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十二執政官序列十一位『楽師』スカピーノ⑥

 イザナミは、キーボード担当のミーティムと向かい合っていた。

 ミーティムはコウモリに支えてもらい、予備のキーボードに指を這わせている。対してイザナミは、長刀を手にしたまま、静かにミーティムを見ていた。

 ミーティムはニヤリと笑う。


「くふふ、こんな魔族のステージのど真ん中で、たった六人だけで喧嘩売る人間なんて初めて。状況はあんまりよくないけど~……興奮しちゃうわ」

「……そうか」


 それだけ。ミーティムは眉をピクリと動かし、イザナミをジッと見る。

 そして、髪に隠れて見えにくい片方の目が見え、ニヤリと笑う。


「あんた、混血人? その目の色……人間じゃないねえ?」

「……そうだ。私は混血人……」

「ふ~ん。じゃあ、ザンニ様のところから逃げて来たんだ~?」

「……ああ、そうだ。私は……逃げて来た」


 十二執政官序列六位、『悪童』ザンニ。

 混血人の地域を支配する執政官。イザナミが初めて戦いを挑んだ執政官であり、徹底的にいたぶられ、敗北した魔族である。

 イザナミは、静かに目を閉じて言う。


「私は、弱かった……だからこそ、強くなろうと戦い、鍛えた」

「そ~いえば、聞いたことある。六位以下の執政官が管理する領地の魔族に喧嘩売ってるヘンなヤツがいるって」

「ああ、私のことだろう」


 イザナミは、静かに歩き出す。

 ミーティムも、さりげなくイザナミと距離を取る。

 喋りながら、ミーティムは背中に冷たい汗を掻いていた。


(何、コイツ……)


 不気味。ただ、それしかなかった。

 ミーティムは、何度か上位の執政官に会ったことがある。これまで会った中で一番の実力者は、序列八位『森獣』ジャンドゥーヤだ。だが……目の前にいるイザナミは、それ以上に不気味さがあった。

 剣の鞘を掴んだまま、抜刀する様子がない。

 ミーティムは、キーボードを弾き、同時にコウモリたちも音波を発生、ミーティムのキーボードの音が、甲高い音を奏でた。


「『不快音響(ノイズハーメルン)』!!」


 黒板を引っ掻く、ガラスを引っ掻くような音が数百倍にも増幅したような音が、コウモリたちが音波で音を反響させ、イザナミだけに聞こえるよう響かせる。

 イザナミは目を閉じ、耳を押さえた。


「う……」

「あはは!! まだまだ演奏は始まったばかり、脳が溶けるまで聞かせてあげる!!」


 ドン!! と、気付いたらミーティムのキーボードが破壊されていた。

 何が起きたのか理解できなかった。


「え?」

「……うるさいのは、嫌いだ」


 イザナミが、一瞬で接近し、納刀したままの刀で対象を殴る『銀打』でキーボードを破壊したと、ミーティムは気付くことはなかった。

 ドッと汗が流れる……至近距離で対峙して完璧に理解した。

 このイザナミの刀は、スカピーノの命に届く、と。

 イザナミは、銀拵えの鞘、柄の刀を構え、柄にそっと手を乗せる。


「私は、竜人、鬼人、そして人間……三種の混血」


 イザナミの髪色が、白くなる。

 赤いツノが生え、両腕に竜鱗が浮かび上がり、牙が生え、瞳の色も深紅に染まった。


「この刀は……私の竜人としての牙と鱗、鬼人としての角を使い、人間の技術で作られた刀。その名も……『鬼龍』」

「──スカピーノ様、逃げ」

「竜が啼き、鬼が笑い、人が憂う……」


 ミーティムが危険を知らせようと叫ぶ前に、すでに抜刀された。


「『龍閃華』」


 放たれた一撃は、ミーティムを両断……ステージを照らす照明を両断した。

 両断した照明が観客席を直撃、魔族が何百人か押しつぶされた。

 イザナミは刀を納め、すでに塵となったミーティムの残滓を見つめて呟いた。


「静かな歌なら……最後まで聞いたのだがな」


 ◇◇◇◇◇◇


 ヨルハは、デルダが放つ拳のラッシュを回避しつつ、双剣で細かいダメージを与えていた。

 デルダは完全な格闘家。鍛え抜いた身体、魔力による身体強化をメインに圧倒的な力で押しつぶすパワーファイター。

 ヨルハは、刀を三本合体させて巨大手裏剣を作り、投擲する。


「『三剣手裏剣』!!」

「ぬるいわ!!」


 バチン!! と、手裏剣を軽く薙ぎ払われ、バラバラになって壁や床に刺さる。

 ヨルハは低い態勢のまま、腰に差していた脇差を構える。


「ガキが、魔族の将軍であるオレに適うと本気で思っているのか!!」

「ああ、そのつもりだ。拙者、お前の底を見た……そろそろ、本気で狩るとしよう」

「舐めるなよ、貴様など……」


 と、ヨルハはデルダの返答を最後まで聞かず、両手で印を結ぶ。


「『もののけ忍術』」

「死ね、ガキ!!」


 デルダが接近し、全力の振り下ろしが放たれた。

 岩をも砕く拳。直撃すれば、華奢なヨルハはまず即死。

 だが、ヨルハは真正面から迎え撃つ。


「火遁、『灼熱放火の術』!!」

「なっ、っぐぁぁぁ!?」


 ヨルハが火を噴いた。

 しかも、ただの炎ではない。まるでドラゴンのブレスのような、強烈な威力だった。

 デルダの腕が焼けただれ、その痛みに床を転がる。


「ぐおおおおおおおおお!? な、何だ今のは……はっ!?」


 すでに、ヨルハは三本の剣を回収。再び合体させて投擲する。

 そして、再び印を結ぶ。


「風遁、『竜巻螺旋の術』!!」


 剣に風が纏わりつき、回転力が増した。

 カマイタチ……デルダは、触れただけで身体が引き裂かれた。

 ヨルハは巨大手裏剣をキャッチし、一瞬で分解し、三本のうち二本を投擲。デルダの両腕に突き刺さると、そのまま壁に縫い付けられた。

 そして、最後の一本を手にしたヨルハがデルダの心臓に剣を突き刺す。


「っが……き、さま、何、を」

「『もののけ忍術』、拙者の必殺技だ。拙者のジョブは『傾奇者』……拙者は、一度見た生物に変化することができる。そして、生物であれば何でも変化できる。例えば……ドラゴン。風魔法を操るグリフォンなど、な」

「……ま、さか」

「そうだ。拙者は、口の中をドラゴンの口に変化させた。剣に拙者の血を付け、その血をグリフォンの翼に変化させ風を発生させた……ふ、部分変化は特に疲れる技なのだがな」

「……く、そ」

「お主の姿、使わせてもらうぞ」


 ヨルハは、消滅したデルダの姿へと変わり、指令室にあるマイクに向かって言う。


『全軍に次ぐ、戦闘行為を避け、全軍ただちに本部へ戻れ。これは最重要命令である』


 ドワーフの反乱を後押しすべく、ヨルハは『最高司令官デルダ』として魔族の軍に命令を送るのだった。

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