十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ⑦
眷属の敗北、暴動、そしてメチャクチャになったステージ。
スカピーノは大きく息を吸い、静かに吐き出す。
海斗は、ニヤニヤしながら手で骨を弄んでいた。
「なあ、どんな気持ちだ? 今日のステージが終わり、明日も、明後日も、その次も……永遠にお前のステージが続くと思ってたんだろ? でも、もう終わりだ。ククク……お前に、明日はない」
「……く、ははは。ははははは!! いやぁ~……最高だな、オマエ」
スカピーノは、エレキギターの『雷の弦』をかき鳴らし、派手な音を出す。
海斗は言う。
「いい音出してるな。まあ、俺音楽聞かねぇからわかんねぇけど」
「……今の気持ちを、オレ様の『音』で表現するぜ」
すると、大量のコウモリがスカピーノの背後から飛び出し、紫電を纏い上空を旋回する。
数は数百、数千。とんでもない数のコウモリが不規則に、そして紫電を纏いながら動いていた。
「『痺れ蝙蝠』!!」
そして、コウモリたちが海斗目掛け、一気に落下してきた。
コウモリの雨……紫電の輝きを帯びた漆黒のコウモリが、海斗を埋め尽くすように落下。そして、海斗の身体を覆い尽くすと、スカピーノはギターをかき鳴らし、音と雷を増幅させ一気に放つ。
「『雷電破』!!」
レールガンのような強烈な一撃が、コウモリで覆われた海斗に直撃した。
とんでもない雷の威力に、遠くで見ていたハインツたちが叫ぶ。
「か、カイトぉ!! あのバカ、死んだぞ!?」
「おお、落ち着け。あのカイトがそう簡単に」
「そそ、そうだよ!! 死んだとか言うなし!!」
わたわたする三人。するとクルル、イザナミが近づいてきた。
「だ、大丈夫ですよ、カイトさんなら」
「……助太刀しに行く」
と、イザナミが刀を握り、スカピーノを睨みつけた時だった。
「バーカ。俺がそう簡単に死ぬか。それより、お前たちは『作戦通り』に動け」
「あぁん!?」
海斗は無事だった。
海斗は、半透明の『骨』に囲まれていた。
その数は尋常ではないし、なんの動物の骨なのかもわからない。
細長い骨がいくつも組み合わせ、まるでシェルターのように形成され、海斗を守ったのである。
スカピーノは目を細める……そして、舌打ちする。
「くっそ……見惚れちまうぜ。それが、魔神様の骨……!!」
「正解。そして、これが俺の新しい力」
魔王の右腕で得た第一の権能は『魔改造』……骨をレベルアップさせる力。
そして、魔王の左足で得た新たな力は。
「第二の権能、『幻骨』……俺は地面を踏みしめることで、俺が想像する骨を具現化することができる。頑丈な骨、長い骨、電気を通さない骨……思うだけで、何でもだ。まあ……弱点もある」
そう言うと、海斗の周りにあった骨が砕け散った。
時間制限。『幻骨』で生み出した骨は、二十秒程度しか具現化できない。さらに、発動させるには左足で地面を踏みしめるという行為も必要だった。
だが、海斗は笑う。
「くくっ、いい力だ。それに、魔王の左足を宿したことで、新しいスキルも得た。さあスカピーノ、俺の新しい力の実験台になってもらうぜ」
「ガキぃ!! カモン、『痺れ蝙蝠』!!」
再び、コウモリが大量に放たれる。
海斗は走り出し、魔王の右腕を具現化。
「『魔王の薙ぎ』!!」
右腕が、コウモリたちを薙ぎ払う。
そして、左足を踏みしめた。
現れるのは、膝下までの左足……その、骨。
スカピーノの頭上に、突如として巨大な『左足の骨』が現れた。
「『魔王の踏み潰し』!!」
「おおおおお!?」
スカピーノは横っ飛びで回避。そして、海斗を睨みつけギターをかき鳴らし、海斗に向けてコウモリたちを大量に放つ。
