曲……聞いてくれェェェェ!!』


 スカピーノは歌い出す。

 エレキギターが紫電を放ち、コウモリが音を増幅し会場内に伝える。

 海斗はロックを知らない。だが、命を燃やし歌うスカピーノを見て、胸が熱くなった。

 そして、歌が終わり……スカピーノは拳を付きあげる。


「───……最高だった!!」


 海斗は、思わず叫んだ。

 そして、スカピーノはニヤリと笑い。


『センキュゥ……』


 感謝の言葉と共に、塵となって消滅した。

 こうして、ガストン地底王国を支配していた魔族、十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノは討伐され……ドワーフの国に平和が戻るのだった。

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