「『アンコール・オブ・サンダーボルト』!!」
「『骨命・魔改造』!! 【狂骨鮫トリトン】!!」
放たれたのは、海斗が最下層で手に入れた巨大なサメの骨。
しかも『魔改造』による強化で、骨がより攻撃的に鋭利な形となり、凶悪に巨大化し、骨に突起が付属され触れただけで危険な生物となる。
トリトンが、飛んで来るコウモリたちを自動で追い始める。地面を強引に這い進み、ステージをメチャクチャにしながら。
「この野郎、オレ様のステージをこれ以上壊すんじゃねええええええ!!」
「ははは!! 悪いな、お前のバンドは今日で解散だ!!」
海斗はスカピーノに接近、地面を踏みしめる。
「『骨命・幻骨』!! 【スカルスクラム】!!」
すると、スカピーノの目の前に、肩を組んで並ぶ大量の人骨が現れる。
半透明……『幻骨』で生み出した骨は、例外なく半透明だ。
スカピーノはギターを鳴らす。
「ヤロォ!! 『音撃破』!!」
音の衝撃で、人骨が砕け散る。
だが、海斗はすでにスカピーノの死角へ移動。手にはナイフを握り、スカピーノの心臓めがけて振り下ろした……が。
「ハッ!! 『雷音撃』!!」
「ぐぁっ!?」
スカピーノ自身が紫電を帯び、紫電が拡散するように放出、海斗を感電させ吹き飛ばす。
海斗は地面を転がったが、すぐに態勢を立て直す。
「痺れた。クッソ、あぶねえな」
「運のいい野郎だぜ」
スカピーノは、落ちた海斗のナイフを蹴り飛ばす。
海斗は、感電する前にナイフを離した。そのおかげで宙に浮いたナイフが避雷針となり、感電を最小限にしてくれたようだ。
海斗は立ち上がり、予備のナイフを抜く。
するとスカピーノは。
「く、ははははは!! はっはっはっはぁ!! はあ……熱くなってきたぜ」
「…………」
コウモリたちが、どこからともなく集まり、上空を旋回する。
全てのコウモリが紫電を帯びる。スカピーノ自身も紫電に輝く。
「さあ、ノッて逝こうぜ、ベイベー!!」
ギターをかき鳴らすと、全てのコウモリがスカピーノと融合。
海斗は舌打ちし、ナイフを構えて言う。
「十二執政官だけが使える最終奥義、『魔性化』か」
魔性化。
魔神が生み出した十二の『災厄魔獣』と、選ばれし魔族である『執政官』の融合形態。
『蝙蝠王カマソッソ』と、『楽師』スカピーノの完全融合。
コウモリがはじけ飛ぶと、背中にコウモリの翼を生やし、コウモリが融合したことで巨大化したギターを手にし、さらに凶悪な顔付となったスカピーノが現れた。
紫電の体毛を生やし、身長も三メートル近く巨大化し、無数の牙を見せつけるスカピーノ。身体の各所に外殻のような鎧も形成されていた。
「認めてやるよ人間。いや……カイトだったか。オマエのステージ、最高だぜ。でも……ここからは、この十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ様のステージよ!! 観客たちよぉ、最高のステージは、ここからだぜェェェェ!!」
強化されたギターをかき鳴らすと、逃げ惑っていた観客たちが動きを止める。
そして、スカピーノを見て歓声を上げ始めた。
「「「「「スカピーノ!! スカピーノ!! スカピーノ!!」」」」」
「イェイィエイ!! さあ、ノッテくぜベイベー!!」
「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」
スカピーノの歌に、歓声が上がる。
海斗は舌打ち。流れが変わりつつあった。
そして、それでも笑って言う。
「変わらないね」
「あぁ?」
「さっきも言っただろうが」
海斗は、手で骨を弄びながら、邪悪に微笑んだ。
「ここからのシナリオは、俺たちが決めるってな」